No.365:社員に主体性を持たせる。美容関連サービスのK社長は、どのように社員を変えたのか?
開場してすぐの展示場。
美容関連サービスを展開するK社のブースを訪問すると、すぐにK社長が私を見つけ、駆け寄って来てくれました。
「先生、おはようございます。ご案内します。」
私は、御聞きしました。
「準備で、忙しいのではないですか?」
他のブース同様に、K社のブースでもスタッフが忙しく動いています。
K社長は、「彼が、やってくれています」と、一人の社員の方を見ます。
30歳前後の男性が、他の社員やスタッフに指示を出しています。
我々の視線に気づき、彼は頭をペコリと下げました。
K社長は、目を細めて言いました。
「一年前の展示会とは、大違いです。前回は、すべて私がやりましたからね。」
分業で得られるものの一つに、『スピード』があります。
スピードが有れば、会社の仕組みをどんどん変えることができます。環境に応じ、そして、先を見越して変化することができます。
スピードこそが、分業で得られるもののなかで、最も価値があるもので、最も多くの経営者が望むことです。
分業とは、「社員の頭を借りる」ことを意味します。
彼らがその分野について、代わりに考えることを受け持ってくれます。そこで起きる問題の解決策や、方針実現のための仕組みづくりに取り組んでくれます。
営業に関することは営業部が、製造に関することは製造部が、担ってくれます。
その結果、会社は、スピードを持って成長することができるのです。
年商数億から年商10億に進む時には、「社員に代わりに考えてもらう状態」になんとしても変える必要があります。
だからと言って、一人の社員を呼び寄せ「考えてくれ」と言っても、そう簡単にその状態に変わることはありません。そのためには、やはり、やるべきことがあるのです。
社員も、人間です。考えるためには、「納得」と「理解」が必要になります。
なぜ、それをやる必要があるのか。また、その経緯や今の状況も知る必要があります。彼らに代わりに考えてもらうために、そのための手順を踏む必要があるのです。
人に何かをしてもらうためには、下記の段階を踏む必要があります。
・説明する:何をして欲しいのか、を具体的に依頼します。合わせて、その周辺の情報も提供します。
・企画書を作成する:その実現のための検討書を作成してもらいます。そこには、方針やスケジュールなども書かれています。
・実行する:予定を立てて行動し、その結果を確認し修正する。そして、また、行動です。それを繰り返すことで、それは実現するのです。
そして、この其々の段階で、打ち合わせを行います。それにより、その本人をサポートすることができます。
相手の納得と理解を得るためには、双方向のコミュニケーションが必要になります。こちらが話をし、そして、相手に発言を求めます。
そのうえで、企画書の作成を依頼します。それにより、認識を合わせることができ、アイディアをより良いものにすることができます。
終わりには、次の打ち合わせの日時を決めておきます。予定を決めることで、本人の怠け心を生まれにくくします。
他の部署や外部業者との打ち合わせが必要であれば、要所で立ち会うことをします。それにより、その関係者に本気度を示すことをします。
この過程が必要になります。よほどの経験があり、優秀な人であれば、これらのサポートは必要ありません。やってほしいことを伝えるだけで、動き出してくれます。
しかし、そんな人材は、社内には居ないのです。今いる社員の中から素養のありそうな者を選ぶしかありません。
その社員に対し、上記のプロセスを踏むことで、その社員を巻き込むことができます。やっと、そのミッションを、『本人事』として受け止めてくれるようになります。その社員は、少し考えられるようになっています。
このプロセスを踏む必要があります。
それにより、社内に一人、「考えることの依頼先」を得ることができるのです。
そして、その業務を、この先も彼らが更新していってくれることになります。
一年前に、この説明をK社長にしました。
ちょうど展示会が終わった時期です。
展示会は、「成功」でした。
この時の展示会の目的は、「代理店の開拓」です。K社は、事業モデルの変革が終わり、法人取引の開拓までの仕組みが出来上がっていました。次は、より大きく展開するために、代理店網を築くことにしました。
