No.517:ゼロイチの得意な社長が陥りやすい状況と対策
F社長は、5つの事業を行っています。
お聴きすると、どの事業もユニークであり、大きく跳ねる夢を持たせてくれます。
しかし、実際には、そのどれもが年商数千万円から1億円という規模で足踏みをしています。
F社長は言われました。
「今は〇〇の事業は手を付けず、〇〇の事業の再建を急ごうと考えています。」
やはり複数の事業を成功させることは難しいことなのでしょうか、ハンカチで額の汗を拭いながらF社長は言いました。
「私、ゼロイチは得意なのですが・・・」
早急に何かを立て直す際には、「何か新しいことを始めよう」と考えるのでなく、まずは「削れるものはないか」を考えます。
例1.業績が悪い場合
どうしても新サービスや新たなマーケティング手法などを考えてしまいます。
しかし、スピードを持って業績を回復させるためには、「何が足を引っ張っているか」を考えることです。
・儲けの割に手間がかかり過ぎている顧客はいないか。
・採算割れ(低粗利高)をしている商品はないか。
それを無くすことで売上げは下がることになりますが、労力や時間という資源を生み出すことができます。その生み出したものを優良な顧客や高粗利の商品に回します。
例2.営業担当者の成績が悪い
その営業担当者の能力や行動うんぬんに手を入れる前に、削るものがないかを考えます。
・営業担当者に特性の異なる顧客や商品を扱わせていないか。
・営業担当者は簡単な書類作業や調査などの業務に多くの時間を取られていないか。
一人の営業担当者に複数のサービス、特に性格の違う物を扱わせれば、「分散」を起こすことになります。一つのサービス、一つの顧客群に注力させることです。
また、その営業担当者がやっている簡単な業務を、事務員や在宅ワーカーでやるようにします。能力も給与も高い営業担当者には、その労働時間の多くをクリエイティヴと重要度の高い業務に使わせるようにします。
これらにより、その営業担当者が成果に直結する対象と行動に注力できるようにします。
例3.自分が忙し過ぎる時
忙しい毎日を変える方法は、「より効率よく」ではなく、「何をやめるか」です。
振返りの時間をつくり「多くの時間を取られているもの」また「精神的に大きな負担になっているもの」を確認します。そして、止めるか、それとも、誰か他の人にやってもらうか、を考えます。
それにより余裕が出来、しっかり考える時間をつくれます。そして、再度自分の人生、会社の飛躍のためにしっかり優先順位付けを行います。
何かを変える時には、まずは「何かを捨てること」、「何かを削ること」を考えるのです。
そして、実際に行うのです。これが、早期に回復する、スピードを持って変革する最も有効な手になります。やはり多くを抱えた状態では、高く飛ぶことはできないのです。
ゼロイチが好きな社長は多くいます。
「今度は〇〇という集客手法を取り入れてみよう」
「要望のあった〇〇をメニューに追加しよう」
「この業務のデータをとり、分析するようにしよう」
新しい取組みを始めることは企業としては、非常に重要なことです。
その社長のひらめき、そして、その行動力こそが成功者たる所以です。そして、成長企業の絶対の条件となります。
冒頭のF社長は、自分で言うだけあってゼロイチが得意な社長です。
その甲斐もあって、事業を5つも立ち上げています。
どの事業も社員で回せており、売上げも数千万円から1億円はあります。世間から優秀な社長であり十分な成功者に見えます。
しかし、最近のF社長はその状況を嘆いています。
「普段の業務は社員で回せているのですが、いざ問題が起きると私が対処しなければなりません。」
F社長は、ゼロイチは得意でも、その1を3や5にするのは苦手なようです。
その立ち上げたものを社員に振るものの、受け取り切れていないようです。
F社長は言います。
「当社には、それができる社員がいません。また、5を5のレベルで業務を回すことも出来ず、5が4に下がっていきます。」
当社のコンサルティングを受けて半年、その責任が自分にあることはF社長も十分解っています。最近、社員が5を5で回せるように、また、管理職者が1を3や5にできるように仕組みを整備し始めたところです。
それらが無いために、今の状況を招いてしまっているのです。
必ず時間の経過と共に環境は変っていきます。そのため「仕組みを変化させる機能」を持たない会社は、当然のこととして問題だらけの状況に陥ることになるのです。
その結果、最近のF社長は火消しに走り回ることになっているのです。
今の5つの事業は、どれもが儲かっていますが中途半端な年商規模のものばかりです。
そして、各事業に「社長」や「事業部長」を付けられていません。管理者がいる事業もありますが、彼らが担っているのは「マニュアルを作成するというレベル」です。
5つの事業において、未来に向けて作り変えていく機能の殆どをF社長が担っているのです。
それでスピードある成長展開が出来るはずはありません。
F社長がその時に関わっているその事業が進むことになります。その間、F社長が関わらない他の事業は歩みを止めることになります。そんな時に別の事業で問題が起きます。F社長がその対処に向かうと、手放された事業が止まることになっているのです。
まともに環境の変化についていくことも出来ていないのが実情なのです。
F社長は言いました。
「今、いくつかの事業を辞めるか、売却することを考えています。」
例え仕組化が進んだとしても、「沢山やり過ぎ」という根本的な状況は変わらないのです。また、どれか一つの事業を任せられるほどの人材が早期に出現することは期待できません。それ以上に今のスピードの遅さが致命的なのです。
ゼロイチではなく、イチゼロを考え出したF社長です。
イチゼロを考える。
・立ち上げた事業を辞めるという意思決定をする。
・増えすぎたメニューを整理し、そのいくつかを無くす。
・社内の業務の棚卸を行い、漫然と続けている業務を止める。
イチゼロを考えないと、社内はすぐに混沌となることになります。
社員の力は分散し、社内はごちゃごちゃした業務だらけになります。その分、効率性は無くなり、生産性は低くなります。
ゼロイチ同様に、イチゼロの意思決定は社員には出来ません。
自分が関わる事業を辞めるという発想は持てません。また、一部の顧客から要望のあるメニューを無くすという「顧客を裏切るようなこと」は考えられないのです。そして、改善のために始めたデータ収集を「使われないのであれば止めましょう」とは、それを長年続けてきた社員が居れば言い出せないことなのです。
イチゼロも立派な社長の役目です。
「あれ辞めるか~」と社長が言わなければなりません。
この言葉を「あれをやってみよう(導入しよう)」と同じ回数だけ言わなければなりません。
プラスマイナスゼロです。
そうでなければ社内には、モノが増え続けることになります。
イチゼロを知らない、イチゼロを苦手とする社長の会社の成長は遅くなってしまうのです。
成長企業を引っ張る社長は、イチゼロの重要性を知っています。
そして、
同時にイチゼロを自分の仕事として、しっかりこなしています。
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