No.310:明確な管理者の人選基準とは何か。こんな人は、絶対に管理者にあげてはいけない。
システム会社T社長は、焦っていました。やりたいことが沢山あります。アイディアもどんどん出ます。しかし、実行が追い付かないのです。
最近のその不満は、10年前に一緒に会社を起こしたA氏に向かっているようです。
T社長は、言いました。
「昔から彼は、自分から考え動くタイプではありません。人は変わらないものなのでしょうか。」
「そうですね。」私は、この時には、そのT社長の言葉に賛同をしました。
しかし、その後に、それを撤回することになります。
人を育てるスタートは、まずは『素養のある人を集めること』となります。
人間には、向き不向きがあります。体が動かすのが好きな人もいれば、じっくり考えることが好きな人もいます。また、人と接することを天性と思う人もいれば、それが性分に合わない人もいます。
スターバックスの接客は、どの店も、どのスタッフも感じが良いものです。これは、「スターバックスの接客スタイルをやってみたい」と思っている人たちを集めているからこそ実現できるのです。そして、その後には整備された訓練体制が待っています。
もし「スターバックスのような接客が嫌だ」や「接客自体が苦手だ」と思っている人を集めれば、それだけ苦労することになります。その後の訓練の効率は悪く、また、離職者も多くなります。
その業務に向く人を集める。これが原則となります。その業務に向いている人を集められれば、半分終わったといっても過言ではありません。
この聞けば当たり前のことが、できていない会社は多くあります。
ある運送会社は、運転手の中から、営業担当者に引き上げようとしていました。
社長の説得に応じ営業担当になったものの、数か月後には、辞表を出し、別の会社に運転手として転職していきます。
ある工事会社は、現場作業員の中から、施工管理者を育てようと考えていました。「お前の役目は施工管理だ。」と言っても、すぐに他の作業員同様に自分で体を動かしています。体を動かす性分が抜けないのです。
上記2社は、体を動かすことに適性を持つ人に、考えることやマネジメントをやらせようとしました。そのため、本人のモチベーションも続きません。育つこともありません。
彼らは、好きだからこそ、体を動かす職業を選んでいるのです。自分には向いていないと思うからこそ、営業にも施工管理にも、スターバックスにも、いかなかったのです。
逆に、頭を使うことに適性を持つ人を、「体を使うこと漬け」にする会社もあります。ある製造会社では、大卒者もまずは現場に入れます。「現場を知らなければ管理ができないから」という理由です。しかし、その多くは、数年で辞めていきます。それも、頭の良い社員から去っていきます。
まずは、向いている人を集めることが必要になるのです。そして、「そのもの」に就けるのです。
そして、素養のある人を戦力化することになります。素養があったとしても、自然に育つことはありません。また、それを待つ余裕もありません。まずは、訓練を提供する必要があります。
過去のコラムで何度も書いてきた通り、訓練とは、「自社に蓄積された最も優れたやり方を、効率よくその人に提供する体系」となります。
適性のある人に、その機会を提供するのです。当然、適性があるだけに、その人は早くに成果を出せるようになります。顧客や同僚から当てにされるので、モチベーションも自然に上がります。
その業務に適性がある人を就ければ、会社も顧客もその本人も、皆幸せです。
無い人を就ければ、皆不幸せとなります。
適性がある人を選ぶ重要性は、『管理者』という役割でも例外ではありません。それどころか、より適性の重要度は増すことになります。
管理者の役目は、大きくは以下のものとなります。
「部門目標の達成」と「仕組みの改善」です。そして、その過程で、「チームをまとめること」、「人を育てること」も担います。
この管理者の役目を観れば、管理者に必要となる素養は自ずと見えてきます。
・部門目標をなんとか達成するために、具体策を考えているか。
・部下に作業指示を与え、そのサポートをしているか。後輩の面倒をみているか。
・業務の課題を見つけているか。改善の提案を出しているか。
・文章を書くか。会議の場で自ら発言するか。
このような行動をしているかどうかです。その人を観れば、管理者に適性が有るかは、すぐに解るものなのです。適性がある人は、入社数年でその頭角を現します。
