No.359:仕組化できていない会社が、システムをいれると不幸になる。その理由とは!?
人材系サービスを展開するN社は、事業モデルの変革が終わりました。
いよいよ本格的な営業活動に移れます。
N社長は、矢田に相談しました。
「業務の効率化のため、〇〇というシステムの導入を考えています。」
それは、有名なパッケージシステムです。
私は、お答えます。
「システムの検討は、もう半年待ってください。」
あれから一年、N社は、まだシステムを導入していません。
ガンガンに、エクセルを使っています。それも社員の要望により。
社員に依頼することは、大きく4つのレベルに分けることができます。
レベル1の依頼:「ホームページの画像を入れ替えてください。」
レベル2の依頼:「ホームページをもっと明るいイメージにしてください。」
レベル3の依頼:「ホームページに来た人からの問い合わせを増やしてください。」
レベル4の依頼:「見込客を集めてください。」
見ての通り、レベル1から4にかけて、その難易度も重要度も高くなります。
レベル1は、完全なる「作業」であり、レベル4は、より「目的」に近くなります。
このどれかのレベルを、社員に依頼することになります。
その時には、相手の能力に合わせることをします。
一般社員にはレベル1、主任にはレベル2,課長にレベル3、部長にレベル4という具合にです。
そして、このレベルの使い分けによって、人を育てることを考えます。
一般社員に、レベル2の依頼をします。主任にレベル3の案の企画を任せます。課長とともに、レベル4についてプロジェクトを進めます。
少し上の依頼をすることで、その人を育てることができます。
管理者の素養を見出していきます。当然、全員が十分にできるわけではありません。やる気も能力もある者が上がれるように、能力開発の機会を与えるのです。
それができるようになれば、次のレベルの依頼をします。作業を離れ、より目的に近いところに関わらせていきます。その人を順に育てることになります。
そして、それにより、会社は、次々と人を育てることができます。
一つ上のレベルを依頼する。
これをしなければ、人は育つことはありません。
一般社員に、延々とレベル1の作業をさせてしまっています。毎日、そして、来年も、同じところに留まったままなのです。誰も育たない、誰もが「作業漬け」であり、上がってこないのです。
その結果、組織は完全なる文鎮型の組織になります。
社長以下、全員が横一線の作業員という状態です。
冒頭のN社は、この典型でした。
社員10名全員が、作業員なのです。顧客の訪問、提案書の作成、人の手配、伝票入力、、、彼らは、それらのルーチンをこなすばかりです。
N社長は、「管理者がいない」と嘆いています。
しかし、それは当然の結果なのです。集客の仕方を社長自ら考えています。販促物制作を社長と業者で進めています。問題が起きた時には、社長自ら駆け付け、状況を確認し指示を出します。会社の目標を意識しているのも、それに動いているのも、N社長だけなのです。
社内には、「考えるのは社長の役目、手を動かすのが社員の役目」という暗黙知があるようにも感じられます。
コンサルティングを導入し、半年で、事業モデルを作り変えることができました。仕組みで見込客を集めることができます。その見込客に提案書を見せれば、確実に興味を持ってもらえます。そして、高い割合で、成約できるのです。
いよいよ本格的に、営業担当を動かす時が来たのです。
N社長は、矢田に相談しました。
「先生、〇〇というシステムを導入しようかと考えています。これがあれば、営業担当の動きや案件の進捗状況を確認できるようになります。」
この〇〇とは、営業分野において非常に知られたパッケージシステムです。
私は、答えます。
「この導入の検討は、早くても6か月後からするようにしてください。」
N社は、まだ、仕組化ができているわけではありません。仕組みが出来ていない中でのシステム導入は、うまく行くことが無いのです。
システムというものは、良くも悪くも、ブラックボックス化を起こします。
その作業の流れや基準などを、そのシステムを使う社員は全く知ることがなくなります。
そして、誰もそのシステムの改善に関われなくなります。「使いにくいなぁ」や「こうしたらいいのに」と思っていても、口を出さなくなります。益々、作業員化を進めることになるのです。
そして、タイムリーな改善は無理となります。仕組みの初期はどうしても、改善頻度は多くなります。それが出来ないのです。
「仕組みが自分達で見えない。仕組みを自分達でいじれない」、これは致命的なこととなります。
まして、N社は、まだ、「社員が仕組みづくりに関わる」という、組織として当たり前の状態ができていません。全員が作業員なのです。
いま「仕組みづくり」は、完全に社長一人の仕事になってしまっているのです。
まずは、この正常な状態にもっていき、そして、その社員による仕組みの改善サイクルが回るようにしなければなりません。
その取組みに入ったばかりです。システムの導入は、その取組みを間違いなく破壊することになります。基幹である仕組みの改善の機会を彼らから奪うことになるのです。
そして、厄介なことに、その『システムの責任』は、社長に残ることになります。
社長が業者と打ち合わせをし、導入する。その経緯や仕様を知るのは、社内で社長だけになるのです。この先の管理も更新も、社長に残ることになります。
社内には、「社長が外注業者と直接やること」で、「社長に残った業務」が沢山あります。社内LANの構築、ホームページや多くの販促物制作、契約書の雛形。この結果、その後の「運用も社長」になってしまっています。
これは、本来、社員の仕事です。
彼らが、企画し、業者の選定を進め、打ち合わせを行い、導入していきます。
その結果、その後も、その業務は社員が受け持つことになるのです。
私は、『エクセルでやること』をお薦めましまた。
一見は手作業が多く残るものの、上にあげたような組織的なメリットが多くあります。「社員による仕組みの改善サイクル」という、最も手に入れたい物が手に入るのです。
仕組みの構築に入ると、その効果はすぐに表れることになります。
営業事務と経理の女性社員3名が、打ち合わせをしています。これは、いままでのN社では、無かった光景です。
その数日後に、その3名から社長に対し提案がありました。
それは、「案件管理表の改善案」でした。案件管理表を導入して、2週間が経ちます。それを使った結果での、彼女達からの提案です。N社長は、その提案を承認しました。N社に革命が起きた瞬間です。
一年経った今も、その改善は続いています。
事業の基幹である営業進捗や案件管理は、すべてエクセルで行われています。
すべてのものが、当初から大きな進化を遂げています。
社員からの「システムはまだ早い」の意見を受け入れ、システムの導入は行っていません。彼らも「もっと関わりたい」、「スピードもって改善したい」と望んだのでした。
N社長は、言われました。
「私が、何でもやり過ぎていたのです。その環境さえ作れば、社員は、考え動いてくれるものなのですね。」
目先の効率を考えれば、社長一人でやれば、早く済ませることができます。
しかし、その結果、社員は育たず、作業員のままでいます。
そして、社長自身も多忙を極めることになります。
それは、我々が望むものではありません。
我々は、各部門、各担当が考え行動し、どんどん自分たちの業務を変えていく会社にしたいのです。そして、より難しい業務を依頼します。そこで、社員は育つことになります。
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