No.216:出来ない理由ばかりを言う社員を大量発生させる、その根本原因とは何か!?

コラム№216

ゼネコン若手職員M君は、九州の高速道路の施工管理に従事しています。
その現場事務所で、協力会社の職長から詰問されています。
 
「こんなに安全、安全と言われたら、工期内に終えることが出来なくなりますよ。それでもいいですか。」
 
まだ若いM君、包んで言うことをまだ知りません。
「安全は安全です。その基準を下げることはありません。そして、工期内に必ずやり遂げます。当然、品質も守ったうえです。」
 
ドン!
協力業者の職長は、机をたたき、その若者の目をのぞき込みます。


人は、何か困難なことに直面した時、出来ない理由を探します。
心の中では、いろいろな言い訳が生まれてきます。
「これについては教わっていない」、「あの人が無理を言っているのだ」、「忙しかったからしょうがない」、「目標が高すぎた」。
どんどん浮かんできます。
 
人は、『止める』という選択肢が頭に浮かんだ時に、出来ない理由を探し始めます。
そして、その時の思考は、違う方に向かうことになります。
「どうやったらできるだろうか」から「どうやったら逃げられるだろうか」という思考に変わるのです。
当然、逃げの思考では、新たなアイディアが浮かぶことはありません。また、行動にパワーも湧いてきません。すでに、覚悟はないのです。
 
人は「絶対にやってやろう」という確固たる意志があるときのみ、アイディアとパワーを得ることができます。
 
それが解っている社長は、『止める』という選択肢が浮かばないように、社内に仕掛けをします。また、社員に依頼をします。
 
約束事は、すべて文章で伝えられます。それも、全員に対し説明をします。
目標もその行動計画も書面化されています。担当名も記してあります。そして、それを全部員は知っています。
誰かに、仕事を依頼する時には、期限を明確にします。
そして、その事務所は、シンプルで明るい内装です。整理整頓が行き届いています。
 
これらを徹底することで、社内に「やらなくてもいいかな」、「止めてもいいかな」という逃げの思考が、浮かびにくくしています。その結果、社内に規律と緊張感が保たれます。また、依頼したことや計画が予定通りに進みます。
そして、進捗を適宜確認し、遅れている社員をサポートします。次の行動を明確にして、勇気を持てるように言葉をかけます。
 
このような環境で、その会社の社員は、厳しい仕事に対し、前向きに取り組むことを続けます。やらないという選択肢はありません。だから社員はそれに覚悟を持って、集中します。その結果、会社は早いスピードで変化し、市場で勝っていきます。また、社員は、能力を高めていきます。自信もついていきます。
信頼関係で、業務も社内もが繋がっていることを誰もが感じることができます。
 
 
これらの逆をすれば、社内は「止める」という思考で溢れることになります。
約束事が文字となっていません。あるルールを認識している人といない人がいます。目標も方針もその時々に口頭で出ます。そして、それは、「~してはどうか」というアドバイスか指示かよく分からない語尾となっています。そして、その担当者も不明確です。または、『営業部全員』という表現になっています。
依頼されたことに期限はありません。そして、その日になっても確認されません。
事務所の内装がゴチャゴチャしています。モノの置き場所が明示されていません。
 
その結果、社内のいたるところで、逃げの思考が発生しています。
「今回は、やらなくていいよね」、「まあ、こんなものでいいか」、「やりやすい方から、先にやろう」、「誰かがやってくれるだろう」。
そして、目から入るゴチャゴチャした景色は、その逃げの思考を助長します。
 
その結果、社員はルーチンワークばかりをこなすようになります。重要な仕事を後回しにします。表面上は、仲が良いように見えます。しかし、それは、切磋琢磨するというチームではありません。何かゆっくりとした空気が流れています。
その結果、社員は育ちません。当然、自信も築けません。
 
そして、そんな会社は、依頼した仕事の進捗も確認しません。難しい仕事に対しフォローもなく、具体的な次の行動も明確にされません。良くも悪くも「自主性」を重視しています。
 
 
前者の会社は、すべてを文字にしており、一見厳しそうです。しかし、実は、社員は「楽」なのです。「逃げ」という選択肢が心に浮かぶ隙はありません。やるしかありません。だから、さっさと手を付けて、終わらせます。夕方、すっきりやり切った感を持って、事務所を出ることができます。
 
後者の会社は、一見優しそうです。しかし、実は、社員は「苦しい」のです。
日に何度も「逃げ」の選択肢が浮かびます。そのたびに、心のなかで戦わなければなりません。人を責める気持ちまで引き出されてきます。
帰宅しても何かスッキリしません。自分が、役に立っているという充実感がありません。その毎日で、社員は消耗をしていきます。
 
明確な基準がある。明確な方針がある。明確な期限がある。
年商10億の組織をつくるためには、社員を「楽」な状態にしてあげる必要があります。逃げの言い訳が浮かばないように、追い込んであげます。
覚悟が揺らがない環境を提供するのです。
社員は、その「楽」な状態でこそ、力を発揮します。


