No.214:社長の引き過ぎ、任せ過ぎが企業の停滞を招く。社長は、社員への任せ方とその距離感を習得せねばなりません。
「矢田先生、お薦めの本はありませんか?」
広告関係サービスを展開するD社長、社員との距離の取り方が掴めずにいました。
『社長が引き過ぎた』ことが原因と考えられる現象がいくつも起きています。
新規の受注が増えない、案件の進みが遅い、業務の改善が進まない。
このような「距離感」が掴めず悩む社長は非常に多いものです。
そのような社長には、矢田は、ある『本』を薦めています。
「キングダムってご存知ですか?」
D社長は少し驚かれています。「キングダムって、あの漫画のですか?」
「はい、そのキングダムです。」
『自由にやっていいよ』が社員を動けなくする
「自由に決めて進めてください。」
「自分で考えてやってみて。」
「好きにやっていいよ。」
この言葉を社員に投げれば、社員の多くは、動けなくなります。または、相当なストレスを与えることになります。
そして、追い打ちをかけることをします。
「あれはどうなったの!」と進捗を確認します。そうすると、「出来ていません。」という回答と俯いた顔を見ることができます。
このように「自由に」、「自分で」は、社員には最も『苦手』なものとなります。
何かを決める時には、「目的」と「条件」の二つが必要
我々が何かを決める時には、必ず次の二つが必要になります。
それは、「目的(方向)」と「条件」です。
例えば、『旅行』
・候補地を選ぶためには、その旅行の趣旨(目的)が必要になります。
「ゆっくりしたい」、「美味しいものを食べたい」、「史跡を回りたい」など。
・その上で条件を確認します。
「予算は一人〇万円以下」、「車の運転はしたくない」、「土日と有給休暇を合わせ・・・」など。
この2つが有って初めて、旅行を決めることができます。
この目的も条件もなければ、旅行の検討を少しも進めることはできません。
旅行の幹事は、まずは、メンバーとこの趣旨と条件の合意を得ておく必要があります。
これは、我々の業務でも同じです。
例.DM制作業者を選ぶ
「そのDMの成果は、何を目的にするのか」、「どれぐらいの反響率が合格か」、「既存顧客をどのような行動に導きたいのか」。
そして、「予算はどれぐらいか」、「完成データの受け取りは必須」、「発送も一緒に依頼できるのか」。
この目的と条件があることで、DM制作業者を選定することができます。そして、その決定に対しても、チームとしての納得感を持たせることができます。
何かを検討し、何かを選ぶためには、その根拠となる目的と条件が必要になります。
社員に何かを依頼するときにも、この2つは必要になります。
もし「目的」も「条件」も与えずに依頼をすれば、社員はたちまち動けなくなります。検討するためには、目的と条件が必要であると解っている一部の優秀な社員だけが、それを訊いてきます。
その他多くの社員は、メモを取っているが、実は、次の動き方が解っていません。その結果、それを後回しにして、目の前の期限のある仕事を優先します。そして、「あれどうなったの!」と責められることになります。
社員に依頼したことが進まない一番の原因
社員に依頼したことが進まない一番の原因が、依頼の仕方が悪いこととなります。
「自由にやっていいからね」、「自分で決めていいからね」。
これほど、社員として精神的に厳しい依頼はありません。これほど、難しい依頼もありません。しかし、それを依頼する社長は、そうとは考えたこともありません。
その依頼を、正しいと思っています。疑ってもいません。
その理由は、明白です。自分自身がそのように依頼されるとモチベーションが上がるからです。何をするのかを決める、それも自分で決める。これほど、やる気の起きる環境はありません。それも、すべての責任を自分で背負うことができます。
「自由にやっていいからね」、「自分で決めていいからね」。この依頼が有効な相手は、あくまでも『社長』に限定されます。
その自分の基準を、相手にも適用するのです。
その力もなければ、その権限もない社員に対してです。
自由にやれることは、社内には、何も一つありません。
自分で決められることは、事業には、いち要素もありません。
事業も会社のすべても、誰か一人によって決定されます。正確には、誰か一人が決めた『何か』により、導かれることになります。
理念や方針は、社員が判断できるようにする仕組み
その『何か』は、理念や方針であったり、条件やルールであったりという色々な形であらわされます。その『何か』に沿った判断を、社員全員ができるように会社のすべての仕組みは存在します。
