No.240:社員は、なぜやる気を無くすのか。その原因も、その対策も、根本的に一つしかありません。その一つを抜きにしては、何をやってもダメなのです。
東京の街は桜色になっています。
その反面、当社に相談にこられたK社長の顔色は、冴えません。
「矢田先生、なぜ当社はこんなに人が辞めていくのでしょうか。」
年商3億、受託開発をメインにシステム開発を事業としています。
「皆、入社当初はやる気に溢れています。しかし、1年もすると、元気が無くなっていきます。先日、3年目のA君が辞職願を持ってきました。」
K社長言われます。「A君に、辞める理由を訊いても、話してくれません。」
根本的な原因をお伝えせねばなりません。
社員をやる気にさせる方法は、多くはありません。正確には、一つしかありません。この一つが無ければ、他の何を持ってしても社員がやる気を「持ち続けること」はありません。
褒める、聴くなど、コミュニケーションの取組みをすることで、短期的にはモチベーションをあげることは可能です。しかし、「持続性」という面で見た時には、次の条件が必要となります。
「自分が成果を出していること」。
社員は、必ず誰かの命令のもとでその作業や行動をしています。その上で、その業務の標準に、自分なりの何かしらの『工夫』を足すことを求められます。その自分の何かしらの工夫があって、初めて成果を出すことができます。
これが、単純作業者と、サービス型事業を担う社員との違いです。単純作業者は、決まった手順通りに行えば、ある一定の成果が出ます。
我々の社員は、ある程度の専門知識を持ちながら、自分なりの工夫をすることを求められます。その工夫無しに成果が出ることはありません。ある程度のマニュアルによりその作業手順は指定されながらも、その応用なしには、成果は得られないのです。彼らのことを、知的労働者と言います。
・見込リスト先に、アポイントの電話をかける。そのアポ率の差には、驚くほどの差がでる。同じ手順で行っているが、そこには歴然とした差がでる。
・デザインの修正は、相手の意向を酌むか、酌まないかで成果は変わる。酌めない社員は、お客様の「指示通り」の修正をし、お客様を怒らせる。
知的労働者は、その結果を自分の存在意義として受け止めるという特性をもっています。良い貢献ができれば、お客様や上司や他の部門から、感謝されます。自分の存在意義を感じることができます。その時に、モチベーションがあがります。
貢献できなければ、お客様からも職場からも、心から感謝されることはありません。存在意義を感じることはできません。当然、モチベーションは下がることになります。徐々に消耗をしていくことになります。退職に向けてカウントダウンを刻むだけです。その状況を挽回するには、『成果』しかないのです。
サービス型事業、すなわち、知的労働者では、出来る人と出来ない人の差が大きく出ることになります。出来る人は、感謝されるばかりで、高いモチベーションを維持できます。出来ない人は、成果が出ないばかりで、モチベーションは下がりまくります。
このまま進むと、会社は非常にバランスの悪い状態になります。一部の出来る人が売上げの多くを上げます。その裏で、多くの人が入っては出ての繰り返しをします。定着率が非常に悪いのです。
サービス型事業の場合、社員のモチベーションの高い低いが、会社の業績に大きな影響を与えます。モチベーションがあるからアイディアも工夫も生まれます。モチベーションが高いから、お客様に良い対応もプラスの提案もできるのです。チームでも、積極的な意見交換や助け合いが起きます。モチベーションが低い会社では、この多くは失われます。
成果があるから、モチベーションが高いのか。モチベーションが高いから、成果があるのか。卵が先か、鶏が先か、という例えは当てはまりません。この場合は、明らかに「成果が先」になります。業績の悪い会社は、知的労働者のモチベーションが下がり、パフォーマンスは下がり、さらに業績が下がるという悪循環に入ります。
自社の事業が、「手を動かした分だけ、成果がでるものか。」それとも、「社員に考え工夫してもらわなければ、成果がでないのか。」、判断する必要があります。
もし後者であれば、採用した人が短期間に成果を出せるようにする必要があります。その成果を出すまでに、2、3年もかかるようならアウトです。それを待たずにその社員は去っていきます。それまで、モチベーションが続かないのです。
その状態にする必要があります。そこに社員を乗せるのが正しいのです。それは、マニュアルや訓練制度を整備するというレベルのものではありません。
