No.434:H社長が本当の自社の強みを見つけた瞬間:必ずしも特色が必要ではない

№434:H社長が本当の自社の強みを見つけた瞬間:必ずしも特色が必要ではない

販促物製作業H社長が、相談に来られました。
その手元には、付箋だらけの白い表紙の本があります。
「先生、絞ることの大切さは、よく解りました。」
 
この時のH社の年商は、2億2千万円でした。
それは、沢山の顧客、沢山のメニューの結果の年商だったのです。
 
「過去に何度も、絞ろうと決意をしました。そして、実際、捨てました。しかし、お客様の要望があると、また受けてしまいます・・・。」
 
少しの間をおいて、言葉を続けられます。
「捨てるのは、怖いですね。」


年商10億円に進むためには、事業モデルが条件を満たしている必要があります。
その条件の一つに、「クリエイティヴを下げる」というものがあります。
 
企画、提案、臨機応変、そして、何でも。
これらのクリエイティヴがあると、その事業は拡げられないことになります。
 
売ること、つくることに、力が要るのです。
それでは、並みの社員では、こなせないのです。
 
個人事業主レベルで、自分が職人として、ずっと働くのであれば、それで何も問題はありません。しかし、大きくしたい、社員を活躍させたい、と思うのであれば、この事業モデルのまま進むことは出来ません。
 
クリエイティヴを下げる取組みをすることになります。
そのやり方は、いくつもあります。
その代表格が、「パッケージ化する」、「単価を大きくする」と言うものです。これは、私の書籍(白い表紙の本)やこの過去のコラムでも、ご説明してきた通りです。
 
そのクリエイティヴを下げるために、手っ取り早いのが「絞る」ことです。
それはそうです、クリエイティヴを生み出している一番の理由が、その「沢山」にあるからです。
 
沢山のお客様(規模、業種)、沢山の要望(課題、欲求、方針)、そして、沢山のメニュー(物販からコンサルティングまで)。それらの雑多こそが、クリエイティヴを作り出しているのです。
 
それらを、捨てればいいのです。これはやらない、これは受けない、と決めればよいのです。
それを紙に書いて、社員に明確な指示を出します。
・・・紙で強く指示をしないと、彼らは今までの習慣を断ち切れません。
 
また、お客様に案内を出す必要があります。「当社はこれをやります」と。
場合によっては、「このサービスはやりません(今後、受けません)」と明示する必要があるかもしれません。こうでもしない限り、営業や製作の担当者は、お客様を前にして、断ることはできないのです。
 
絞ることが最も早く、そして、確実にクリエイティヴを下げる方法なのです。
 
この時に重要となるのが、絞った後に、他の柱があるということです。
それは言い換えると、「何かしらの、伸びる理由を持った伸びる事業」となります。
 
その事業モデルに、お客様に支持される理由、売上げが増える理由が、明確にあるかどうかなのです。「サービスがお客様に刺さる」、「強い売り方を持っている」、そして、「一回取引が始まると長くご愛顧してもらえる」このような何かしらの理由が、必要なのです。
 
その伸びる理由が無いと、やはり、「絞る」ことに移れないのです。当然、その分の売上げが減ることになります。その結果、また「クリエイティヴ」に戻らざるを得なくなります。


H社のコンサルティングが始まりました。
最初に取り掛かるのは、やはり事業モデルです。年商10億円の条件を満たす事業モデルを見つける必要があります。H社長は、それに取り掛かったのです。
 
しかし、そう簡単に見つかるものではありません。創業から十数年、社長と優秀な社員の職人芸でやってきたのです。そこに、「人間力」以上の、強みも特色もありません。
 
検討を続け、5か月が経ちました。それでも「これだ」というものは、見つかっていません。
私は、H社長に提案をしました。
「仕組化に、取り掛かりましょう。」
H社長は、戸惑いの表情を見せます。
 
確かに事業モデルは見つかっていません。しかし、成果もありました。
沢山のメニューの中に、「市場のニーズが強いもの」、また、「大きな単価を得られるもの」、そして、「工程の少なくない部分を外注化できるもの」など、良さを持つ事業(メニュー)を発見することになっていたのです。
 
