No.441:事業には、明確な伸びる理由が必要。特色のないF社はどのようにその地域で選ばれる会社になったのか?

№441:事業には、明確な伸びる理由が必要。特色のないF社はどのようにその地域で選ばれる会社になったのか?

この日は、地方都市での面談です。私の出張に合わせ、ホテルのロビーを指定させていただきました。
 
この時の広告業F社は、年商1億2千万円、社員数8名でした。
メインのサービスをホームページの製作とし、顧客の殆どがこの地域の中小企業です。
 
「先生の本を読みました。正にその通りで、当社はクリエイティヴだらけです。」
昨晩も遅くまで仕事をしていたと言うF社長の目の下には、クマが出来ています。
 
そして、言われました。
「先生、今の事業は、私一人の力で成り立っています。何か事業に特色が欲しいです。」
 
私は、少し間を置き答えました。
「必ずしも、事業に特色が必要な訳ではありません。特に御社のような、地方で中小企業相手にしている事業なら猶更です。」


事業には、何か伸びる理由が必要です。
その理由があるからこそ、同業他社に勝てるのです。だからこそ、お客様から選ばれ、儲けることができます。
 
事業の勝ち方は、大きくは次の三つになります。
 
1.特色を持つこと
この特色の中身は、大きく二つになります。
一つは、「市場の取り方」です。他社が目を付けていない市場を創造し、そこを全力で取りに行きます。それにより戦わずして勝つことができます。
 
もう一つが、「差別化」です。WEBマーケティングが強い、独占的な販路を持つ、安売りを支える仕入ルートを持つ、顧客が買いやすい料金体系である、など、この勝ち方には多くのものがあります。
 
2.スピードで勝つ
他社より早くそのサービスを市場に投入し、お客様に早くアプローチを掛けます。その結果、そこでのシェアを取ります。
 
その時には、そのビジネスモデルやサービスが自社のオリジナルの物である必要はありません。そのアイディアは、他社のものを真似てもよいのです。自社には、スピードという強みがあります。
 
3.仕組みで勝つ
会社全体で、決まったことを決まったように行います。それを坦々と、そして、正しく行います。これが出来ている競合他社は多くありません。その多くが個人の能力で動いています。そのため、安定した継続性がありません。
自社は、仕組みにより、その安定した継続性を担保しています。そして、組織としてその改善を続けていきます。
 
この3つの勝ち方以外に、もう一つあります。
しかし、これは、我々中小零細企業が取れるものではありません。
 
4.物量で勝つ
ある地域やある業界に向けて、広告や営業担当を大量投入します。それにより、他社の顧客を削り取りに行きます。他社を排除したり、シェア率の目標を達成したり、それが出来た時に、その攻勢を緩め、次に移ります。
 
我々は、何か勝てる理由を持つ必要があります。
「この事業は、―――――――――だから伸ばすことができる。―――――――だから他社よりも選ばれる。」
社長は、これを明確に説明できる必要があるのです。


この時のF社には、この3つがありませんでした。
 
事業のメインは、ホームページの製作です。お客様にヒアリングし、企画提案し受注をとり、製作する。そして、契約更新を得る。そこには、クリエイティヴは有っても、事業としての特色はありません。
 
そして、スピードもありません。時代の先を読み意思決定をするはずの社長が現場に囚われ、経営的な仕事を出来ていないのです。決めたルールや方針などの定着には、いちいち時間が掛かります。
 
また、仕組みもありません。多くの業務で属人性が高く、安定とはほど遠い状況です。案件が増えると混乱し、業務の改善も進んでいません。
 
事業に特色と呼べるものは無く、意思決定もその実現もすべてのスピードが遅い、そして、仕組みが無く、属人性が高く、安定した継続性はない。
これでは、F社が勝てる理由も儲かる理由も無いのです。それ以上に、これ以上F社が良くなる理由が無いのです。
 
F社長は、「特色のある事業を作りたい」と言われました。
私は、それをお聴きして次の提案をしました。
「先に仕組みを作りませんか。」
 
変革のセオリーとしては、事業が先です。事業を変え、その事業に合わせ仕組みと組織をつくっていくのです。しかし、この時のF社長の毎日の状況を聴くとそれは非常に危険であると判断したのでした。この状況で事業に手を付ければF社長は潰れてしまいます。
また、社員の大量退職も予測ができます。社員も疲れています、そして、F社長への不信も積もっていると考えたのでした。
 
