No.181:怠惰な社員、やる気のない社員をどう変えればいいか?と考えていること自体が危険!強い会社が必ず持つ退場力とは?

コラム№181

「先生、以前ご相談させていただいた社員さん、本人のほうから退職の意向がありました。」
 
暖かい部屋に入り、矢田は脱いだコートを畳んでいました。
販促支援サービス業のT社長の挨拶後すぐの言葉です。
 
「そうですか、それは良かったですね。」
 
「はい、良かったです。これで、少し気が楽になりました。退場の仕組みがきちんと機能したようです。」


コンサルティングが始まると、必ず受ける質問の一つに次のものがあります。
 
「どこまでを仕組化すればいいですか?」
 
人の特性には、「怠ける、忘れる、間違える」というものがあります。
この特性を前提にし、予め仕掛けをしておくのが、『仕組み』であるといえます。
 
スーパーマーケットのトイレに、掃除のチェック表を貼ります。
現場の調査シートに、確認すべきことをフォーマットとして入れておきます。
他部門や外部機関に、定期的な会計監査や店舗監査を依頼します。
 
これらの仕組みは、対「人」に施された仕掛けです。
仕組みとは、「人」がいるところに必要となるものです。そして、「人」が増えるところに、仕組みは増設されることになります。
 
創業したばかりの社長一人の時には、仕組みは必要ありません。しかし、最初の一人を雇えば、必ず仕組みが必要になります。そして、人を増やしていけば、社内には、それだけ「怠ける、忘れる、間違える」という芽が散在することになります。7名には7名なりの仕組み、20名には20名の仕組みが必要になります。
 
その適時に、その規模にあった仕組みづくりに向かわなければ、どうなるかは、これまでもお伝えしてきた通りです。
 
そして、この仕組みづくりを進める時に、絶対に持っておかなければならないものが、「誰を基準にするか」です。
優秀な人材、並みの人材、アルバイト・・・という具合に、そのレベルに合わせ仕組みをつくっていきます。その基準を明確に持っていないと、仕組みは膨張し続けることになります。
 
イベントスタッフ派遣会社
お客様企業からの依頼で、スタッフを展示会やイベントに派遣します。その派遣するスタッフは、登録制のアルバイトです。
数名の派遣スタッフが、現場に遅刻するという問題が起きていました。何度注意しても、時間が経つとまた遅刻します。
 
そこで、「家を出る時に、事務所に電話をするように」とルールを決めました。
最初はこれが抑止力になったのですが、それでも遅刻が発生しました。
次は、「起きたら電話をすること」と修正しました。それでも、電話した後に2度寝するため、遅刻はなくなりませんでした。
そこで、「起きた時に電話をすること。そして、その10分後に事務所から確認の電話をする」ように決めました。
 
これは、冗談のようですが、本当にあった話です。
このように、仕組みは増えてきます。そして、管理も増えてきます。
特に、その「怠ける、忘れる、間違える」という特性を強く持った人に基準を合わせると、その仕組みはより細かくなり、管理を強くすることになります。そして、それはそのままコスト高になります。
 
 
「どのレベルの人」に基準を合わせるのか、それを明確に持つ必要があります。
その基準は、自社の事業の特色から決めることになります。また、自社の採用力も念頭に置く必要があります。
そして、それに合わせ仕組みをつくることが重要です。
 
これを言い換えると「当社の仕組みを回せられない人はいらない」ということになります。評価基準を得ることができます。
その基準に合わせ、採用をすることになります。また、状況をみて、早期に退場をしてもらう判断が可能になります。
 
「事業の明確な定義がない」と当然、「必要な人」という基準が定まりません。
そして、仕組化が進まなくなります。また、整備しなければならないマニュアルの量も膨大になります。
そして、評価制度も固まらず、退場の判断もできなくなります。
それに「採用力が弱い」状態だと、その傾向に拍車をかけることになります。
 
「このような特色ある事業をやるから、このような人材が必要である」という繋がりがあり、それを前提に仕組みを作っていくのです。


ここに悲劇とも呼べる間違いが起きます。
 
我々「企業」が持つ本来の仕組みづくり(仕組化)を進める『目的』を見失ってしまうのです。
 
その仕組みづくりの目的は、「仕事熱心な社員が益々働きやすくなる。その力を十二分に発揮できるようにする。」ところにあります。優秀な人材のためにあるのです。
 
それを間違えてしまっている企業は少なくありません。
「怠惰な社員が、やる気を出し、仕事に真面目に取組むようにする」と。これは、間違いです。
 
仕組みには、この両面があります。どちらも必要です。どちらが自社に重要なのか、見極める必要があります。
 
我々「企業」に必要なのは、圧倒的に前者となります。
優秀な人材のために、仕組みはあるのです。仕事をバリバリやりたい人のために会社は存在するのです。
決して、怠惰な人間のために仕組みがあるわけではありません。嫌々働いている人のために会社という場を提供しているわけではないのです。
 
