No.160:ホーチミンシティから自社のビジネスを視る。仕組化が進まない会社が持つ、2つの前提
ベトナム、ホーチミンシティ。
一日の全行程を終えて、露店に座りました。バイクのクラクションと埃は、すでに気になりません。
甘いベトナムコーヒー2つが届き、やっとの一息。
夕焼けを眺め数分、緊張を解いたS社長が口を開きます。
「矢田先生、ありがとうございます。こうして、ゆっくり視察まで出来る様になりました。」
視察期間、S社長の携帯電話は、小さな要件1回しか鳴りませんでした。
矢田は、質問させていただきました。
「S社長、もしこのホーチミンで新たにビジネスを起こすとしたら、今と同じ事業をしますか?」
S社長、目を細め答えます。
「絶対にしませんよ」
仕組化が進まない会社では、次の2つの大きな前提を持っています。
この2つの前提を持って、経営をしているために、年商10億に向けて進まないのです。
そして、年商数億円という規模で止まることになります。
前提1.「スタッフには、共通した常識がある」
「常識」という言葉の意味を確認にすると次のようにあります。
「健全な一般人が共通に持っている、または、持つべき、普通の知識や思慮分別」
経営者たるもの、この説明を読めば、「常識」という言葉自体が持つ曖昧さに気づくはずです。
「健全な」、「持つべき」、「普通」、、、なんのことでしょうか。
この言葉は、形容詞であり、共通言語ではありません。
言葉には、各々の人が異なる意味やイメージを持っています。その人の個性や経験、育った環境で大きく違うのです。
「気持ちよい挨拶」、「整理整頓」という言葉を聴いて、そこからイメージするもの、そのレベルには開きがあります。
また、「仕事の目的」も「幸せ」も違うのです。
社長が思っているものと、スタッフ全員が自然に一致することなど、奇跡に近いと言えます。
多くのスタッフを集め、同じ品質のサービスを安定して提供するためには、言葉とともに、その定義をしっかり揃える必要があります。そのために、写真や動画を見せ、ロールプレイにより、そのイメージをすり合わせるのです。
「当たり前」や「常識」という言葉を排除しない限り、社長の狙う品質には永久に届かないことになります。
仕組化という取組みを言い換えれば、この「当たり前」や「常識」を、組織内から根絶する取組みと言えます。
前提2.「人の入れ替わりがない」
スタッフは、必ず辞めます。そして、新しい人が入ってきます。
目安となる退職率があります。
状態の良い組織で10~20%。
10人居れば、1名か2名は毎年入れ替わることになります。10年間で約15名が入れ替わることになります。当然、会社を成長させる時には、これ以上の規模で採用を進めることになります。
また、優秀な人材には、早く現場を離れ、管理者、そして、経営者として働いてもらうことになります。
ここでも、入れ替わりが起きます。また、管理者層でも当然入れ替わりが必要になります。
入れ替わりのたびに、自社のノウハウや顧客情報などが失われていては、会社の早い成長は難しくなります。
それどころか、現状維持も難しくなります。
また、その状態では、次のスタッフが育つ(正確には、早く成果が出せる)のに時間が掛かることになります。
本当に取り組むべきことは、「採用したスタッフがすぐに成果を出せる仕組み」、「成果を出せる営業担当の量産」、「最低限の管理ができる管理者が機能する仕組み」となります。
この2つを前提としてしまうと、頑張っている割に成果が出ないことになります。
そして、会社として、いつまでも積み上がっていかないことになります。
「スタッフには、共通した常識がある」、「人の入れ替わりがない」という妄想は早急に捨て去り、
「スタッフには、常識はない」、「人は、絶対に入れ替わる(入れ替える)」という前提にその考えを置き換える必要があります。
その置き換えをしない限り、「顧客への貢献」は勿論のこと、「組織の永続性」も保てなくなります。そして、働くスタッフの働き甲斐も生き甲斐も奪うことになります。
昔の日本の『村』社会においては、この前提でも十分成り立つことができました。
狭い閉ざされた地域で、世代交代する社会では、「仕組み」はそれほど重要視されることはありませんでした。
そこには、村人が共通に持つ「常識」がありました。そして、それぞれの村が、独自の「習慣」を持つことになりました。それが、現在でも、各地域の食文化や言語、祭りなどという形で、多様な風俗として残っています。
また、「村」では、入れ替わりは非常に緩やかなものでした。
婚姻を結ぶにしろ、近隣の村であり、現在のそれと比べたら、狭い地域でした。どんな「よそ者」も、村全体からすれば、極少数となります。そして、引き継ぐべき村の仕来たりや行事は、「口伝え」で行われました。それで、十分であったのです。
