No.182:「人材が集まらない」会社は、同時に「仕組みづくりが進まない」という課題も持つ。そこにある根本的な『弱さ』とは?

コラム№182

「矢田先生、今回も、多くの応募がありました。」
 
設備メンテナンス業F社長から、採用に関する提言のお礼を言われました。
募集をかければ、安定的に、ある一定数以上は問い合わせがきます。
 
しかし、F社長の顔は、そんな様子ではありません。
 
「数は多いのですが、どうも違うのです。やる気がないと言うか、熱意がないと言うか。何かアドバイスを頂けますか?」
 
私はお答えさせていただきました。
 
「採用に関しては、これ以上改善できる点はありません。」


「我社は、何者か?」
 
この定義はすごく重要です。
残念ながら、この重要性を理解されていないために、仕組化が進んでいない会社が多くあります。
 
よく「事業は絞るべきだ」という意見があります。
その理由には、大きく「外向き」と「内向き」のものがあります。
 
外向きの理由とは、顧客や市場からの観え方です。
事業を絞ることで、以下のような効果を発揮することができます。
・その分野の専門家(プロフェッショナル)と観られる。
・よりニーズに合った見込客が集まる。
・マーケティングは絞られ、広告効率が良くなる。
 
絞らないと逆の効果を得ることになります。
・何でも屋として見られる。
・見込客のニーズがばらける、引きが弱くなる。
・宣伝広告は、広くコスト高で、響かなくなる。
 
これを下記のように並べると瞭然です。
 
コーヒー豆の専門商社 ←→ 食品商社
海洋土木業 ←→ 総合建設業
学校法人設立コンサルタント ←→ 経営コンサルタント
 
当然、どちらがよいというわけではありません。
現在の自社がどういうポジションにあるのか、シェアやエリア。また、今後どういう特色を強化していくのか。そして、社長としてどういう事業をやりたいのか。
それらの視点から、どれぐらい絞るかを決めることになります。
 
ただし、セオリーとしては、創業初期や中小企業は、前者の絞った「コーヒー豆の専門商社」を選ぶこととなります。後者の「食品商社」は、体力がある企業の戦略となります。または、その市場(地域)が閉ざされている場合の戦略となります。
 
創業初期や中小企業は、この「絞ること」の効果を、十分に受託する必要があります。絞る「だけ」で、専門家として観られることができます。
本当はその実力を伴っていなくても、絞る「だけ」で、そう観えてしまうのです。
これを利用しない手はありません。
 
しかし、多くの中小企業は、この絞ることの効果を投げ捨てているのが現状です。
名刺交換をすれば、「建設業」や「コンサルタント」、「ソフト開発業」としか書いてありません。
そして、お客様と挨拶をする時も、自社のことを、「唯」の〇〇業と伝えます。
そこに、「□□に強い〇〇業」という言葉はありません。
 
そして、お客様に対し「何かお困りごとはありませんか?」と問うことで、お客様からの観え方を自ら「総合」に導いてしまっています。もっと酷いと、お客様からの「こういうことできますか?」の要望に応えようと、専門外のメニューを増やすことをします。
 
強い商売は、顧客を選びます。
一部の強いニーズを持った顧客のほうから、売ってくださいと来てもらいます。
我々は、顧客を選びたいのです。顧客から選ばれたいのです。
 
ある分野の専門で創業したはずが、自ら崩しているのです。
創業当時はシンプルでも、10年も経つと複雑化している会社は多くあります。
そして、「シンプルな時代のほうが儲かった。」と嘆いています。
 
 
そして、この絞ることは、「内向き」にも大きな効果を発揮します。
実は、この「内向き」の効果にこそ、絞ることの本質があります。
 
・社員の専門性が高まる。
・業務が効率的になる。
・在庫が少なくなる。
など、いくらでも上げることができます。
これらを一言で表すと、下記のようになります。
 
「その絞ったものに、内部のすべてが引っ張られる」
 
絞った事業に、仕組みも人も引っ張られることになります。
正確には、その『イメージ』にです。何もかもが、その『イメージ』に引っ張られます。
 
当社は、「コーヒー豆の専門商社」と定義します。
絞れている感じはしますが、まだイメージを描けるほどではありません。
そこで、「本当においしいコーヒー豆の専門商社」と再定義します。
これによりイメージがより鮮明になりました。
 
このイメージが描けると、「本当においしいコーヒー豆をお客様に提供するため」に、社内のすべての仕組みが整備されることになります。
鮮度を保つために在庫はどうあるべきか、小売用のパッケージ素材はどうするのか、コーヒーの生産農家に対しての要求も高くなります。
 
そして、社員は、コーヒー豆やその周辺を勉強しようとします。休みの日には、おいしいと評判の喫茶店やコーヒー機器店を覗くようになります。社内で定期的に試飲会を行い、真剣に議論をするようになります。
 
そして、新たな仲間を募集すると、「コーヒー好き」が寄ってくるようになります。
 
その一方で、そのイメージから外れる仕組みや人は、排除されるようになります。
「安売り」をテーマにした議題はあがりません。そこには、「品質を下げる」という迷いもありません。
そして、コーヒーに興味がない人は、その場に居づらくなります。そして、去っていきます。
気づくと、そこは一種のカルト集団のようになっています。
 
