No.275:新卒採用ばかりだと会社は必ず停滞する。会社を飛躍させたかったら中途採用しかない。その理由とは!?
東京のオフィス街にあるH社を訪問しました。
訪問すると、すぐに、この会社のいびつな点を発見することになります。
私が事務所に入っていくと、20名ほどのスタッフが手を止め、立ち上がります。そして、「いらっしゃいませ」とこちらに向けて頭を下げます。
私が確認すると、社長から説明がありました。
「当社は、規律とお客様第一主義の精神を大切にしています。」
そして、その全員が若いのです。続けて言われます。
「社員の採用は、もっぱら新卒ばかりです。」
私が感じる『いびつさ』を、H社長と共有しなければなりません。
中途の人材を求める時には、その目的をしっかり持つ必要があります。
その目的は、大きくは二つあります。
一つ目の目的は、「手っ取り早く業務をこなす社員を求める」となります。
その社員は、社会で働いた経験があり、そこそこの常識と落ち着きがあります。そのため、自社での訓練の手間と期間を省くことができます。
その求める人材は「若く」となります。年齢でいうと、20代中盤から30代となります。仕組化が進むほど、その年齢の幅は広がります。
もう一つの目的が、「仕組みを知っている社員を求める」となります。
その社員は、自社より先にいっている会社で働いています。その社員を採用することで、その会社のノウハウを得ることができます。表現を変えれば、「仕組みを買う」となります。
その人材は、「35歳以上」かつ「当社にないものを持つ企業での就労経験」となります。
どちらの社員を採用するにせよ、自社に仕組みという基盤が必要になります。
前者の若手人材を採用すれば、すぐにルーチンな業務が必要になります。それがあることで、訓練(決まったことを教え、できるようになる)を提供することができます。
これらの無い会社では、新入社員が自己完結できる仕事を与えられません。そのため、「先輩社員について、仕事を覚えてもらう」ことになります。そこには、プログラムもテキストもありません。その結果、『育ち方』が、先輩任せになります。また、戦力化に時間が掛かることになります。会社として、社員の戦力化に再現性を持つこともありません。
後者の人材でも、同様です。適切な目標設定やPDCAが回せて初めて、彼らを使うことができます。それがなければ、彼らに仕事が付きます。属人的な業務の流れは残り、それがそのままリスクになります。
どんな人材を採用するにしても、仕組みが必要となります。仕組みが無ければ、人が入っては辞め、を送り返すことになります。優秀な人材はその会社を早く見切るため、能力が低く辛抱強い人だけが残ることになります。
一方、新卒採用の目的は大きく異なります。主には、『将来の幹部候補の確保』と、『採用と訓練業務の効率化』になります。あるまとまった人数が、決まった時期に就職活動を行うため、中小企業にもチャンスがあります。
将来の自社を担う可能性を持った人材を、優先して採用します。その人材は、成長意欲が高いことが絶対条件になります。
また、ある時期に集中的に採用活動を行うこと、そして、複数人を一緒に訓練することで、効率を高めることができます。
冒頭のH社は、新卒採用を行っていました。ここ5年間は、もっぱら新卒採用のみで増員してきました。それまで中途社員を採用してきましたが、誰も定着していきませんでした。
今になればその理由が自社にあることは解ります。しかし、当時は「中途は使い難い」と考えていました。
H社長は言われました。
「悪い表現をすれば、新卒者はだましやすかったのです。」
新卒者には、社会人経験がありません。当然、企業を見抜くことも、測ることもできません。新卒者は、社会的な意義とビジョン、見栄えの良い職場で訴求すれば採用ができます。
また、具体的な方針が無いことも、仕組みが整備されていないことも、彼らには解らないのです。そのため、こちらの言うことを素直に聞いて、健気に働いてくれます。
しかし、ここ数年は、退職者が出るようになっていました。入社から3、4年が経過する社員が辞めていきます。気づいてしまうのです。
私は、その状況、すなわち『新卒採用のみ』に潜む問題を二つ、お伝えさせていただきました。
一つは、「人間社会としていびつである」ということ。