冒頭のK社長、自社全体のモチベーションが低いと感じていました。覇気がないのです。その原因は、大きく二つありました。
一つは「事業モデル」、もう一つは、「アドバイス」です。
その事業モデルは、多くのこの規模の会社が抱える問題そのものでした。「客層は広く、商品も多く、相手合わせのサービスを提供している」。
そのため、社員に、高いクリエイティヴが求められました。並みの営業担当では売ることができません。開発担当者も、打ち合わせの場で顧客から課題を引き出し、ラフで方向性をまとめることができません。成果が出せないのです。
「クリエイティヴを売る」という事業モデル自体が、社員のモチベーションを奪っていたのです。クリエイティヴを無くす、クリエイティヴを下げる事業変革が必要となりました。
そして、その社員一人ひとりに対し、「具体的なアドバイス」をできていませんでした。A君の上司は、「何がダメなのか、何を直せばよいのか」を伝えていませんでした。そのため、A君本人も、どうすればよいのかが解らなかったのです。
「頑張ります!」、「もっと行動します!」と、社長との面談でも繰り返していました。
A君の上司も、実は、業務を感覚的に流しているだけでした。営業や企画の要所を論理的につかんでいません。そのため、アドバイスに具体性がなかったのです。
「アポイントする時には、立って電話をするとよい。」
「相手が社長の時には、結論が書いてあるこのシートから見せろ。」
「面談の最後には、必ず次回のアポイントを取ること。」
これぐらいの具体性が必要なのです。この一つひとつの積み重ねが、打率を上げることになるのです。この具体性こそが、その会社のノウハウなのです。
しかし、実際に彼に提供されたのは、「もっと頑張れ」と言うアドバイスでした。しまいには、「A君に元気がないから、相手も君に興味を持たないのだ。」と言っていました。
K社には、明確なターゲット顧客がありませんでした。売れる形の商品になっていません。集客の仕組みもなく、それでも新規開拓せよ、という状態です。マニュアルはあるものの、それは、世の書籍レベルです。自社の事業の特性に合わせたものではありません。そして、その上司自身もプレイングマネジャーであり、時間がなかったのです。
知的労働者の多くは、辞める理由を言いません。何か理由を言ったとしても、本当のことを言いません。「自分の力不足でした。」彼らには、他責の発言をするのが恥ずかしいという想いがあります。「やりたいことが見つかりました。」と言います。絶対に、「本当は会社の仕組みの問題です。」とは言いません。それが、知的労働者の特性なのです。頭が良く、プロ意識の高い人ほど、その傾向を持ちます。
K社長は、その後、自社の再構築に掛かりました。事業モデルの変革だけで、一年を要しました。その後、自社のノウハウの標準化と訓練体制の構築に一年。それが見えた頃から、営業担当の採用を再開しました。これが最短でした。
「会社が明るくなったことが何よりも嬉しいです。」とK社長。
その後も社員のモチベーションが高い状態が続いています。集客の仕組みで、どんぴしゃの見込客を集められています。売りやすい商品も有効な販売のステップもあります。部下が成果を出せるまでサポートができる「上司へのサポート体制」も作れました。
そして、今日も、その「全て」を強化するために管理者も社員も取り組んでいます。
あの桜の日からちょうど3年、今期は4億少しの着地です。来期は5億が見えています。
知的労働者には、「お客様の役に立っている」、「会社のなかで貢献できている」という実感が必要です。それ無しには、やる気はあり得ないのです。
その有無が会社の力の差になります。
モチベーションの高い会社では、いつも、全体のモチベーションが高いのです。それは、論理的に事業を構築しており、継続的に成果を出しているからです。
モチベーションの低い会社では、いつも、全体のモチベーションが低いのです。それは、当然です。社員が成果を出せるようなつくりになっていないからです。変えないから、この先も変わらず「低い」ことになります。この先も辞めていくのです。
ここには、社長のカリスマ性もコミュニケーションスキルも、関係ありません。社長が、論理的に考え、体系的に一つひとつ組み立てられるかどうかです。社長がそこに向かうことを、決めるだけです。
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