No.204:管理者が育たない、機能しない会社に共通して欠けるものとは何か!?その根本原因は、創業当時からの社長の・・・
午前11時 建設関連業F社 年商42億 会議室
「矢田先生、管理者にコスト意識が有りません。増員や増設を簡単に言います。どうやったら彼らを変えることができるでしょうか。」
午後2時 製造業N社 年商33億 社長室
「管理者の動きが遅いのです。もっと厳しく言わないとだめだと反省しています。」
明朝から暑い日です。
この日、私は、この言葉を2回することになりました。
「これは管理者の問題ではありません、仕組みの問題です。間違っても、人に向かってはいけません。」
両社ともに、この趣旨を何度もお伝えしてきています。
最近、私は『目標』というものについてばかり考えています。
目標とは何とも不思議なものです。そして、その力に驚くばかりです。
人ひとりの人生を決定づけるものが『目標』です。そして、組織を動かすのも『目標』です。
自分の人生や自分の会社組織において何かを成し遂げたいと願うのであれば、目標との向き合い方、目標の使い方を、身に付ける必要があります。
人は、明確な目標があり、それに向かって頑張っている時に、安定をします。
それは、自転車のようです。行きたいところがあり、それに向けて一生懸命ペダルを漕いでいる時が、充実という安定を得ることができます。
それに対し、行くところもなく、回遊している時は、スピードも遅く安定しません。または、その「行きたいところ」が人に押し付けられたものであれば、その行程は苦しいだけのものになります。
我々は、目標を持つ必要があります。そして、一つの目標を達成したのであれば、すぐに次の目標を設定する必要があります。
目標を達成したと同時に、怠惰が始まります。自分が満足した時、終わりが始まります。危機感を持つ必要はありません、次の目標を持てばよいのです。
どんなに小さくても良いのです。高級な時計が欲しい。年収いくらほしい、でもよいのです。無理やりでも目標を持ち、見えるところまで、取り敢えず行く。早く行く。そこまで行くと、その先が見えます。そこまで行ってみないと先は見えません。
その繰り返しで、より遠くに旅することになります。そして、その間は、心身が鍛えられ、精神は平穏でいられます。
目標を持たない状態に慣れた時に、体は緩み、心は焦りに包まれます。
私たちは、そんな個人としての目標との向かい方と一緒に、組織としての目標の活かし方を学ぶ必要があります。
自分一人であれば、目標の設定も実現のためのプロセスも、個人のそれで十分です。一人で決めて、モチベーションを維持し、やるだけです。
それに対し、組織となれば、それ以上のものが必要になります。組織としてどのように目標を設定するのか、どうそれを実現するのか。
社長は、目標達成のためのプロセスを踏むことで、組織を動かします。そして、個人では到底成し遂げられない大きなことを実現します。
『組織の目標達成のためのプロセス』は、大きく3つに分けられます。
1.決定:何を目標とするのか。どう目標を設定するのか。
会社として、どこを目指すのか。どう儲けるのかという事業戦略があります。そして、その実現のために、どんな目標を選ぶのか。重要で効果の高いものだけを選び、その他の多くを捨てます。その時には、中長期のバランスや資源の配分を考慮します。そして、その重要な目標決定の席に誰を入れるのか、が非常に重要になります。
2.依頼:どう目標を与えるのか。
目標を立てる過程で、管理者や社員に意見を求めます。そこには、目標のブラッシュアップと共に、実施者を巻き込むという意図があります。
その与える目標の切り分け方や、目標の表現の仕方も重要です。相手がイメージできる形で、その目標と方針を伝える必要があります。
3.管理:どうその行程を管理するのか。
定期的に進捗を確認し、必要であれば新たな方針や指示を与えます。その現場との距離感が重要になります。適宜の管理が必要となります。躓きやすいポイントは押さえます。管理するための書類なども整備します。
決定、依頼、管理、この3つのプロセスが適切に出来て、初めて組織の目標は具現化されます。
組織で目標を達成するためには、個人とは一段も二段も上の技量が必要になります。この目標達成のプロセスが組み立てられて、社長は組織を動かすことができます。「目標」という道具で、組織を意図するように動かすことが出来るようになります。
組織には、その規模に合わせたプロセスが必要になります。
社員10名と30名、100名では、全く異なるものになります。
また、その事業の複雑度も大きく異なります。納得性を求める知的労働者を使う事業ほど、このプロセスは重要になります。
管理者が育たない、機能しないという会社には、ある共通点があります。
それは、この『組織としての目標達成のプロセス』が弱いという点です。
今まで目標の設定を、「ある一人」が行っていました。
何か問題が起きると、社長や優秀な社員が現状を確認し、解決策を指示しました。その場ではスピードを持って対処はできます。しかし、長期的にはマズイ状態を引き起こしました。
他の多くの社員は考えないようになります。問題を打ち上げることが自分たちの役目だと刷り込まれていきます。上から降りてくる目標の重要性や意義など、知るすべはありません。平社員から管理者までもが、作業員化します。
また、目標を具体的に提示することが苦手です。
