No.158:「社員の育ちが遅い」本当の原因とは?訓練制度を構築する時に、絶対に抑えておくこと。
「社員の育ちが遅いのですが・・・」
これは、よく寄せられる相談の一つです。
この事象は、まず、下記の二つを明確に分けて考える必要があります。
「決まった業務が出来ないのか」、それとも、「プラスアルファの業務が出来ないのか」
先の「決まった業務が出来ない」を言い換えると、次のように表現をすることができます。
・決まったことを教えたが、その通りにできない。そのため想定よりも成果を出せない。
社員を雇うということは、まずは、「やることをその通りにやれば成果がでる」という状態(仕組み)ができていることが前提となります。
業務のやり方が決まっており、それをマニュアルなどで本人に説明する。
そして、実際にやってもらい、修正を加え、ある程度まで出来る様にする。
この初期の戦力化の過程を、『訓練』と言います。
それに対し、後者の「プラスアルファの業務」とは、次のような状態を理想とします。
・日々の業務に対し、課題を発見し、自ら改善する。
・会議で、アイディアなどの発言を進んでする。
・顧客の要望をくみ取り、提案する。
・目標達成のために、上司や他部門と協力する。
この理想とかけ離れた時に、その人は「不十分」となります。
・言われたことだけをこなす。
・改善やアイディアを言わない、言えない。
・顧客に型通りの対応をし、クレームになる。
・目標達成に対し、意欲も具体的な行動もない。
この「プラスアルファの業務」には、その人の持つ素養(姿勢、考え方、自頭の良さなど)が少なからず影響します。
この後者を伸ばす過程を、「教育」と言います。
決まったことを教えることを「訓練」、目的や状況から適切に対応できるようにすることを「教育」と言います。
「社員の育ちが遅い」という事象を観たとき、この「訓練」段階に問題があるのか、「教育」段階に問題があるのか、を見極める必要があります。
この訓練段階における「社員の育ちが遅い」最も大きな理由は、明確です。
それは、「いろいろやらせすぎ」です。いろいろやらせすぎて、かえって成長が遅くなっているのです。
この「訓練」の過程を構築する時のポイントは、ずばり『限定』となります。
限定することにより、その社員は、「自分の今覚えること、最短で身に付けるべきこと」に集中ができるのです。
1.覚えてもらう業務を「限定する」
飲食店では、まずは、テーブルの片付けから覚えてもらう。
製造業では、まずは、検査工程から覚えてもらう。
業務を一つひとつ切り分け、与えます。
そして、その切り分けられた業務を、一つひとつ覚え、ある程度身に付いてから次に移ります。
2.教えるマニュアルを限定する
いきなり全部のマニュアルを見せることはありません、
もしそんなことをすれば、当然理解もできず、この先に覚えることの多さに、自信を無くすことになります。
まずは、大まかに業務の全体像をイメージとしてとらえること、受け持ちの業務を「浅く」理解してもらうことが必要です。
そのための新人用のマニュアルを準備します。
3.教える人を限定する
教える人が代わると、どうしてもそのテンポや使用する言葉も変わります。
また、ただでさえ覚えることが多いのに、そこに人間関係の構築までの要素が入ってきます。
そのため、教わる方は、その吸収が遅くなります。
また、その時の教える人も、それなりの社員を任命する必要があります。
教える側には、教えるための技量が必要になります。トレーナー用のマニュアルや訓練制度の整備も必要になります。
トレーナーを任命するとは、「社長の代わり」に教えることを依頼する行為です。間違っても、ダメ社員を選んではいけません。
このように、訓練の段階では、『限定』が必要になるのです。
この限定を行わない会社では、育つのが遅くなる傾向が強く出ることになります。
・新入社員が入ってきたら、その時に「ある」業務をやらせる。
そして、雑多な業務を次々に渡す。そのため、本人は、業務全体を体系立てて受け止めることができません。
また、数年経っても業務のなかには「十分できるもの」、「知っている程度のもの」、「未経験のもの」があるという状態になります。
訓練体系の整備されていない会社では、今後取り組みたい「多能工化」や「ローテーション」の下地も育たないと言えます。
また、その時に使用するマニュアルも、無かったり、古かったり。
酷いと教える社員が、そのマニュアルの存在を知らないこともあります。
テキストがないわけですから、当然、説明することに漏れが生じます。書面で書かれたものがないので、本人の理解度も低くなります。
そして、その本人は、自分のノートに一生懸命メモをしています。新入社員が入るたびに、そんなことを繰り返しているのです。
そして、教える人は、時間の空いている人、比較的業務に余裕がある人が受け持つことになります。
そこには、任命や適任者という考え方は、存在しません。まさに、丸投げです。
その教える様子を観ていると、「不機嫌に」、「やる気がなさそう」な様子でやっています。
その一方で、教わる方は、「申し訳なさそう」にしています。
これでは、「育つのが遅くなって当然」なのです。
それ以上に、真っ当に育つことが奇跡なのです。
こんな状態であれば、素養のある社員でも、戦力化され、成果を出すのに時間がかかるようになります。
そして、この「基盤」ができると、徐々に、「プラスアルファのこと」が出来る様になります。
・テーブルを効率よく片付ける方法を提案する。
・データを入力しながらも、お客様と雑談をして関係を築く。
・見込客はせっかちな社長、思い切って提案の順番を変える。
・現状の手順に合わせ、マニュアルを作り直す。
これらのことは、すべて「基盤」があるからこそできるのです。
当たり前のことができるという「基盤」の上にこそ、「創造力」や「ホスピタリティ」、「主体性」というプラスアルファが成り立ちます。
「社員の育ちが遅いのですが・・・」
この事象は、「決まった業務が出来ないのか」、それとも、「プラスアルファの業務が出来ないのか?」 どちらか?
しかし、どちらにしても共通して必要と言えるのが、「決まった業務ができること」となります。
「決まった業務が出来ない」という基盤がふらついている状態であれば、「プラスアルファの業務」を積み上げることは難しくなります。
基盤がないために、どちらも遅くなっているというのが実状です。
それが有って、初めて、その「社員の問題」として議論できるのです。
社員の育ちが遅い本当の原因は、「決まった業務がない」から。
何をするべきか、どうあるべきか、決まっていないのです。
業務を全うする上で、知るべきこと、知っておかなければいけないことは、「誰かの頭の中」に存在します。
それを知るためには、いちいち訊いて、その人に口を開いてもらう必要があるのです。
仕組みが無いのです。
そして、人を育てる仕組みも無いのです。
仕組みが無いから、「社員が育つのが遅い」
仕組みの出来と、社員が育つスピードは、正比例します。
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