我々の社会には、様々な年齢層の人がいます。元気のある若い人もいれば、経験を持った年長者もいます。そのバランスがあって社会が成り立っています。過疎が進む高齢者ばかりの町は、やはりバランスを崩した状態と言えます。
そんな人間社会からすると、20代前半ばかりの人で構成される会社は、いびつだと言えます。それは、人間社会としてバランスを崩した状態なのです。
そのバランスを欠いた状態では、強みも弱みも極端にでます。そして、それを使いこなすことにも能力が必要になります。
H社にも、独特の風土が形成されていました。どこかサークル染みた雰囲気があります。独身者が大半を占めるため、この会社で長く働こうという覚悟から生まれる安定感はありません。
そして、社長と対等に議論できる社員はいません。自頭の良い社員はいます。しかし、父親に近い相手に反論するだけの人間的な力はまだありません。また、世の中やビジネスに対する見識の浅さはどうしようもないのです。
H社長は言われます。
「彼らの年齢からすれば、それが当然なのです。」
そして、もう一つお伝えさせていただきました。
『中途採用という会社を大きく飛躍させる手段を、放棄してしまっている』
私は常々、「仕組みは買うもの」とお伝えしております。
世にある仕組みを買うことで、スピードとノウハウを得ることができます。仕組みを買う方法は、大きく3つあります。「中途採用」と「業者」と「コンサルタント」。
社長の方針に合うものをこのどれかから買い、それを取り入れ、自社のものとして昇華させていきます。
この3つの中でも、中途採用は、他の2つとは別格となります。他の2つが、『外部』なのに対し、中途採用は『内部』なのです。その社員は腹が座っています。そして、自社の事情を知り、実務に繋げることができます。中途採用は、自社を短期間で変えるだけの力を持ちます。飛躍のための一手となります。
H社長は、その一手を捨てていました。この最大の手を放棄していたのです。
それであれば、残された購入先は、業者かコンサルタントになります。または、自社でその多くを開発することになります。
当然、H社は、東京のオフィス街にある本社を活かせていません。都市部、それもオフィス街に会社を持ってくる理由は、人材の獲得にあります。
東京のオフィス街には、『人材』が集まっています。この街には、大企業や中堅・中規模企業の、本社機能が終結しています。その本社では、多くの仕組みが作られます。「商品開発」、「基幹システム」、「人事制度」、「マーケティング」など。
その東京でつくられたものが、地方に配られます。
飲食チェーンの本部で、メニューも広告もレジシステムも作られます。それが、地方の店舗で使われます。地方にあるのは仕組みの「稼働」だけなのです。
そのため、東京のオフィス街では、仕組みづくりの経験のある人材を採用しやすいのです。隣のビルで当たり前のようにマニュアルをつくっていた人材を、採用するチャンスがあります。コンビニで弁当を買っている彼は、海外事業の立上げを担当しています。
そんな人材が圧倒的に多いのが、都市部です。
これが、都市部に本社を移す最大の理由になります。
中途採用をしないと決めたH社は、この場所にありながら、この機会を放棄していたことになります。当然、新卒採用でもこの立地はよい訴求ポイントになります。しかし、あまりにも勿体ないのです。
新卒採用のみという人間社会としてのバランスを欠いた状態、そして、
中途採用という会社を変える一手の放棄が、H社を停滞させていました。
その結果、「お客様が来ると全員が作業の手を止め、立ち上がり挨拶をする」という異常な状態が放置されたのです。
こんな馬鹿げたことはありません。単調作業の中断こそがミスの一番の原因になります。知的労働者にとっては、没頭している時の中断ほど嫌なものはありません。また、こんなことで規律も顧客第一主義も得られることは無いのです。こんな当たり前のことを、社長に向かってNOと言える社員がいなかったのです。
まとめです。
新卒採用、中途採用など、それぞれの施策の目的を正しく理解すること。
そして、いまの自社にとって、何が必要かを見極めること。
その上で、社長はしかるべき決定をすること。
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