No.83:営業が売上低迷の理由に「景気」を挙げたら、自社の戦略を疑ってください
「矢田先生、我が社の営業会議に参加して、ぜひご意見を頂きたい』
社員数120名ほどの製造業
社長からの相談です。
社長のその意図としては、売上不振についての営業担当のコメントが気に食わない、そして、それを強く指摘していいものか、と迷っているとのこと。
私は、ある程度の予測を持ちながら、参加をさせて頂きました。
会議での営業担当の発言
「中国経済の影響が大きく、タイを含む周辺アジアも悪くなっている。日本への生産が戻るかと考えていましたが、アジアでは仕事が減り、無理して受注するため値下げ合戦が起きている」
と不振の理由を挙げました。
1時間半ほどの会議が終わり、社長室に通されます。
社長 「先生、いかがでしたか?ああやって、いつも景気や業界を理由にします。でも、営業担当にあの手の理由を言われると、強く結果を攻めるわけにもいきません。」
矢田「このような理由付けは、昔からですか?」
社長「そうですね、売上が下がると必ず、景気が・・・取引先が・・・と言っていました。」
矢田「売上が上がっている時も、同じはありませんか?」
社長「・・・・は・・はい、そうですね。 売上が多い時にも、取引先の状況が良い・・・など理由を挙げていますね・・・」
矢田「根本的に、そこが間違いです。これは、営業担当の責任でも、景気の責任でもありません。景気が、、、取引先が、、、などの理由付けから、会社としての『戦略』が間違っていることが予測されます。それとも、営業担当が、自社の売りや提供しているものを正しく認識できていないかです。 」
ビジネスには、「戦わない」という鉄則があります。
ライバルと戦わない
大手と戦わない
時代と戦わない
戦えば、必ず、価格の勝負や品揃え、規模の勝負になります。
中小企業が生き残るためには、その市場には立ち入らず「戦わない」戦略をとる必要があります。
日用品や大量生産ものは、大手企業や海外に任せて、我々中小企業は、戦いの無いところで相手に気付かれないよう、静かに戦うことが重要です。(これは皆さんよくご存知の話ですね。)
ですから、先の営業担当の
「景気が・・・」
「業界が・・・」という発言は、戦っているのを宣言していることを意味しています。
『私たちは、景気に左右されるような、広い市場で戦っています。』
『ライバルである、大手や海外と戦っています。』と。
これはそのまま、規模や価格での土俵に自社がいることを意味します。
この原因は、大きく2つ考えられます。
一つ目は、実際に戦略がそうなっているのかもしれません。
技術のいらない量産物やモノ売りになっているため、自社の売りが多くのライバルと同じになっているのかもしれません。そうなれば当然、市場動向に大きく影響されることになります。
二つ目は、営業担当が自社の戦略を解っていないこともあります。
・顧客が本当に何を買っているのか。
・自社が何を売っているのか。
「ドリルを売るのでなく、穴を売れ」という話があります。顧客は穴がほしい、ある会社はそのためにドリルを売っていたが、レーザー加工にその市場を奪われ倒産した。
我々は、顧客にモノを売っているのでなく、顧客の困りごとを解決しているのです。
モノを売っていると価格の戦いになります、顧客の欲求を満たす、だから多くの金額が取れるのです。
1本のバナナを売れば20円ですが、贈答品としてフルーツの籠盛にするから原価400円のものが価格2000円で売れるのです。
その自分たちが提供する価値を自覚していること、顧客に正しく認識させること。
戦略とは、どの価値を攻めるか、市場の選定が重要になります。
上記のことが解った会社の営業会議では、営業担当の発言が根本的に違うものになります。
発言の中心は、どんな顧客の欲求に、どうアプローチするのか、になります。
「この市場(価値)は、予測より大きくありません。」
「自動車業界よりも、中堅規模の農業機械や建設機械業界を攻めてはどうでしょうか。」
「顧客は、補修部品の確保のコストに課題もあるようです。今後この問題は・・・」
「先方の社内の稟議用資料として、〇〇教授のデータの資料を入れたらどうでしょうか」
営業会議で「景気が・・・」「業界が・・・」などの発言は完全な的外れなのです。戦略が間違っているか、営業担当が正しく認識していないかです。
モノ余りとは、生産能力の過剰を意味します。
世界中では、いまもどんどん新しい工場が出来ています。それも、人件費が我が国の10分の1の地です。これからも増え続けるのです。
モノで戦えば消耗戦になり、必ず負けます。
戦う場所を間違えてはいけません。認識を間違えてもいけません。
強いビジネスは、景気の上下ではなく、時代の流れの『先読み』で大きくなります。
営業が売上低迷の理由に「景気」を挙げたら、自社の戦略を疑ってください。
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