No.271:なぜ無駄な会議が増えるのか。その根本原因は大きく3つ。
S社は年商30億円を超えるため、当社の「顧客」ではありません。一度は面談をお断りするものの、「社員のため」という想いに負け、お受けすることにしました。
相談内容の概要は以下の通りです。
・毎日の残業のため、社員が疲弊している。
・調査の結果、労働時間中の会議の占める割合が非常に高いことが解った。
・そのため、「会議革命」を行うことにしたが、一向にその効果はない。
改革を宣言し、取り組んだものの、変化のない状況に、社内の雰囲気は更に悪くなっているとのこと。どうしたものだろうかと困り顔のS社長です。
「矢田先生、どうか会議のやり方を我社にご指導いただけませんか。」
私は、お伝えさせていただきます。
「会議の問題ではないはずです。」
事業が大きくなる過程で、会議を増やすことになります。
年商数億円の社員数名という規模では、それほどの分業は有りません。社長や一部の社員が、案件の進捗や品質を管理しています。そして、多くの部門の管理者が兼ねています。
そのため、横の分業と縦の分業を繋ぐ『会議』という場の必要性は高くありません。また、その繋ぎの精度が悪くとも、回っていきます。
規模が大きく成る過程で、分業を進めることになります。その分業を繋ぐための『会議』を増やしていきます。タイミングや内容を考え、会議を設計します。
また、会議により、より高い価値を生むことができます。部門という各専門家が議論することで、新しいアイディアを得ることが可能になります。
この会議も、社長の『設計』の範疇の中にあります。どこで会議が必要となるのか、その内容を話し合うのはどの会議か、決めていきます。事業モデルと階層の数で、必要となる会議の数は決まってきます。その数は、それ以上でも、それ以下でもない、ものになります。(矢田は、組織図を見せていただければ必要となる会議数を答えることが出来ます。)
それ以上、会議が増えることはありません。期中で増えることもありません。また、各部門などの当事者だけで会議を増やす決定をしてよいものでもありません。
しかし、世の多くの会社では、会議が必要以上に多く存在するという現象が起きています。
会社が大きくなる過程で、「会議が必要以上に増えること」があります。また、一つひとつの会議の時間も、長くなっていきます。
会議の生産性は、会議の数と反比例して悪くなります。そして、それに同調して、会社の生産性も悪化することになります。気づくと社員一人当たりの稼ぎが、下がっていっています。
そんな会社では、大きくは次の3つの問題が予測できます。
1.案件管理が出来ていない。
本業である案件の見える化ができていません。
・個人商店スタイルで、一人ひとりが案件を抱えている。そのため、知らないところで「納期遅れ」や「対応漏れ」が起きている。
・お客様からの要望が後工程に伝わっていない。また、趣旨を理解せずに進めたために、手戻りが発生する。
これらの問題の対策として、会議が持ちだされます。対面で情報共有をすれば、この問題が解決すると考えるわけです。営業会議、案件進捗会議、引継会議の名前で呼ばれます。
しかし、これで解決されることはありません。少し経つと、同じ問題が起きることになります。根本的に案件管理の仕組みが出来ていません。スタッフを少し増やせば、必ず問題が起きることになります。
その後も、相変わらずの個人商店スタイルが続きます。会議が増えた分だけ、労働時間が伸びることになります。会議の問題ではなく、チームとして案件を管理する仕組みが無いのです。
2.皆で決めることが、良いことだと思っている。
企業は、誰か一人の考え方によって出来ています。その一人の強い思いにより、特色ある事業が作られます。また、その一人の強い思いにより、強い組織ができます。その一人の思いでできたのが会社です。
一人のそれは、やや常人とは違ったものとなります。それだからこそ、その会社は、儲かることになります。他社より特色がある、他社よりスピードが生まれるのです。そこには、やはり「異常」が必要なのです。(常人から見て)
多くの役員や社員にとっても、理解できないことも多くあります。考えれば困難なことが多いことは、想像できます。それでも、組織のトップは、「解っている。だから、やってくれ。」と推し進めることになります。