経営計画書、マニュアル そして、訓練制度。そして、PDCAサイクルもその実現のためにあるのです。
任務を全うするために、社員は、その『何か』を理解する必要があります。
彼らが理解すべき対象は、「社長」ではありません。社長の出す『何か』なのです。
目的は何か。そのための条件は何か。
社長は、その『何か』を伝えてあげなければなりません。
間違っても、「自由に」、「自分で」など、丸投げをしてはいけません。それは、社員にとっては、無理難題なのです。正確には、無茶難問です。
そんな社長は、優秀な社員からは、無責任と映ります。並みの社員からは、自信を奪います。
社内のどんな業務にも、目的と条件が必要です。人は入れ替わりますが、仕組みによりそれは、引き継がれていきます。
社長の役割は、組織の大きさと能力に応じて変わる
社長は、組織の大きさに応じて、自分の役割を変える必要があります。
また、その部下の能力に応じても、その関わり方を変える必要があります。
目標の難易度に合わせ、距離を調整する必要があります。
これは、社長に限らず、管理者すべてに言えることです。
大手ゼネコンの数十億円の大きな工事現場
・施工管理の社員だけで十数名います。所長は、役所や地域、他工区への対応がメインとなります。安全大会や行政からの視察会なども頻繁にあります。
・工事実務は、ナンバー2やナンバー3の管理者が、担っています。彼らには十分な経験があり、その多くを安心して任せることが可能です。
大手ゼネコンの数億円の小さな工事現場
・所長と30歳の主任と新入社員の3名体制です。
・毎日、所長は朝礼に参加し、昼過ぎにも現場を見て回ります。計画書から積算まで、その多くに目を通す必要があります。時に、新入社員の測量手元まで、やります。
社長は、その組織の大きさとその能力に応じ、そして、目標の難易度に合わせ、自分の関わり方を変える必要があります。その関わり方を、画一的に判断することはできません。
管理者や社員が育たない理由
そこは、社長として、覚える必要があります。
社長が関わりすぎると、管理者も社員も育たなくなります。そして、社長自身も本来の社長としての業務ができなくなります。
また、距離を置きすぎると、まずいことになります。一つひとつの案件の進みが遅くなっています。気づくと売上げが減っています。また、業務の改善も進まなくなっています。社員は、実はのんびりしています。
関わりすぎても、離れすぎてもいけません。
その距離の取り方、すなわち、どうすれば彼らが能力を発揮しやすくなるかを、習得する必要があります。
冒頭のD社は、当時、社員10名ほどでした。そして、優秀な社員も見当たりません。
推薦図書は、キングダム
(キングダムとは:中国春秋戦国時代、後の始皇帝「政」が中華を統一する。少年「信」が、大将軍に成りあがる。その過程を描いた漫画。)
1か月後に、D社長から、推薦図書の感想を頂きました。
「矢田先生、私は、引き過ぎていました。社員10名の我社では、もっと私が前に立たなければ何も進みません。信(漫画の主人公)も、この規模では、先頭に立ってガンガン動いていました(笑)。」
年商数億から年商10億に進む時に、その多くを仕組化します。そして、その多くから社長は抜けることができます。
その時に、犯しやすい間違いが、「引き過ぎる」すなわち「任せ過ぎ」ということです。その結果、いろいろなもののスピードが遅くなります。
年商10億に進む時に、社長が抑えるポイントを正しく認識する必要があります。そして、そのポイントポイントをしっかり抑えることが必要です。
年商や社員数という規模に応じた、社長の動き方があります。
その動き方を間違えた時に、停滞が始まります。
年商30億、40億の企業の社長でも、この関わり方を間違えることは多々あります。この規模でも、停滞の多くの原因は、「任せ過ぎ」がほとんどです。ここでも、引き過ぎ、任せ過ぎです。
社員数百名の規模ですから、ここでも、社長がどんどん出なければなりません。プラス、社長は、組織の動かし方を学ばなければなりません。
D社はあれから4年が経ちます。
社員は、50名を超えています。良い管理者も揃えることができました。
いま、D社長は、百名規模の組織の動かし方を学んでいます。
まずは、目の前の1人の社員を活躍できるようにすること。
そして、10名のチームで成果を出せるようにすること。
次は、100名の組織で成長できるようにすること。
次のステージを見越して、その考え方と能力を高めなければなりません。
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