No.492:クリエイターはいても、ディレクターがいない。そんな会社で起きていることとは?

№492:クリエイターはいても、ディレクターがいない。そんな会社で起きていることとは?

N社は、主に大手中堅企業向けに販促物製作を提供している会社です。
この日は、社長と二人の幹部とのコンサルティング開始前の面談でした。
 
私は、事業内容をお聞きして驚きました。この事業であれば、競合に勝てそうです。それ以上に、属人性を排除できそうなのです。そうであれば大きくすることができます。
(コンサルティングを提供する側からしても、販促物製作は非常に難しい業種の一つです。)
 
私は、「すごいですね。よくこのモデルを見つけられましたね。」と言いました。
N社長、「そうなんです、苦労しました。10年かかりましたよ。」と返します。
 
私はお訊きました。
「では何が課題なのですか?」
 
黙っていた幹部二人が声をそろえて言います。
「人が育たないのです。」


コンテンツとプロセス、両方の視点で物事を見る必要があります。
コンテンツとは「その物」を指します。
プロセスとは「その過程」です。
 
私たちは、どうしても目で見えるコンテンツに向かいがちです。
しかし、本当に重要なものはプロセスの方です。
なぜならば、そのコンテンツはプロセスから生み出されるからです。
 
会社において、そのプロセスの典型が『会議』です。
良い会社では、会議が良いプロセスで運営されています。
 
時間通りに始まり、そして、進捗の確認が行われます。そして、次の予定の発表があります。
議題に対し素案が出され、疑問や意見が出されます。そして、最終的な意思決定がされます。
その会議は予定通りの時間で終わります。
 
その良い会議というプロセスにより、よい結果が生まれます。
「次の行動が明確になった」、「現実的で実効性の高い解決策が見つかった」、「大きな方針が決定された」すなわち、良いコンテンツが生まれたのです。
 
そして、それ以上にその良いプロセスは、参加者に良い影響を与えます。
各メンバーは、その決定事項に対し、理解も納得もしています。そのためその後の実行力も高まり、イレギュラーへの適宜の対応もできます。また、そのプロセスに参加した者が育つことになります。そして、そのチーム全体の一体感が高まるのです。
 
良い会議から、良い結果が生まれるのです。
その結果としての良い会社なのです。
 
もし悪い会議をしながら、良い結果が生まれる状況があるとしたら、それは次の状況が予測されます。「優秀な人(社長を含む)が一人で話し、一人で意思決定している」、「他のメンバーは意見しない、または、よそ事をして集中していない」。
良い結果が出ているので短期的にはいいのですが、長期的にはまずい状態に陥ることは目に見えています。
 
メンバーはその決定に納得をしていません。それどころか理解をしていません。当然、その後の実行力は弱くなります。イレギュラーに対応できないためにいちいち社長に指示を仰がなければなりません。また、若手どころか管理者も育ちません。そして、チーム全体の一体感は生まれないのです。
 
この状態を続ければ、会社は多くの問題を抱えることになります。この状態で、活発な組織などあり得ないのです。また、スピードある成長展開など無いのです。
 
会議と言うプロセス(過程)の良い会社は、安定して良いコンテンツ(成果)を生み出します。そして、その後の実効性を高め、かつ、人を育てます。
 
(これが、私がコンサルティングの場で皆さんに対し、会議についてしっかりお話する理由です。会議の場を正すことで、組織作りを加速させることが出来るのです。)


一人の人間においても、プロセスが重要になります。
どの分野においても、プロフェッショナルと呼ばれる人達は、良いプロセスを持っています。
 
漫画家、小説家、彼らはそれを作り出すための自分なりのプロセスを持っています。
建築家、システムエンジニア、施工管理者、営業担当、クリエイター、経理事務、、、彼らは成果を出すためのプロセスを持っています。
 
そのプロセスを、経験と工夫により構築してきました。
彼らは、そのプロセスの重要性を知っています。そして、今もその改善を続けています。
 
プロフェッショナルは、その良いプロセスを持つからこそ、良い結果が生まれるのです。
そのプロセスが安定しているからこそ、安定した成果(コンテンツ)を得ることができているのです。
 
どのような順番で組み立てればよいのか、どのような点を注意すればよいのか、彼らはそれらを持っているのです。
 
それに対し、仕事のできない人、成果の出せない人というのは、そのプロセスがダメなのです。プロセスがダメだから、成果が出せないのです。プロセスの形を持たないから、安定した結果が得られないのです。
 
彼らに対し、「もっと売上げを上げろ」や「もっと良いものを作れ」、「もっとコストを下げろ」、そして、「しっかり納期を守れ」と言っても全く無駄なのです。それらは、コンテンツを指しています。
 