『何かを得るためには、何かを犠牲にする必要がある。』
 
これほど間違った考え方はありません。
そして、これほど経営にそぐわない考え方もありません。
 
大きく儲けるためには、お客様が「損」をしなければならない。
NO、大きく儲けるためには、お客様も得しなければならない。当社もお客様もハッピーである。
 
スピードを持って大きく成長するためには、社員に厳しくする必要がある。
NO、全く相関性はない。それどころか、スピードある成長をしている会社ほど、社員は生き生き働いている。そして、労働時間も短く、プライベートも楽しんでいます。
 
経営に集中するために、健康を犠牲にする。
NO、全く愚かである。健康こそが、集中力の基盤である。
 
会社として重要な時期であるために、家庭を犠牲にする。
NO、エブリデイ、エブリタイムが、重要な時期である。妻、親、子供との関係を犠牲にすることと経営の成果は、何も相関しない。それどころか、逆相関する。
愛こそが、勇気の源である。
何かを得るために、犠牲は全く必要ない。
 
『何かを得るためには、大きな犠牲を払う必要がある。』
この思考の本当の恐ろしさは、社長の思考を停止させることにあります。
 
犠牲を払う必要がある、だから、しょうがない。
社員の休日が少ない。当社のような業界では、それが当たり前、しょうがない。
毎日残業をさせている。成長ステージだから、しょうがない。
会社が大きくなってから、健康については考えよう。
経営のためには、家族に寂しい思いをさせるものだ。
この思考停止が恐ろしいのです。
この考えることを放棄した状態では、解決策も浮かばなくなります。
 
 
何かを得るために、何も犠牲にしない。
社員の年間休日を125日にする。それでも、案件をこなせる様に仕組みをつくる。
労働時間を短くする。そして、今の成長スピードを保つ。もっと早くする。
自分はもっと健康になる。その分、もっと会社を大きくできる。
週に平日2日は家族と食事をとる。年間長期の休みを2回とる。それでも回る様に組織をつくる。
 
何かを犠牲にする、しょうがない。こんな考えを、心に浮かばせてはいけません。
すべてを得ることができます。


ゼネコン若手職員M君は毅然たる姿勢で、言葉を続けます。
相手は、自分の親ほどの年齢の協力業者の職長です。
 
「安全のために、工期を犠牲にすることはありません。安全のために、品質が落ちることもありません。」
手のひらの汗を作業服のズボンにこすりつけます。
 
「我々は、すべてを満たしたうえで、計画通りに、予算通りにこの工事を終えることができます。」
協力業者の職長も、その「意固地」な言葉に口を閉じるしかありません。
 
現場では、しっかり安全設備が維持されています。作業時に動かした柵は、きちんと元に戻されています。現場にごみは一つも落ちていません。
作業が夜半まで続いた日でも、コンクリートの仕上げも養生もしっかりやられています。
現場の隅々まで、規律と緊張感があります。
 
こんな現場では、誰も怠けようとする人はいません。
「少しぐらいいいかな」という思考は、起きようがないのです。
柵をそのままにして帰れば、翌日の朝礼で全体の前で言われることは解っています。コンクリートの仕上げがいまいちであれば、「戻ってきて」と電話が入ります。
だから、怠けることが無いのです。
 
その結果、この3年におよぶ工事は、重大災害無しで終えることができました。
そして、予定の工期を3か月早め、終えることができました。
 
安全を犠牲にすれば、品質も工期も一緒に崩れていくことは解っています。
安全をしっかりやれば、品質も工期も保たれることを解っています。
その現場の所長には、解っていました。
安全も、品質も、工期も、どれも完璧にやった方が、最終的に早く安く品質も良く終えることができると解っていたのです。
 
だから、所長は、ゼネコン職員全員に対して、「絶対に譲ってはいけない」と伝えていました。すぐに妥協しそうになる若手職員に対しても、「ダメなものはダメ」と一刀しました。
 
その所長の態度は、M君に覚悟を持たせました。その結果、M君は、親の年齢ほどの協力業者の職長に対しても、NOが言えたのです。
 
 
すべての組織は、そのリーダーの信念により導かれます。
規律がある組織には、規律を重んじるリーダーがいます。
協力し合う職場には、どんな人に対しても敬意をもって接するリーダーがいます。
覚悟があるリーダーのもとには、覚悟を持った部下がいます。
 
ダメなリーダーは、覚悟を持ちません。そして、「曖昧さ」や「妥協できる可能性」をメンバーや協力者に臭わせてしまいます。その結果、その人達の覚悟を奪います。そのかわりに、「逃げ」の思考を芽生えさせます。
 
 
社長が、「成功するために、何も犠牲にしない」と考えれば、社員はその実現のために、知恵を使います。そして、「そういうものか」と行動します。
 
社長が、「成功するために、何かの犠牲はしょうがない」と考えれば、社員もその「運命」を受け入れます。
 
社長は、欲張りでよいのです。

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