 
仕組みも人も、ある「イメージ」によって引っ張られることになります。
「イメージ」で、引っ張られてしまうのです。
社長は、ある意図を持って「イメージ」を打ち立て、その通りに引っ張るのです。
そして、カルト集団に近い組織を作るのです。
 
強い会社は、どこもカルト的です。社員全員が「オタク」です。
社内でも居酒屋でも話すテーマは、そればかりです。そして、そんな状況を楽しんでおり、かつ、そんな自社を誇りに思っています。
 
 
社長は意図を持って「イメージ」を打ち立てるのです。
 
書籍の事例で上げた建設関連業T社は、「我々のお客様は、大手ゼネコンである」というイメージで、引っ張ることを意図しました。それにより、品質や安全の規準はもちろんのこと、作業員の態度や服装までが、決定されました。
そして、その一方で多くの人が「合わない」と去っていきました。
 
「何」で引っ張るのか?
貴社は、どんなイメージで、仕組みや社員を引っ張っていますか?
この引っ張る先を決める必要があります。明確にする必要があります。
 
多くの「お客様の種類」の要望に応えることで、イメージはぼやけ、仕組みも社員もどっちに向かえばよいか迷うようになります。
 
総合建設業、設備設計業、ソフト開発業、ホームページ制作業、飲食業、、、、
どれもイメージが持てません。イメージを持たせるためには、「〇〇に強い!」それも「〇〇に圧倒的に強い!」という打ち立てが必要となります。
 
それが仕組みづくりのスタートになります。そのイメージに向けて進化が始まります。このイメージがない時には、進化は起きません。


「我社は、何者なのか?」
 
企業の「採用力」は、根本的にこの定義によって決定されます。
この定義が、魅力的であれば、強烈であれば、それに合致した人が寄ってきます。
それが弱ければ何となくの人が寄ってきます。
 
イメージに吸い寄せられるのです。
 
「本当においしいコーヒー豆の専門商社」とすれば、「コーヒーオタク」や「大学でそれを専攻した人」が寄ってきます。
「食品商社」とすれば、やはりそれなりの人が来ることになります。これが世間に名の知れた企業ならいいのですが、「唯」の中小企業では、本当にそれなりの人が来ます。
 
 
冒頭の設備メンテナンス業F社は、自社のことを「設備メンテナンス業」と定義していました。
このイメージです。このイメージだから、それなりの人しか来なかったのです。
「設備のメンテナンス」から持つイメージは、「工場」、「作業着」、「油」です。募集にお金をかければ、作業員的な人からの応募が、数名ある程度でした。
 
そこで、ホームページや採用媒体の見直しを行いました。
会社の明るい雰囲気が解る写真や、社長の考え方をしっかり発信しました。
それにより、数は多く集めることができるようになりました。
みんな、明るくて、人として魅力的ではあります。選ぶことができます。
しかし、そこに、「オタク」的な要素を持つ人は、見当たりませんでした。それを、F社長は、「物足りない」と感じていたのです。
 
F社長は、事業方針として、「生産設備の自動化」の分野を強化することを決めていました。だから、欲しい人材は、オタクでした。それも、設備の自動化のアイディアを考えるために、寝食を忘れて取り組むような人材をです。
 
それは、まさに「社長」自身のことでもあります。
社長は、社員と共に設備について白熱した議論ができるような会社にしたいと思っていました。社員同士が図面を前に知恵を絞っている風景を、自社で見たいと願っていました。
 
そこで、自社の定義を、「生産設備の自動化コンサルタント」としました。
今現在の売上げの多くは、従来通りの「油」の臭いがするメンテナンスが占めています。しかし、これから変わってきます。
実際に、応募は、「自動化についてもっと勉強したい」という意欲を持つ、機械設計やプログラムの経験者や学生ばかりになりました。彼らは、自腹で専門書を買うことを当然として生きています。
社長と同じ技術バカばかりです。
 
 
自社をどう定義するのか、
「設備メンテナンス業」か「生産設備の自動化コンサルタント」か。
「食品商社」か「コーヒー豆専門商社」か、それとも、「本当においしいコーヒー豆の専門商社」か。
「土建屋」か、「ゼネコン」か、「海洋土木専門」か。
 
この定義によって、その会社の採用力は決まってしまうのです。
 
根本的な「唯」の〇〇業では、人材は来ないのです。例え、採用ツールの改良や媒体にお金をかけても、いい人は来ても、人材は来ません。
 
優秀な人材ほど、こだわりを強く持つものです。だからこそ、こだわりの強い会社で働きたいと考えます。こだわりのある同僚とガチで仕事をしたいと強く願うのです。
 
そのイメージの発信なしに、人材は得られないのです。
 
その分野に興味のある人を集める。そして、望み通り最先端のノウハウや知識を与える、没頭できる環境を提供する。そして、更に挑戦できる目標を与える。
そんな彼らに、やる気のマネジメントは不要です。そして、会社はその分野で、更に強くなります。
この好循環をつくるのです。
 
興味の無い人を集める。そんな人にとって、最先端のノウハウも知識も、退屈に映ります。そして、与えられた目標は、ただの苦痛になります。
そして、やる気のケアが必要になります。
この悪循環にはまってはいけません。
 
 
すべては、社長が描くイメージによります。
「我社は、何者か?」
 
社長の打ち立てるそのイメージこそが、仕組みづくりと人づくりのスタートになります。そして、年商10億、20億という発展と、この先百年続く会社の歴史のスタートになります。

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