No.75:スピードと量のための分業でなく、質と経営的な視点での分業が必要
「矢田先生、いま一人で抱えている業務を数名に分業を進めるとサービスの質が下がるようで怖いのですが・・・」
ある工場設備業の社長の相談です。
その社長は、その当時44歳、社員数は6名でした。
創業し15年、社員は雇っているもの、実際は、業務の流れをコントロールしているのは、社長であり、それぞれの作業は、その都度指示を出し社員にやってもらっていました。
社長、分業が怖いという発言の後に続けます。
「当社の扱っているものは、すべて一品ものです。
顧客は大手製造業の工場、課題や要望を訊いて、それに対して、世の中にあるシステムや設備などを組み合わせて、設計します。
そして、顧客の工場で据え付け、稼働の確認まで行います。
どうしても、打ち合わせから稼働確認まで一部の人材しかできない業務なのです」
そして続けます。
「流れ作業で生産できる製品を扱っていれば、分業や仕組化も可能ですが・・・うちのようなものは、分業すれば、それだけ大量に作れますが、質の高いものはつくれません。」
この考え方には、根本的に大きな間違いがあります。
分業の目的
ここで言われている分業の目的は、『効率化による、大量生産』です。
でも、いまの日本のような成熟しきった経済で必要な分業の目的は、『高度技術の量産』です。
モノが不足し、企業の役目が「早く・安く・大量に」である成長時代の大量生産では、 スピードと量を求めた分業が経営的には必要でした。
それに対し、私たちのいる成熟社会では、モノがあまり、消費を前提とした社会とは違います。
どんな業種でも、多品種・小ロット・短納期を満たしながら、高い質のサービス(製品)を求められます。
この経済では、量を目的とした分業ではなく、高度技術を量産するために、分業することを考える必要があります。
先の設備業企業では、ひとつの案件を最初から最後まで終えるためには、すべてを解った人材が必要でした。
顧客の課題の分析からそれに対しての解決策とそれを実現する各システムや機械の知識 そして、設計、組立、施工管理まで、どの過程においても高度な技術が必要です。
だから、どうしても、ひとりの人材が最初から最後まで行うやり方になってしまっていたのです。
「ひとりの人材しかできない」
このようなケース(課題)は、私たちのいる成熟社会では、どの業種でも発生します。
そして、当然ひとりの人材が持てる仕事量には限界があります。
まして、複雑な事業であれば大きな一つの案件で手がいっぱいということもあります。
その人材の限界=会社の年商の限界ということになります。
そして、もっと不幸なことに、その会社では、人材が3年ほど経過し育ったころに辞めることを繰り返していました。
そしてひどい時には、独立しライバル企業となりました。
それでも、仕組化組織化を進めなければいけません。無理と言ってあきらめてしまえば、一生社長は現場を離れられません。
正しい分業の目的に向かって、取り組みます。
高度の技術を分業する
10ある工程を1人の人材が行っているものを、1つの工程を10人で行うことを考えます。
ひとつの工程を複数の人数で行うので、それぞれの工程が安定します。
また、人材の早期戦力化が可能です。
10の工程をある程度覚えるのに少なくとも3年、本当の意味でプロフェッショナルとなるのに10年かかっていたものが、1つの工程であれば、数か月で戦力化することが可能です。
また、一人の退職リスクも抑えることができます。
そして、独立されるリスクもなくせます。
これが分業する本当の目的です。
スピードや量を追うための分業でなく、
質と経営的な視点での分業を行うことが必要です。
その設備企業は、それから5年が経過しています、
年商も増え、社員数は32名となりました。
育てた人材に独立されてライバル企業となることもなくなりました。
社員も交代で休める様になりました。
社長も現場から離れています。
補足:この分業化を進めるためには、それだけの仕事量が必要になります。一方で営業面の強化により仕事をそのペースでとってくることが必要になります。
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