No.598:相手に合わせるな。自社が「選ばれる理由」をつくれ
K社長から、こんな相談がありました。
「これから、AI導入支援をやろうかと思っています」
そこで私は、どのようなサービスかを尋ねました。
すると、「企業から相談を受けて、その会社に合ったAIの活用方法を提案し、導入までを支援します。」とのことでした。
私は言いました。
「それは、以前やっていたシステムの受託開発と同じですよね。」
頭の良いK社長です。この一言で理解され、天を仰ぎます。
「あちゃー」
AIという看板を替えただけでは、事業は変わらない
AIという新しい分野に進出することが悪いのではありません。むしろ市場は爆発的に拡大しています。そして、多くの分野では、まだその勝者は決まっていません。
本当の問題は、「誰の、どの課題を、どのようなサービスで解決するのか」という事業定義が決まっていないことです。
「AIに関する相談なら何でも受けます」では、顧客の要望に合わせて、その都度サービスをつくることになります。これでは、従来のシステムの受託開発と構造は変わりません。
顧客の要望に合わせることは、一見すると「親切」です。またそこに市場があることは、間違いありません。しかし、それでは、「大きくすることはできない」のです。
案件ごとに、顧客も課題も提供内容も違えば、毎回ゼロから考えることになります。それが『クリエイティヴな仕事』となります。その都度、提供する社員にクリエイティヴな対応が必要になるのです。
そして、案件ごとに内容が違えば、ノウハウが積み上がりません。サービスを標準化すなわち仕組化できず、社員にも任せられません。
また外から見ても、「この会社は、何が得意なのか」、「どのような課題なら、この会社に相談すればよいのか」が分かりません。その時には、社員までもが「自分たちは何屋なのか」という状態になっています。
その結果、社長や一部の優秀な社員に、案件が付くようになります。その一方で、その他大勢の社員は活躍できなくなります。それでも、十分会社は儲けることはできます。
しかし、大きくはなりません。それ以上に、5年後、10年後にも、何も積み上がっていない会社になります。
相手に合わせたサービスをつくる会社は、売上をつくることはできても、事業をつくることができません。それは、事業ではなく、案件をこなしているだけなのです。
「対応力がある」という評判が、社員を苦しめる
そして、相手合わせをしていると、その評判の結果、紹介が増えてきます。満足したクライアントは、「K社は、対応力がすごい」、「K社長は、なんでも実現してくれる」という言葉で、他の会社(社長)を紹介してくれます。
その時の事前期待は「なんでも解決してくれる」です。
その結果、更に「相手合わせ」が強化されることになります。
この時、一瞬社長の頭に「これ受けるとまた自分が忙しくなるなぁ」とよぎります。
しかし、「紹介だから断れない」、「せっかく相談されたから、何とか応えよう」と人の良さを抑えられません。また、苦しい過去の経験もあります、来たものは反射的に食べてしまいます。そして「相手合わせをやめよう」という決意は消えることになります。
益々、世の中からは「この会社は何が得意なのか」、「何を頼めばよい会社なのか」が見えなくなります。ホームページの謳い文句も、「技術力」「対応力」「提案力」です。
その結果、益々、自社の集客力は落ちることになります。そして、益々、紹介に頼らざるを得ない状態になっていくのです。
紹介で仕事をいただくこと自体は、悪いことではありません。むしろ、いままでの頑張りの成果であり、信頼の証しです。
ただし、その紹介のされ方が悪いのです。「なんでも屋」ではダメなのです。
紹介されるときの、正しい言葉は以下になります。
「〇〇で〇〇の課題を持った人の、この会社の、〇〇のサービスはいいよ。」
一つの課題、一つのサービスで、紹介されたいのです。
顧客、課題、サービス、価値を決める
事業をつくるためには、まず次の四つを決める必要があります。
・誰を顧客にするのか。
・その顧客の、どのような課題を解決するのか。
・そのために、どのようなサービスを提供するのか。
・そして、どんな価値を実現するのか。
「AI導入を支援します」では、広すぎます。そして、相手合わせです。
事業とは、本来、「これを買ってください。あなたの課題は、これで解決できます」という形になっていなければなりません。
例えば、
「多店舗展開しているサービス業の、問い合わせ対応をAIで省力化する」
「中小建設会社の、見積書作成をAIで効率化する」
「営業会社の、提案書作成をAIで標準化する」という具合です。
要するに、サービスをパッケージ化するのです。
サービスを、物販のように売れる状態にするのです。
これは、AIでも、システムでも同じです。
冒頭のK社は、昔システムの受託開発を行っていました。そのときに経験した苦しみを、今度はAIという看板で、もう一度繰り返そうとしていたのです。
自社を売る前に、顧客の判断軸をつくれ
顧客、課題、サービスを決めたら、次に行うことがあります。
顧客に、「どのような基準で会社や商品を選ぶべきか」を教えることです。
「この課題を解決したいのであれば、価格だけで選んではいけません」
「導入実績ではなく、業務を標準化できるかで判断してください」
「システムの機能ではなく、導入後に社員が使い続けられるかを見てください」
というように、選ぶ基準を示します。
そして、その基準で比較したときに、自社が選ばれるようにするのです。
単に、「うちの商品は優れています」、「うちは丁寧に対応します」と言っても、顧客には違いが分かりません。すべての会社が、同じようなことを言っています。
その結果、違いを明確に示した会社に案件を取られることになるのです。
自社が優れていると主張するのではありません。
自社が選ばれる判断軸をつくるのです。
これが、「選ばれる理由」を持つということです。
事業定義が、仕組みと組織を決める
会社を変えるのは、新しい商品ではありません。
「私たちは、誰の、どの課題を、どのように解決する会社なのか」
という事業定義です。
事業定義が明確になると、受ける仕事と断る仕事が決まります。
売るサービスが決まり、営業方法が決まり、必要な仕組みが決まります。さらに、そのサービスを展開するために必要な人材と組織も明確になります。
反対に、事業定義が曖昧なままでは、仕組みも組織もつくれません。どんな仕事が来るか分からない会社に、標準的な仕事の進め方をつくることはできないからです。
一つを売り、一つの軸で選ばれる会社になる
相手に合わせてはいけません。
相手に選ばせてもいけません。
自社の商品を欲しがる相手を集め、その一つを売るのです。
そして、その一つを磨き続けます。繰り返し提供することで、ノウハウが蓄積されます。仕組化され、社員に任せられるようになります。品質が上がり、成果が出るようになります。
その結果、その一品は最高級のものになります。
これ買え
この軸で選べ
です。
何でもできる会社を目指す必要はありません。いえ、目指してはいけません。
一つの課題に対して、一つの軸での評価で、最も選ばれる会社になるのです。
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矢田 祐二
理工系大学卒業後、大手ゼネコンに入社。施工管理として、工程や品質の管理、組織の運営などを専門とする。当時、組織の生産性、プロジェクト管理について研究を開始。 その後、2002年にコンサルタントとして独立し、20年間以上一貫して中小企業の経営や事業構築の支援に携わる。
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