企業において、その多くが独断専行で進みます。当然、役員や社員から意見は聞きます。そして、それ以上に時代の流れを読みます。ある程度の議論のうえ、最終的な決定を下すことになります。ある程度の独断専行が然りなのです。
企業においては、民主主義は間違いです。皆で決められることなど、多くはないのです。また、多数決で決めれば、その結果は「間違い」となります。
皆の意見を聞くことは良いことだ、独断専行が悪いことだと思っている社長の元では、会議が増えることになります。
その結果、多くのことが遅くなります。検討中(保留)の事柄も多くなります。答えがでないために、現場が動けなくなります。
ここでも、生産性が落ちることになります。
3.方針が曖昧である。
そして、やはり方針が曖昧です。方針が曖昧なために、いちいち判断を仰ぐ必要があります。また、経営層に一貫性がありません。「顧客の新たな要望」や「たまたま来た良い話」にいちいち揺れることになります。
そして、当然、管理者も困ることになります。明確な方針が無いために、各部門や現場でおきるイレギュラーに対し、素早く判断することが出来ません。また、確信を持って指示を出すことができません。その結果、管理者が機能しなくなります。
その管理者は、自部門の会議で誤魔化すことをします。部下を集め多くの意見を出させるものの、そこで決定することはありません。(正確には、出来ません。)
その結果、その管理者は、「ジャッジしない管理者」と部下からの信頼を失います。偶々その状況を知った社長が、その管理者を管理者研修に行かせます。管理者研修の効果は当然なく、社内には、名ばかり管理者と信頼関係を失った現場、そして、生産性の低い会議が残されることになります。
方針の曖昧さが、管理者を動けなくして、その誤魔化しのために会議が増えていくのです。その会議の時間は長くなり、明確な決定はされません。
中小企業において、無駄な会議が増える理由は、この3つが予測されます。
この3点を、確認させていただきました。S社長は、素直に言われました。
「案件管理の仕組みがありません。個人が案件を抱えているため、チームで助け合うこともできません。方針も曖昧です。一つひとつの方針を明確にできていません。」
そして、「社員の意見を沢山聞くことを、正しいことと考えていました。」
私は、補足をさせていただきました。「社員の意見を聞くことは悪いことではありません。それどころか、御社のような知的労働型の事業では絶対に必要です。問題は、その時々に最終的な決定をしなかったことです。そして、その決めたことを文章として残さなかったことです。」
あの面談から半年後、S社長からメールが届きました。
そこには、「会議の数が半減できたこと」、「残業時間も半減したこと」が、記されていました。
そして、「管理者に管理者を担ってもらえること。社員が家族と過ごす時間を増やせられたこと。職場の雰囲気が良くなったことが嬉しいです。」と書かれています。
社員のことを真摯に考えるS社長です。
その社長が、経営者としての視点、経営者としての能力を持つことで、更に多くの人を幸せにすることができるのです。
「社員の気持ちを気にしすぎる」という特性に、「仕組化の能力が低い」が合わさった時に、組織は機能をしなくなります。
多くのことをやろうとします。どれもが中途半端です。そして、その多くを捨てることができません。多くのメニュー、多くの会議、多くの組織替え、多くの委員会が存在します。そのくせ、本当に必要なものが社内にはありません。
社員の気持ちを気にしすぎる、多くのものを捨てられない、
その根本にあるのは、「不安」です。不安がその状態に向かわせるのです。
その不安と向き合うことが必要です。不安と向き合いながら、坦々と進めるだけです。方針書をつくる、仕組化を進める。
そこに、会社の強さが積み上がっていきます。
そこに、経営者としての自信が芽生えてきます。
その自信から出される指示が、組織を機能させることになります。その結果、社員は、十分にその能力を発揮することができます。
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