その展示会から代理店候補が、15社獲得できました。かなりの成果です。
しかし、K社長の顔は冴えません。
「先生、今回の展示会のすべてを、私が取り仕切りました。これでいいのでしょうか?」
さすがのK社長、自社の本当の課題に気づいていました。
K社の最大の課題は、「社長自らが何でもやってしまう」ことです。その結果、「社員が指示待ちで、主体的に動いていない」状態になっていたのです。
今回の展示会のすべてを、社長がやってしまっていたのです。
運営会社との書類のやり取りから、ブース制作の業者との打ち合わせまで、K社長自らが窓口になって行いました。そして、前日の会場設営も、K社長が音頭をとって、社員と業者を動かします。そして、当日の朝も、スタッフを集め、注意事項や対応の手順を説明しました。
K社長は大活躍です。その一方で、社員は全く活躍できていないのです。
そこにいる社員全員が、その仕事に「駆り出された状態」です。今回の展示会の全貌を少しでも知る社員は、皆無です。そのため、会場では何をしていいのか解らず、ぼっと立っている社員の姿が散見されました。
振り返りながらK社長は言いました。
「これでは、社員が主体的になるはずが無いのです。社員が考えるようになることもありません。」反省するK社長です。
それから、K社長は、組織づくり、そして、仕組みづくりに取り掛かりました。
あれから一年が経ちます。それが、冒頭の展示会のシーンになります。
見事にK社は変わっていたのです。
今年の展示会は、営業部のA君に依頼をしました。
A君は、入社5年目の中堅社員です。基本的な能力も高く、前向きさもあります。「巻き込みやすいところから手をつける」という、基本を守った人選です。
A君は、K社長から展示会の依頼の話を聴いた時には、驚いていました。
「K社では、そういうことは社長がやるもの」という認識を持っていたのです。それでも、前向きなA君は「ぜひやらせてください」と快諾をしてくれたのです。
企画書の作成からブース作成まで、すべてをA君が中心になって進めていきます。他のチームメンバーも、A君をリーダーとして認めている雰囲気があります。
K社長は、A君とこまめに打ち合わせをしていきます。その過程で、明らかにA君が変わってくるのを感じることができました。「一つのプロジェクトを自分が推し進めるのだ」という意思が漲ってきたのです。
今年の展示会も、成功に終えることができました。
営業的な成果はもちろんのことですが、社員主体で一つのプロジェクトを成し遂げたということのほうが、K社には大きい成果なのです。
これは、K社長の経営者人生での初めての経験です。人を使いダイナミックに成果を出すという年商10億社長に必要な力を得たのです。
K社長は、言いました。
「今回、この仕組みを作れたのは、大きいです。」
このプロジェクトは、経営計画書に期初から織り込まれたものです。
そして、行動計画書でPDCAが回されてきました。そして、企画書とマニュアルの整備も事前にされています。これらの仕組みで、実現したのです。そして、この仕組みが、来年も機能します。
次回の展示会のリーダーはすでに決まっています。同じ営業部の若手のB君です。今回の展示会に、B君もプロジェクトのメンバーとして参加をさせました。K社長は、B君に「来年は君がリーダーだからしっかり準備しておいてくれ」と伝えていたのです。
B君が来年やる時には、今年使った企画書やマニュアルが活かされることになります。それらを引き継ぐ仕組みが出来ているのです。そして、翌年には、B君の後輩に渡すことができます。
社員を巻き込む仕組み、各担当や部門に考えることを担ってもらう仕組みが、K社に宿りつつあります。それこそが、人を育てる仕組みでもあるのです。
(まとめ)
・会社の一番の財産は、スピードである。スピードの源泉は、「自分以外の人に考えることを担ってもらうこと」にある。
・その仕組みを会社として、持つ必要がある。(それは、社長の個人技レベルではいけない。)
・その仕組みが出来たときに、社長は経営に専念できる。社員は自分の持ち場で働き甲斐を得ることができる。その力を社長は手に入れること。
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