ここを間違えると、社内は、仕組みだらけになります。怠惰な人間のために、仕組みもマニュアルも増えていきます。
そして、その怠惰な人間のために、職場には、チェックシートやルールが増え続けます。そして、管理が増え、管理者や社長の手間や気苦労は尽きなくなります。
仕事を依頼する時や要求する時に、ご機嫌取りまでが必要になります。
 
 
研修はその典型です。
研修とは、誰のためにあるのか。
それは明確です。仕事熱心な社員のためです。
「伸びる社員」、「伸びたいと思っている社員」にその機会を提供するのです。
責任をもっと背負いたい、もっと貢献したい、自分も成長したいと思っている、これが外部の研修などの機会を与える基準となります。
 
「伸びない社員」、「伸びたくない社員」を、高い費用をかけて研修に行かせる理由はないのです。
間違えると、「怠惰な人間が、やる気を出して、真面目に働くようにする」ために、研修に行かせるということになります。


仕組化も、研修も、ダメな人間に向かってはいけません。
それらは、仕事熱心な人間のためにあるのです。
 
それらの目的や基準を、「怠惰な人間」にするのか、「仕事熱心な人間」にするのかでは、全く作りが違ってきます。
 
また、社長の意識までもがその「怠惰な人間」に向かってはいけません。
 
冒頭の販売支援サービス業のT社長は、毎日、一部の「怠惰な社員」に悩んでいました。朝出社する時の元気のない挨拶とだらしがない服装、報告や相談がなく社長自らが取りに行く毎日、指示したことを守らない、、、その態度の不味さを本人に『気づいてもらう』ために、外部の高額な研修に行かせ続けました。
そして、数日経って提出されたレポートを見て落胆をします。
 
 
T社では、その社員が「基準」になっていました。
マニュアルを作成するときには、その社員の顔を浮かべながら書きます。
研修を選ぶ時には、その社員の欠点を補完するためという理由です。
 
T社長の心までが、その怠惰な社員に囚われていました。私に寄せられた質問が、「どうすれば彼を変えられるのか」です。
 
 
その一方で、犠牲者がいました。それは、優秀な社員です。
その怠惰な社員に合わせたため、マニュアルやチェック表が増え、業務ボリュームが増えてしまいました。
人材派遣会社では、一部の怠惰なスタッフのために、その他の多くのスタッフもが電話をすることになりました。本部社員も電話の手間が増えました。
これらは、本来いらない業務です。
 
そして、優秀な社員は、研修に、「もうできている」ことを学ぶために参加することになりました。そんな社員は、それでも翌日出されるレポートには、「大変勉強になりました。〇〇の業務で活かしたい。」と前向きなことと感謝まで書いてくれています。
 
 
優秀な社員には、もっとレベルの高い研修に行かせるべきです。
望まない社員や、怠惰な社員を研修に行かせる必要はありません。
研修はご褒美です。社員全員を平等に、研修に参加させようと考えるのは間違いです。
社長がコミュニケーションをどんどん取らなければいけないのは、その優秀な社員です。コミュニケーションも均等ではないのです。
 
犠牲にしないでください。
社長の思考が、「怠惰な社員」に向かっている間に、優秀な社員が犠牲になっています。そして、やる気を失っています。
怠惰な社員に対し「答え」を出さない社長の姿を見て、会社への不信と将来への失望を募らせています。そして、会社を去っていきます。
 
 
T社では、仕組化を進めました。
マニュアルや業務の見える化、期待される態度と各役割の再定義を行いました。
また、採用基準と研修制度の整備を行いました。
「呪縛」から解放された社長は、それらを、スピードを持って進めることができました。
 
そんなある日、ある社員から、退職の申し出がありました。
過去に自分の頭を占めていたあの怠惰な社員であることを思い出しました。
本人は、「本当にやりたいことがある。」と言っていますが、きっと居づらくなったのです。退場の仕組みが働いたのです。
 
 
事業定義を明確にすること、そして、仕組化、人材要件とすべてが繋がっています。そして、それを支える採用力と退場の仕組み。
 
強い会社は、採用力と退場の仕組みを持っています。
そして、その運用を厳格に行います。
 
優秀な社員がより活躍できる仕組み、怠惰な人間が居づらくなる会社をつくるのです。

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