また、その状態は、その地域をまとめる「有力者」や「年功者」にとっても都合がよかったという面もあります。
それに対し、雑多な人種が混じり、入れ替わりの激しい社会では、「村」のような形態では、成り立たなくなります。
例えば、アメリカ。アメリカは、「人種のるつぼ」と呼ばれるほど、多くの人、正しくは、「多くの価値観」を受け入れてきました。それが国の成り立ちであり、今日までのアメリカの成長の原動力でもあります。
そんな国では、当然、「常識」というものがありません。
食品にハエが飛んでいても、それは「清潔」になります。皿を顧客の前に、ドン!と置くことも、気にかけない人が沢山です。
「リンゴ」という言葉でも、その抱くイメージは違うのです。色も異なれば、大きさも違います。
また、人は、入れ替わっていきます。アメリカンドリームという言葉にあるように、新天地を求め、移住をしてきました。
また、他の国を追われ、やってきた人も少なくありません。成功やより良い生活を夢見て新大陸にやってきたのです。
少ない財産しか持たない彼らには「悠長な時間」はありません。より好条件、より出世できる先を探します。
そのような社会では、その会社としての「常識」をつくる必要があります。そして、伝える必要がありました。
期待すべきこと、やってほしいこと、ダメなこと、すべてを伝えることを避けることはできません。それも、細かいことまで伝えること。
そして、文字として残すことが迫られることになりました。
その結果、マニュアルや契約書、仕組みというものが発達しました。「常識」も「辞めない」も前提にしていたら、一日も成り立たないのです。
今、日本も、「常識」が通じなくなっています。また、「労働者の流動性」も大きくなりました。
それにより、より広域から、優秀な人材を得られるようになりました。
多くの価値観を持った人、沢山の趣味嗜好を持ったスタッフ、異なる宗教、異なる言語の人を雇うことができます。
それにより、それだけ早く事業を展開することが可能となりました。
また、新しいアイディアを得ることが出来ます。それにより、新しいビジネスや変革の芽を得ることができます。
また、海外という大きな市場への展開が可能になりました。
いまほど、我々中小企業にチャンスが溢れた時代はありません。
ひと昔には、「海外にモノを売る」や「外国人を雇う」など、想像もできませんでした。
スピードを持って変化発展するためには、自社が持たない「異なる者」の力を借りたいのです。
「異なる者」の力を発揮させたいのです。
そのためには、「仕組み」が必要になります。
「常識がない」、「スタッフは入れ替わる」、この前提こそが、組織の成長の原動力となるのです。
「村」社会では、この考え方は、危険でした。
村外からの情報が無い時代に、「変化」がもたらすリスクの大きさは現在との比ではありません。
洪水、地震は、「神」の領域です。「目の青い背の大きい人」は「鬼」。
情報は、隣町や商人がもたらすものに限られます。書物もありません。
その村が存続できている理由とその証拠は、今の「村」の中にしかありません。
そして、そんな村社会では、「若者」、「よそ者」、「バカ者」が疎まれました。
それは、時として、行き過ぎた「排他主義」となりました。そして、変化への強い抵抗となりました。
この「村」に近いことをやっていてはいけません。
「常識で組織やスタッフを動かす」、「入れ替わりを前提としていない」では、「村」のようになり、「時代の変化」についていけなくなります。
変革の抵抗となります。
雑多な価値観を歓迎する、「若者」「よそ者」「バカ者」を活かす、
会社のそれぞれのステージや課題に応じ、人を受け入れる(社員、外注、コンサルタント) 。
それを支えるのが仕組みです。
それにより、事業をスピードを持って発展させられるのです。
「もしこのホーチミンで新たにビジネスを起こすとしたら、今と同じ事業をしますか?」
この質問は、コンサルティングを終えたクライアントによくさせていたく質問です。
この質問に対し、必ずNOの回答があります。
S社長は、言われました。
「絶対やりませんよ(笑)。」
我々は、海外でビジネスをいちから起こすと考えたとき、今のような複雑な発想でビジネスを構想しません。
もっと大きく、シンプルな発想でビジネスをつくります。
また、立ち上げ時には、現地スタッフをあてにしません。
仕組みを整備する。マニュアルも、つくって乗り込むはずです。
この発想で、自社のビジネスも考えるのです。
我々は、「常識」も「流動性も低い」環境、すなわち「日本」という国に甘えているのです。
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