彼らに必要なのは、プロセスについてのアドバイスです。
「アポイントはこうしたらどうか」、「この道具はこのように使え」、「まずは何に費用が掛かっているか調べよう」、「案件の管理表をつくれ」。
具体的なプロセスについてのアドバイスなのです。
 
(だから私は、皆さまに「マニュアルが大事ですよ」とお伝えしているのです。マニュアルとは、社内で一番上手にその業務をこなす人の『プロセス』をまとめたものと言えます。それを皆で共有するものなのです。)


この話をN社長と幹部のお二人にしました。
頭の良いお三方です。すぐに閃いたようです。
「うちの会社でも、優秀な人とはプロセスが上手な人です。」
 
N社は、主に大手中堅企業の販促物を製作しています。
そこでは、良いコンテンツを作るということはもちろんのこと、良いプロセスが求められます。「事前にクライアントにこれを確認しておいたほうがいいな」、「このタイミングで業者に仮発注をしていこう」、「一回うちの上司と先方の偉い人を会わせておこう」、「デザイナーのA君は独走する傾向がある、まめにチェックしよう」。
このような視点を持って行動しています。その結果、大手中堅企業の担当者から信頼を勝ち得るのです。また、協力業者や部下を適切に動かすことができるのです。
 
実際に、こういう人がN社では成果を出していました。お客様からのリピートの依頼も多く、業績も安定しています。
このプロセスのできる人が、対外的には窓口となり営業の中心の役に落ち着きます。社内では、デザイナーやライター、外注業者を使う司令塔であり管理者になります。
N社では、このポジションのことを「ディレクター」と呼んでいます。
 
幹部のお二人が言われた「人が育たない」というのは、このポジションでした。
デザイナーやライターなどのクリエイターは採用できます。また、事業モデルが良いので取ろうと思えばもっと受注を増やすことができます。
しかし、製作の要となる「ディレクター」がいないのです。
 
私は御聞きしました。
「なぜ、いないのですか?」
幹部のお一人が答えました。
「業務が難しいからでしょうか。」
 
少し沈黙が続きます。それまで黙っていたN社長が口を開きました。
「彼らには、プロセスという視点が無いのではないでしょうか。」
 
デザイナー、ライターなどのクリエイターは本気で良いものを作り出したいと思っています。この分野に興味を持ち学校に行き、そして、この業界この会社に入ったのです。そして、今も勉強を続けています。彼らは、良い『コンテンツ』を追求しているのです。
 
そこには『プロセス』という視点が抜け落ちてしまっているのです。
残念ながら、それではお客様の信頼を勝ち得ることはできません。「デザインは良いのだけれど、あの人は途中の連絡が無いからね。」とプロセスに対する不満を持たれることになります。また、外注業者や他のクリエイターとの協働も上手くいきません。
また、年齢を重ねた「コンテンツ」だけで「プロセス」が抜け落ちたクリエイターに、需要は無いのです。
 
『プロセス』が抜け落ちているために、彼らは、その道でのプロフェッショナルになることを目指していながら、いつまでもそう成れないのです。
 
どの分野でも同じ構図になっています。
施工管理、プロデューサー、営業企画、プロジェクトマネジメント、そして、主任、課長、部長とプロセスに貢献する人が重宝され、多くの報酬を得るのです。
クリエイターの世界では、その視点が特に落ちやすいのです。
 
このN社長の言葉に、幹部二人も頷きます。
私は言いました。
「それをしっかり伝えるようにしたらいかがでしょうか。」
 
会社としては、彼らにプロセスに対する視点を持ってもらう必要があります。また、それが彼らのためにもなるのです。それを新入社員研修や社内研修会などの内容に折り込むのです。
この視点を若い時に植え付ければ、育ちも変わってくるはずです。また、いちクリエイターからディレクター、そして、管理者というキャリアも見えるようになります。
 
N社の「人がいない」という理由はここにあったのです。
プロセスに視点が行っていない。
その結果、「ディレクターが育たない」という状況に陥っていたのです。その結果、案件はあるのに、受けきれなかったのです。
 
そして、当然ですが、管理者の成り手はいつまで経っても現れません。
管理者とはプロセスの塊です。そのプロセスとは、「部下の育成(部下のプロセスを正す)」と「仕組みの改善(プロセスを見直すこと)」ですから。
 
N社は、人を育てるプロセスの獲得にこれから乗り出すことになります。
素晴らしい事業モデルを持つN社が、これを獲得できれば大きく飛躍できます。
 
N社長は、最後に言われました。
「私自身にプロセスと言う意識が欠けていたのです。彼らと話し合って、人材育成の仕組みを見直したいと思います。」
見事なN社長です。
 
(まとめ)
本当のその会社の強さとは、プロセスにあります。
事業モデルは他社から真似られても、そのプロセスは真似できません。
また、一人の社員が抜けても、そのプロセスは残るのです。
 
御社に本当に必要なものはプロセスです。プロセスの改善を続ける組織を作るのです。

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