F社長は、この提案を受け入れました。
仕組みづくりの取組みは、私が想像した以上にスムーズに進むことになりました。
本当にF社長は、頑張られました。それに応えるように、社員が協力してくれたのです。彼らも、F社長の健康のことを心配していたのです。そして、もっと自分達にできることはないかと思っていたのです。
 
その甲斐もあって、4か月もすると社内の状況は一変しました。
「先生、驚きました。私しかできない業務だと思っていたものを、社員がこなすようになっています。」
 
以前のF社は、次のような状況でした。
会社を大きくするために集客を強化していました。そのすべてを「社長一人」で対応します。当然、その状態では、案件をスムーズにこなせないために、社内はいつも混乱しています。お客様からのクレームも多く、製作の品質も悪く手戻り費用も多くかかっていました。
そして、ホームページを納品すると、ほったらかしなのです。2、3年経つと、お客様から保守契約解除の連絡があります。他の会社に依頼をしたとのことです。
 
これで業績が良いはずがありません。そして、社員の入れ替わりも激しいのです。
 
 
今のF社は、完全に変わりました。
新規顧客は多くありません。毎月、ホームページから数件の問い合わせがあるくらいです。社員がヒアリングに行き、その案件をチームで進めます。その進捗もしっかりお客様に報告しています。外注先の品質と納期のコントロールもできています。その結果、顧客満足度も高まり、利益も残せるようになりました。
 
ホームページの製作後には、しっかり保守契約を提案し、その後もコンスタンスに「いかがですか」、「何かお困り事はありませんか」とアプローチをします。これにより、解約は無くなり、ホームページのリニューアルや採用のホームページの製作などの案件を頂けるようになったのです。
 
月々の業績は安定し、十分な利益も確保できるようになりました。そして、社員の顔つきも明るくなりました。この4か月間退職者は出ていません。
 
F社長は、言われました。
「先生、このままでもうちは、十分伸ばしていけるのではないでしょうか。」
 
そうです。今のF社には、仕組みという勝つ理由があるのです。
同業の広告業やホームページ製作会社で、仕組みで回っている会社はありません。
他社は、昔のF社のように、チームで運営も出来ていなければ、定期的に顧客をフォロー出来ていないのです。これなら十分勝つことができます。
 
また、F社長は、2つの「当社がお客様に選ばれる理由」に気付きました。
 
・この地域には、この業種で当社のような規模でやっている会社は殆どない。
昔からこの地域を牛耳る中規模の広告会社は数社あるが、その他は個人事業主レベルの会社ばかり。中小企業(小規模に近い)にとって、当社のような規模が一番使いやすい。
 
・お客様は、それほど大層なことを望んでいるわけではない。
一部のお客様からは、成果を強く求められることはあるが、その他多くの会社はそれ程では無い。会社紹介のホームページを作ってくれ、採用のホームページが欲しい、というレベルの期待である。それよりも「しっかり説明してほしい」という確実なサービスを求める要望のほうが大きい。
 
この地域で事業を行っている多くの企業に、それほどの先進性はありません。どちらかというとオールドエコノミーと呼ばれる事業です。それで、今も十分会社は成り立っているのです。そんな企業にとって必要なのは、安定したサービス、安定した依頼先なのです。
 
その後も、F社の仕組みに支えられた「安定」は続きます。
その結果、お客様からの紹介も多くなってきました。
「あそこは何がすごいわけでもない。でも、しっかりやってくれているよ。」
 
 
特色を求めることも大事です。
しかし、それ以上に、安定も大事なのです。
 
社内が安定していないうちの拡大は、必ず崩壊に向かいます。
その状態で、どんどん集客しても、社内は混乱するばかりです。そして、その地域での評判を悪くするばかりです。
 
仕組みづくりに取り組めば、必ず成果が出ます。
そして、それは、自社の強みにできるのです。
そして、その強みは他社から見えることも、盗まれることも無いのです。
 
社長が、いま理想としているサービスの形や社員の動きを、まずは実現する。
それだけで十分に伸びることが出来るのです。
 
他の経営者から聞かれてF社長は、こう答えています。
「当社が伸びている理由は、決められたことをその通りに行っていることです。」
 
これを、精神論として受け取ってはいけません。
そこには、仕組みがあるのです。

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