各部に与えられる目標は、どれもスローガンのようなものばかりです。具体性がありません。「売上げ〇%アップ」や「不良率〇%以下」、「営業力アップ」。
そのため、何をどうすればよいのか、この部の管理者は、実は解っていません。進捗状況の報告を求められれば、長い言葉や書類で、「ごまかす」ことを覚えます。
月々の定期的な進捗管理の仕組みがありません。
社内は、生産性の低い会議で溢れています。「社長の演説」、「書類を読み上げるだけの報告」、「何が決まったのか解らない終わり方」。先月決めたことが、忘れ去られます。
または、全く会議を行わない会社もあります。一人が決定し、一人が管理をするので、特にやる必要性が無いのです。
その結果、管理者が育っていません。
彼らは、入社時から今日まで、課題の分析から目標の決定というプロセスに関わることはありませんでした。行動レベルの目標がないので、動けません。強く叱責はあります。その時には、「私の努力不足です。」と言うことしかできません。
そこに責任感は生まれません。そして、管理者としての能力も経験も積み上がることはないのです。
その結果、管理者不在の会社が出来上がります。
そんな会社の社長は、それを嘆いています。
多くの優秀な社員が、この状況に嫌気がさし、とうに会社を去っています。今の管理者のポストには、「真面目で勤続年数が長い人」や「口が達者な人」、「声の大きい人」が居ます。
目標達成のプロセスがマズイのです。
組織としての目標達成のプロセスを持たないのです。
今も使っているのは、個人の目標達成のプロセスです。
個人で考え、個人で決めて、個人で頑張る。個の力なのです。
冒頭の年商42億のF社も年商33億のN社も、組織としての目標達成のプロセスを持ちませんでした。この規模になるまで「個人の目標達成のプロセス」だったのです。
そのため、管理者が育っていませんでした。その結果、社内では、多くの問題が起きていました。
・製品不良やお客様からのクレームが増える。
・すべての問題に「対処」が行われる。根本的な仕組みの改善がされないため、忘れた頃に再発する。
・各部門、各現場での業務の改善が自発的に行われません。そのため、いたるところで昔からのやり方が続けられています。
その結果、この規模で停滞することになりました。
社内には、スローガンのような目標が溢れています。管理者も、部下に対し具体的なアドバイスをできません。「しっかり」、「徹底」、「社員教育」、「フォロー」などの言葉が散見します。
部門間の責任のなすりつけや全体意識の低下が起きます。お客様を悪く言うという状態まで、きていました。
この段階には、管理者が育たない会社には、もう一つの共通する現象が現れます。それは、「人を責める」という文化です。
目標を達成できない部門の管理者が責められます。会議の場で反省の弁が多くなります。そして、どうしてよいか解らず、その人は潰れていきます。
それはそうです。何をどうすればよいのか、具体的に何も示されていないのです。
それでも、「がんばる」しかありません。
そして、時期をみて、管理者の変更が社内通達されます。彼は「能力不足」と判断されたのです。
この根本にあるものは、一緒です。
「人に向かっていること」です。個人の目標達成のプロセスとは、「人」が所有するものです。
それは、仕組みではありません。組織の目標達成のプロセスとは、仕組みです。
一つの仕組みとして、「組織の目標達成のプロセス」を構築するという発想が無いのです。
仕組みの発想が無いから、小さい規模の時代の成功パターンである個人のプロセスを続けることになりました。仕組みの発想がないから、原因が「人」と考えました。
その対策も、「人」に向かいました。管理者教育、組織変更という対策がされました。そして、「人」を責めることになりました。
「人」に向かってはいけません。
問題が起きた時に、「人」を閃かせてはいけません。
仕組みなのです。
年商数億から年商10億になるとは、個人から組織での目標達成のプロセスへ切り替えることを意味します。
組織としての目標達成のプロセスという仕組みを得る必要があります。
あの暑い日から一年。F社もN社も、管理者が育ってきています。正確には管理者が力を発揮してきています。
組織としての目標達成のプロセスに切り替えてきたのです。規模が大きい、それを長く続けて来ただけに大変苦労をされています。
年商数億、社員数名から20名の会社は、今から組織の目標達成のプロセスを取り入れてください。そして、その経験値を積み上げてください。今までの、社長という「個人」のそれは捨ててください。
それは、最初はまわりくどいと感じるかもしれません。決定のプロセスに人を多く関わらせれば、時間は多くかかります。そして、いろいろな情報も与えなければなりません。意見も聞かなければなりません。
それが、結果的に、大きく、早く事業を発展させることになります。
この過程で、管理者が育ちます。
目標達成のプロセスこそが、管理者を育てる仕組みなのです。
管理者を育てる仕組みの正体は、組織としての目標達成のプロセスなのです。
社長という「個」は、現場から離れ、経営に専念できます。経営では、社長の「個」が絶対的に必要になります。
その裏では、社員や管理者が、和気藹々と厳しい仕事に取り組んでいます。
皆、断然そっちのほうが楽しいのです。
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