No.600:社員に主体性を持たせたい。では、必殺技を授けます。
特殊加工メーカーM社長との面談です。
M社長からは、繰り返しこんな言葉がでてきます。
「彼らには、もっと考えろと言っています。」
「私は、主体性を持って仕事に取り組んでほしいと、何度も伝えているのです。」
私は、黙って聞いていました。
そして、話が一旦止むのを待って、言いました。
「M社長、それ、まったく無駄ですよ。」
「考えろ」、「自分で動け」、「主体性を持て」は無駄な言葉
考えられる人材は、最初から考えております。
「主体性を持て」と言われて、持てるような人材なら、最初から持っています。
少なくない人は、本当の意味で「考える」ということが分かりません。
「主体性」と言う言葉を知っていたとしても、それが自分に不足しているかどうかも分かりません。ましてや、それらを自分の中で、どのように目覚めさせればよいのかなど、考えたこともないのです。
「考えろ」、「自分で動け」、「もっと主体性を持て」、これほど言って無駄な言葉はありません。
社員は、「何を考えればいいか?」「自分はどう動けば正解なのか?」、そして、「そもそも何を怒られているのだろうか」となり、益々動かなくなります。
まずは、考えるテーマを与える
社員に考えてほしければ、まず、考えるテーマを与えることです。
たとえば、
「この工程を、あと20%短くするにはどうしたらいいだろうか?」
「この不良を半分にするために、何を変えればいいだろうか?」
このような問いを与えれば、多くの社員は考えることができます。テーマを生み出すことができなくても、与えられたテーマについては考えることができるのです。
人口の6割は、テーマを与えれば考える人
本当に優秀な社員は、空気を吸うように考えます。それを特別なものとは、まったく自覚はありません。目の前の作業をこなしながら、「もっとよくできないか」「何か問題はないか」を、自然に考えています。
この割合は、全人口の2割です。
そして、残りの6割は、「考えるテーマを与えれば考えられる人達」です。
前者が「問いを自分でつくれる人」、後者を「問いがあれば考えられる人」と言うこともできます。
この6割をどう使うかです。多くの会社では、この人達に、「作業」だけをやらせています。「これをやって」「次はこれ」「終わったら、これ」と、仕事を渡しています。そのため、日々、「考えない状態」にしてしまっています。
そして、考えるテーマを与えていないので、考える機会が完全に無い状態です。この状態で、考える力が育つはずがないのです。それどころか、退化していきます。そして、「考えろ」と責められています。
彼らは、今、考える必要がない状態に置かれているのです。
これは、完全なる会社としての失敗です。
この6割をどう活かすか。これを考えることです。
優秀な2割は放っておいても考えます。この6割を活かせるかどうかが、会社の力の差になります。
では、残りの2割はどうするのか?
考えられない人です。中には、考えたくない人もいます。問いを与えても、何も動かない人です。こういう人たちまで、無理に「主体性のある人材」に育てようとする必要はありません。
決められた作業を正確にやってもらえばいいのです。人には、それぞれ役割があります。全員を同じように人材にしようとする必要はありません。
主体性を育てるには、本人の口を動かせ
そして、主体性を育てたければ、本人の口を動かすことです。
社長が10分間話して、社員が最後に「わかりました」と言う。
これでは、主体性はまったく芽生えません。
社長が話す時間を減らし、「あなたはどう思う?」「何が問題だと思う?」「どうしたらいいと思う?」と問いかけ、目の前の社員の口を動かすことです。
または、ミーティングの場を設け、社員同士で話し合いをさせることです。
重要なのは、とにかく口を開かせることです。口さえ開かせれば、当事者意識は必ず生まれます。
ここで多くの人は逆に考えます。
「当事者意識があるから口を開く」、これは間違いです。
正しくは、口を開くから当事者意識が生まれるのです。
これは、挨拶や体の使い方と同じです。元気に挨拶する。胸を張ってシャキシャキ歩く。すると、心も元気になっていきます。
逆に、小さな声で挨拶する。猫背でだらだらと歩く。すると、心まで元気をなくしていきます。
動くから元気になる。口を開くから心が芽生えるのです。
人間は簡単な生き物なのです。そういうふうに、できています。
必殺技:テーマを与える。メンバーで話し合いをさせる
ここから、社員を動かすための必殺技が見えてきます。
「テーマを与える。メンバーで話し合いをさせる」
これです。
この時の注意点が一つ。それは、具体的なテーマを与えるということです。
「会社を良くするために、話し合ってください」これではダメです。
「もっと働きやすくするには?」これも広すぎ。
「生産性を上げるには?」「不良を減らすには?」これでも、まだ難しい。
これらでは「何について考えるか」から、自分たちで決めなければなりません。解決方針の決定、すなわち、テーマの選定は、かなり高度になります。
だから、具体的にテーマを与えましょう。
「この工程の段取り時間を、30分から20分にするにはどうするか」
「先月発生したこの三つの不良を、今月ゼロにするためにはどうするか」
ここまで具体的にします。
そして、メンバーを招集します。
一つの部屋に集め、1時間なり、まとまった時間を与えます。
その際には、紙も渡します。その紙には、考えてほしいテーマを明確に書いておきます。
相手のレベルによっては、「現状」「原因」「理想の姿」「解決策」といった項目まで用意しておきます。
そこまでするのか、という声が聞こえてきそうです。
はい、やるのです。口を開かせるためにです。
最初から、「自由に考えてください」では口は開きません。集めても話し合うステップが解らない可能性もあります。考えられるように、考えるための枠を用意するのです。いえ、口を開かせるために、です。
事業に参画する本当の社員をつくる
数回「テーマ+話し合い」これを行うと、社員は少しずつ変わっていきます。
最初は、「言われたことをやる人」だった社員が、「どうすれば、もっと良くなるか」を考えるようになります。
つまり、『社員』になっていくということです。
社員とは、経営者の言うことを何でも聞く人のことではありません。
仕事を良くするために、自分で考え、自分の意見を持ち、周囲と話し合える人のことです。能力がどうということではありません。それよりも大切な意識が変わるのです。
そのために必要なのは、「考えろ」、「主体性を持て」という口で言うことではありません。具体的なテーマを与える。そして、メンバーで話し合わせる、です。
これを繰り返すことです。すると、「問いがあれば考えられる6割」の社員が、少しずつ自分で問いを持つようになります。その結果、彼らは、そこで遣り甲斐を得ることができるのです。
自分で考え、自分の口で話し、自分たちで答えを出す。
その繰り返しによって、当事者意識が育っていきます。
社員の主体性は、待っていても生まれません。社長が、主体性が育つ場をつくるのです。
そして、それを続ければ、「指示を待つ人」を、「考える社員」に変えていくことができます。
テーマを与える、話し合わせる、ぜひやってみてください。
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矢田 祐二
理工系大学卒業後、大手ゼネコンに入社。施工管理として、工程や品質の管理、組織の運営などを専門とする。当時、組織の生産性、プロジェクト管理について研究を開始。 その後、2002年にコンサルタントとして独立し、20年間以上一貫して中小企業の経営や事業構築の支援に携わる。
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