No.363:決めたルールが徹底されない、それを管理者が放置している。М社長の何が悪かったのか?
工業部品加工業M社は、社員数35名の会社です。
M社長は、事の経緯を話してくれました。
「先生、先日ヒヤッとする事件があり、荷造りのルールを変えました。」
それは良かったですねと矢田は返しました。
「先生、それがそうでもないのです。昨日確認したら、それが、されていなかったのです。管理者を叱り飛ばしてやりました。」
M社も、例に漏れず管理者が機能していない会社です。その理由は明確であり、M社長も、その仕組みづくりを進めている最中でした。
私は、参考までに、「人事評価表を見せてください。」とお願いしました。
管理者が機能しない会社では、人事評価表にも問題があるものです。
『イメージ』です。
我々の世界は、イメージによって出来ていると言っても過言ではありません。
目の前にある建物も、このパソコンも、誰かのイメージが形になったものです。
今の御社も同様です。
自社の事業モデルはどうあるべきかの、イメージがあります。
顧客は?価格は?集客方法は?すべてがイメージなのです。
そして、事業モデルを変える時には、そのイメージを作り直すところから始めることになります。古い会社ほど、過去のイメージが深く染みついています。その分、変えるのはやはり大変になります。
その社長が描いたイメージを、管理者や社員と共有します。
また、何をいつまでに実現するというイメージを「目標」という形で表します。
明日から、誰がどのように行動するかというイメージである「計画」を共有します。
そこまで出来て初めて、実際に動いてもらうことができます。そして、イメージが実際の形になるのです。
このイメージにずれが生じると、やはりうまく行かないことになります。
管理者は異なる判断軸で、現場に指示を出しています。社員は、不適切な言動でお客様と接しています。中途採用者は、前職の何かしらのイメージを強く持ってしまっています。これでは、当然期待したような成果はでません。
これが『ストレス』になります。
ストレスとは、ギャップから生まれるものです。こちらの抱くイメージと、相手の行動にギャップがある時に、ストレスが生じるのです。
ストレスを感じるということは、「相手とイメージを共有できていない」というシグナルと言えます。
社長は、会社のすべてにおいて、イメージを描く必要があります。
事業モデル、理想の顧客、サービスの品質、価格まで。
そして、その事業を回すための「組織のイメージ」を創ります。
階層、部門とその役割、雇用体系、スタッフの動きまで。
それを、実現するために動くことになります。
「管理者」も、その描くべきイメージの一つとなります。
その管理者のイメージが、現実のものとなっていきます。
多くの年商数億円企業では、管理者が機能していません。その理由は、明確です。
その会社には、「管理者というもののイメージが、無いから」です。
または、「間違ってしまっているから」となります。
冒頭のM社も、完全にそれが当てはまっていました。
正確には、M社長の管理者に対するイメージが変わってしまったので、そこにギャップが生まれたのです。
M社の今までは、自動車系部品の量産をメインとしてきました。年々その数は減り、価格も厳しくなってきました。
M社長は、事業を大きく変えることを決断したのです。試作品、小ロット品の生産、それも、ある業界に特化します。
それに合わせ、組織を作り変える必要があります。
今までの組織は、量産、すなわち、大量に物をつくることには向いていました。少ない管理者で、多くのスタッフを使うことで生産性を上げてきました。
これからの組織に求められるものは、全く異なることになります。
小ロット、かつ、難易度の高い製品が多くなります。そのため、現場が考えて行う適宜の判断や、継続的な創意工夫ができないと、どうにもならないのです。
また、M社長は、このコンサルティングの中で、管理者の役目を学びました。
それは、いままでの自社の管理者像とは、全く異なるものだったのです。
いままでの管理者は、「勤勉で経験年数が長い人」を任命してきました。言ってしまえば、それは、「作業員の親玉レベル」なのです。
それが、事業モデルの変革とM社長の変化によって、完全に合わなくなってしまったのです。M社には、管理者らしい管理者がいないことに気づいたのです。
焦る気持ちはあるものの、一つひとつ構築するしかありません。
管理者を機能させるためには、彼らを教育すればよい、と言うものでは無いのです。管理者を機能させるためには、まずは、その管理の対象となる仕組みが必要になります。
・目標とその達成のための管理の仕組み
・案件の見える化とその品質基準を管理する仕組み
これがあって、初めて管理者を任命し、働いてもらうことができます。
そんな矢先です。
工場の中の、積み荷の一部が崩れるという事故がありました。人がいなかったため大事には至らなかったものの、一歩間違えば死者を出すほどの災害です。
社長は、すぐに「積み荷のルール」を改定することにしました。
正確に言うと、いままでは「ルールはあったようで、無かった」のです。成文化されたものは、全く無かったのです。社長は、これを大いに反省しました。
M社長は、文章にまとめ、それを使い、社内に通達を出しました。管理者を集めて、会議でも説明をします。
それから、2週間が経ったある日、M社長が工場を歩いていると、荷物が過去のやり方で積まれているのを見つけました。
体から力が抜けることを感じ、その後に怒りがこみ上げてきます。M社長は、その場の管理者を叱りつけました。
M社長は、言われました。
「長い時間により染みついた習慣は、そう簡単には変えられないのです。」
当然、M社内の管理者像は、全く変わってはいないのです。
管理者の行動も変わるはずは無いのです。
彼らは、いままでの管理者のイメージそのままの動きをしただけなのです。案件の進捗や品質の管理、そして、現場へのルールの徹底など、それらは、すべてM社長自身が行ってきたことなのです。
イメージを描くこと(文章化すること)
イメージを伝えること
イメージを実現するための仕組化の目標と計画を立てること
そして、それをつくり運用を続けること。
それでしか変わらないのです。それを早く始めることです。
私は、お願いをしました。
「人事評価表を見せてください。」
管理者が機能しない会社では、人事評価表にも問題があるものです。
案の定、それは、完全に間違っていました。
そこには、下記のような表現が並んでいます。
・問題を論理的に考え、原因追求する力はあるか?
・積極的に部下とコミュニケーションをとる能力はあるか?
・部門目標の達成のための遂行能力があるか?
これらは、「役割」ではありません。あくまでも所有能力となります。
量産型製造業の名残でしょうか。旋盤が使える、研磨ができる、という「何ができるか」にスポットを当てているのです。
これでは、会社として正しい「管理者のイメージ」が持てるはずがありません。
組織とは、あくまでも役割の分担です。そのため人事評価表も、役割で表現する必要があります。「部下に具体的な指導をしている」、「部門目標を達成している」、「仕組みの改善をしている」となります。
この状態で人事評価や面談を続けても、効果はありません。
ちょうど半期の人事評価の時期が迫っていました。私は、ご説明をさせて頂き、早々の作り変えと導入をお願いしました。
これで少しは、M社の管理者像を変えることを推し進めるはずです。
まとめ:管理者を機能させるための要所
・まずは、管理者が「管理すべき対象とする仕組み」をつくる。
・それを、管理者(候補)と一緒にへこたれずに運用する。
・同時に、正しい管理者像を社内に発信し続ける。
結果、一年で管理者は機能し始めました。(管理者の入れ替わりは避けられない。)
会社は、「決めたことが、すぐに定着するスピードある会社」に変貌を遂げています。
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