管理者に適性がある人は、自然とそのような動きをするものです。会議でアイディアを出したり、後輩の面倒をみたりを、進んでします。そのような働き方が好きなのです。動きに気前がよいのです。
管理者に適性の無い人は、これを自らしようとしません。会議でアイディアを出すことはありません。発言を求められた時には、渋々「問題」を口にします。
後輩はホッタラカシです。そこに愛はありません。そんな働き方を選びます。動きに気前の良さは無いのです。
こんな適性の無い人を管理者にあげている会社は、多くあります。
長く勤めているから。管理者に就ければ本人も意識を変えてくれるだろう。他にいないから。経営者の一族だから。社長との相性が良いから。
こんな理由で、「あげてはいけない人」を管理者に任命しているのです。
その結果、職場は殺伐とすることになります。若い社員は、その管理者を観て、習っていきます。その会社の「管理者像」が出来上がるのです。その一度出来上がった管理者像はそう簡単には払拭できず、その会社は、長い停滞期に入ることになります。
冒頭のシステム業T社は、年商2億5千万円の会社です。10年前に会社を起こし、この時には、社員数が14名になっていました。
創業当時からのメンバーも複数名残っており、その一人がA氏です。A氏は、物静かなエンジニアで、技術とその対応に、顧客から信頼を得ています。実質的なT社のナンバー2であり、システム部門のトップです。
T社長は、A氏に対し不満を持つようになっていました。アイディアや改善策を出すのは、いつもT氏です。それに対し、A氏は、従うだけです。議論に発展することがありません。
矢田に相談をしました。それが冒頭です。私は、管理者の役目とその素養についてお話をさせていただきました。この時には、T社長は答えを出すことをせず、仕組みづくりに邁進することにしました。
まずは事業の変革に取り掛かりました。クリエイティヴを下げたカスタマイズ型のサービスを開発できました。これで、並みの社員でも、業務を回すことができます。
仕組みを整備し、案件の見える化、業務の標準化をしました。これにより、チームで進捗を管理できるようになりました。また、各個人バラバラのやり方を会社として標準化しました。
そして、経営計画書を作成し、会社をどう成長発展させていくのかを、明確にしました。そして、毎月PDCAを回すようにしたのです。これにより、各部門主導で仕組みの改善が進むようになりました。
ここまで一年半。T社長は、言われました。
「こんなに会社は、変われるものだとは思いもしませんでした。」
そして、続けます。「A君も全く変わってしまいました。」
会社の内部のことは、ほぼA君が取り仕切るようになっていました。性格は変わりません。坦々と物静かに、全体に指示出しと確認を行います。その一つひとつを、確実に進めていきます。そのおかげで、T社長は、経営やトップ営業に専念できるようになりました。創業以来、初の年商3億円を達成しました。
A君は、管理者としての素養を十二分に持った「人材」だったのです。
その素養が、仕組化によって開花したのです。会社の進むべき方向が解りました。各業務の方針も成文化されています。部下の案件の進捗もその基準も明確です。
この状態になり、A君の力を発揮する環境が出来たのです。
A君は、頭の回転が速いタイプではありません。また、弁は全く立ちません。
それに対し、T社長は、頭の回転が速く、思いついたことをボンボン口に出していきます。A君は、改善案などは紙で出すようになりました。T社長も、A君の言葉を遮らないようにしています。
T社長は、明るく言いました。
「最近、やっと人を使うということが解りました。社長になって10年以上かかってですよ。」
まとめです。
人の評価は、その環境との相性で決まります。
その人と環境が合えば、評価は高くなります。
合わなければ、低くなります。
自社がどのような人を求めるのかを、はっきり発信することです。
そして、その通りの人を集めるのです。
その人が活躍できるように仕組みを整備していきます。
そして、そのための訓練を提供します。
そこまでできて初めて、人を評価することができます。
そこまでして初めて、人を活かすことができます。すべては、環境次第なのです。
その環境をつくるのが、社長の役目となります。
「やる気のある人が集まる環境」と「そんな人が活躍できる環境」をつくりましょう。
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