No.383:社員の能力を活かしきっている会社が、例外なくやっていることとは!?
「先生、当社にそんな優秀な社員はいませんよ。」
建設業N社長は、内部の仕組みづくりに取り組んでいました。その仕組みづくりは、社員と一緒に進めるのが理想ではあります。その対象者がいないというのです。
私は、答えました。
「まずは、経営計画書をしっかり作り切ってください。そして、早くに運用することです。」
仕組みづくりに取り掛かる前に、経営計画書が必要になります。
これは、原則であり、絶対です。
N社長は、半年後に次の言葉を述べました。
「先生、うちの社員は優秀です。自分達で考えて、提案をしてくれます。」
会社は、『考え方』と『手段』で出来ています。
どんな事業をやっているのか。
どのような商品を充実させるのか。
サービスの基準は、どうあるのか。
賞与は、どのような貢献に支払うのか。また、その分配の率は。
すべてに『考え方』があります。いままでのその『考え方』によって、今の『手段』が出来上がっているのです。そして、この先の『考え方』を変えることで、『手段』を変えていきます。その『考え方』を実現するための『手段』なのです。その結果、会社は成長発展することになります。
その『手段』を回すこと、そして、作り変えることを、社員に依頼します。
そのために、その目的や意図、全体像などの『考え方』をしっかり共有します。
そして、そこから得た教訓によって、会社はまた、『考え方』と『手段』を発展させていきます。長い歴史で培ったその『考え方』とその『手段』こそが、会社の力であり、資産なのです。
『考え方』と『手段』で会社は出来ています。
これは、当たり前のことのように聞こえます。
誰もこれに異を唱える人はいないでしょう。
しかし、実際には、多くの会社では、『考え方』の取組みが出来ていません。その扱いは、ぞんざいなものになっています。
多くの会社には、『考え方』を綴ったものが、一切ありません。取り扱う商品の考え方、値引要求に対する考え方、人材育成に関する考え方。何一つ、書面になっていないのです。
当然、社員と『考え方』の共有はできていません。「口では言っている」かもしれません。しかし、それで、正しく理解できるはずが無いのです。ましてや、会社としての蓄積にもなっていかないのです。
そして、現場のオペレーションのためのマニュアルにも、『考え方』が抜けています。その業務の目的や全体像が書かれていないのです。そこにあるのは、唯の作業手順書です。
その結果、先輩から後輩に、手順のみが伝えられることになります。そして、「作業バカ」を量産することになるのです。自分がやっている業務の目的や手順の意図を説明できません。自分で自分の間違いに気づけなくなっています。改善のアイディアも浮かぶことが無いのです。そして、「やる気」も起きないでいるのです。
多くの会社に欠けるものは、『考え方』に関する取組みであり、機能なのです。
その結果、それらの会社の社員は、力を発揮できないでいます。
『考え方』が解らないから、「もっと良く」を考えることが出来ません。アイディアを考えることも出来ないのです。それが、実情です。
彼らに必要なのは、教育ではありません。
彼らに必要なのは、能力の解放なのです。
『考え方』の提供による、解放。これこそが、多くの会社にとっての必要なことなのです。
そのための第一のツールが経営計画書になります。
経営計画書には、「事業をどのように変えていくのか」という未来の話が書かれています。そして、そのために「何の仕組みをつくっていくのか」も書かれています。未来という『考え方』をまとめた書なのです。
冒頭の建設業のN社長は、仕組みづくりに取り組もうとしていました。
私は、その前に、経営計画書をつくることを提言しました。
N社長は、「経営計画書は、すでにあります。」と答えました。そして、その一冊を私に手渡しました。
拝見すると、それは、経営計画書と呼べるものではありませんでした。「未来についてのこと」が殆ど書いていないのです。そこには、経営理念があり、その次に損益計算書があり、社員の心得と就業規則のようなものが大量に続きます。
これをN社では、経営計画書と呼んでいたのです。そして、それを持って、社員に説明していたのです。それも、立派な会場を借りて。
きっと社員は、呆然としたはずです。そこには、大事なことが何も書いていないのです。「未来」の話が無いのです。自分達がどう動けばよいのか、何に貢献すればよいのかが、全く想像できないのです。そして、社長に対する信頼を下げたことが予測できます。
これでは、組織は出来ないし、社員のやる気を削いでしまうはずです。
実際に、N社の社内の雰囲気は良くありませんでした。
経営計画書は、未来の書です。
「この先の事業のこと」、それも、「儲かる事業の設計」について書かれていなければ、すべて間違いなのです。そして、その真価を発揮することもないのです。
未来のことを書いて、その実現のための協力を依頼する。そのための、経営計画書です。この当たり前のことが、日本で(それも中小企業の世界で)なぜこれほどゆがめられてしまったのか、私は憤りを感じずにはいられないのです。
正しい経営計画書を作れば、組織はできるのです。
社員は、その力を発揮するのです。正確には、その「前提」を得るのです。
考え方を得た後は、その人の能力ややる気の問題にできます。考え方の提供なしに、彼らを評価することなどできないのです。
N社長は、「仕組みづくりを急ぎたい」と返しました。私は、「まずは、経営計画書」の作成を再度お願いしました。
N社長は、真摯に経営計画書の作成に向かいました。
そして、出来上がったそれを使い社員に説明をしたのです。
「これから、事業をこのように変えていく。だから、このような仕組みが必要になる。しいては、この仕組みを皆で作っていきたい。」
その結果は、素晴らしいものになりました。その具体的なイメージと社長の誠実な態度に、社員はやる気を出すことになりました。
半年もすると、会社全体の雰囲気は完全に変わっていました。各署の会議では、真剣なディスカッションがされています。業務の改善も進んでいきます。その中で、数名の社員が頭角を出し始めました。
20代後半のA君が、施工部の仕組みづくりの中心を担います。
N社長は、以前から彼に「優秀な気配」を感じていました。しかし、上司や先輩に遠慮して、前に出ることを控えていたのです。A君を中心に、施工部の若手がどんどん見積もりや施工に関する仕組みを作り変えていきます。
管理部の女性二人も、提案をしてくれるようになりました。年間の業務をまとめた表を出してくれます。また、契約書の管理のやり方のアイディアも出してくれました。
N社長は、言いました。
「うちの社員は、もともと優秀だったのです。それを使い切れていなかっただけなのです。」
未来という『考え方』を書いたものが、経営計画書です。
その『考え方』を実現したものが『手段』である仕組みであり、組織なのです。
会社には、『考え方』の取組みと機能が必要なのです。
素晴らしい会社、すなわち、社員の能力を活かしきっている会社は、例外なく『考え方』の共有をしっかりしています。その重要性が解っているのです。
まずは、正しい経営計画書をつくることです。
それが、すべてのスタートになります。
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