しかし、それらは、「特色」と呼べるレベルまでには、なっていません。
 
 
私は、「その中の一つを選び、まずは、その仕組化を進めること」を提案したのでした。
H社長も、その狙いの説明を受け、方針の変更を決めたのでした。
 
このH社長が改革に着手してから一年、仕組化に取り組んで半年が経つ段階で、年商は2億2千万円になっています。
 
その選んだ一つのメニューの、その多くの工程を、仕組化することができました。
年商は変わらないものの、その中身は大きく変わっていました。
社長の「自由時間」が、増えていったのです。
 
一年前は、一日の殆どを「案件」に使っていました。朝から提案書や見積書をつくり、昼は顧客先で打ち合わせ、そして、夜は外注の手配。そんな毎日でした。
 
それが、数件のお客様は担当として残っているものの、その多くを社員に渡せています。日々のルーチンは、「社員から出される書類に対しての確認と指示」だけです。自らが、デザインしたり、書類を作成したりすることが、無くなったのです。
 
その代わりに、社員が活躍するようになっていたのです。
多くのその業務を、社員が回しています。お客様への提案から、外注の手配まで、その殆どを。それも、「並みの社員」がです。一人居た優秀な社員は、変わらず案件を持ちつつも、管理者業務を担ってくれています。
彼らは、今までも社内にいました。その彼らが活躍し始めたのです。
 
その結果、そのひとつのメニューの売上げが伸びることになっていました。全体の3割ほどを占めています。その一方で、メニューを絞る(捨てる)取組みもしてきたのです。
 
その絞る基準も、その対象も、事業モデルの検討を通じ明確になっていました。それを実行に移していったのです。
 
この段階になり、H社長は矢田に言いました。
「先生、このメニューで、十分いけるのではないでしょうか?」
私は、「はい、そうですね。」と答えました。
 
その答えを聞いて、H社長は少し大きな声で答えました。
「先生、必ずしも、特色は必要無いということですね。」
 
H社長が、「特色」の呪いから解放された瞬間です。
 
世の中には、いくつもの間違った考え方があります。
その中の一つが、これです。
「事業を伸ばすためには、何かしらの特色が必要である」
これは、半分正しく、半分正しくありません。
 
確かに、事業の「特色」があれば、それに越したことはありません。それを理由に事業を伸ばすことができます。実際に、注目される会社は、そんな会社ばかりです。
 
しかし、世の中には、「特色」が無くても伸ばしている会社はあります。それも沢山。その数は、「特色が有って伸びている会社」のそれより、多いのではないかとも思っているほどです。
 
それら多くの会社は、何を理由に伸びているのか。
それは、仕組みです。内部の仕組みによって伸びているのです。
 
その会社では、計画通りに、一年間、一か月、一週間、一日を回しています。
新規開拓のためのDMを出す、フォローの電話をする、見積もりを出す、またフォローの電話をする、そして、社内関係部署との定期的な打ち合わせをする。日報をつける。それを粛々と回しているのです。
 
そして、それらの仕組みを定期的に、見直しています。課題やアイディアが出ると、確実にそれを業務に反映していきます。
 
それで、十分勝っていけるのです。
 
競合で、それらをまともに回せている会社は、殆ど無いのです。
 
そのH社も、その勝ち方だったのです。
H社のサービスをお客様に案内して、「すごい!」と反応があったことは、一度もありません。一部が「いいね」であり、その多くは「ふーん」です。
 
でも、H社はしっかり約束したことをするのです。書類も出す、連絡もする、それを忘れず、その品質を保ち、行います。それも全員が、それも、いつでも同じように。
 
だからコンスタンスにお客様に当たれるのです。
だから信頼も勝ち得ることができます。
その結果としても、売上げ増となったのです。
 
H社の年商は、その一年後、2億6千万円になっていました。そして、もう一年後、3億3千万円です。
その中身は、よりスッキリしてきています。売上げに反比例するように、沢山のモノを捨ててきたのです。そして、その仕組みはより強固なものになっています。
 
H社長は、言いました。
「先生、まだ、特色は見つかりません。しかし、このまま当面は進んでいこうと思います。この内部の仕組みという強みを持って。」
 
 
特色のある事業を作って、伸ばすのも良し。
特色のない事業でしっかり仕組みを作って、伸ばすのも良し。
 
それでも、勝てる。それでも、十分伸ばせるのです。
 
それどころか、これこそが、市場や環境に左右されない、最高の特色なのです。

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