No.288:現場を離れられない社長がやってしまっている致命的なこととは!?
パソコンを開くと、N社長からメールが届いています。
昨日のコンサルティングで検討した事業構想について、まとめたから見てほしいとの内容です。
私は、さっそく確認をさせていただきました。
そして、コメントを送らせていただきます。
「エクセルでなく、ワードでお願いします。」
人や組織を動かすことが下手な社長は、エクセルを多用する傾向があります。N社長も、その例に漏れず。
事業を大きくするためには、社長は、『ワード』を覚えなければなりません。
社員が動く。其々の状況に応じ、適切に判断して動く。
社員が『自分で動けるようになる』ためには、二つのことを提供する必要があります。
一つ目は、『経験を提供すること』です。
まずは、その業務を決まった通りにできるようにすることが必要です。
そのために、まずは説明します。そして、やって見せます。そのうえで、実際にやってもらいます。実施の状況を確認し、修正します。その結果、一つの業務を『経験』できた状態にします。順番に「経験」を増やすことで、出来ることを増やしていきます。
二つ目が『考える基盤となる素材を提供すること』となります。
状況に合わせ、自分で判断するためには、その業務の「目的」や「方針」が必要になります。なぜこのやり方をしているのか、どのような方向性なのか。その『考え方』が解ることで、イレギュラーに対応できるようになります。
社員が自分で動けるためには、『経験』と『考える素材』の提供が必要になります。そして、その提供も、この順番になります。この過程を体系化したものが、『訓練制度』となります。
訓練制度の中は、二つの段階に分かれることになります。
『経験させる段階』と『応用できるようにする段階』です。
『経験させる段階』で活躍するのが、マニュアルです。マニュアルでその型を伝えます。その際には、手順と共に、その業務の「考え方」を伝えます。全体の中の位置づけやその業務の目的などの意味を伝えます。納得ができることで、受け入れやすく、そして、残りやすくなります。
正しくできるようになった後に、『応用できるようにする段階』に移ります。
ケーススタディを行います。「お客様からこのような問い合わせがありました。貴方ならどのように対応しますか」と。そして、答えてもらいます。その時には、なぜ自分がそのように考えたのかも言ってもらいます。
トレーナー役の先輩は、それを確認し、修正を行います。これにより、考え方を深く理解することになります。また、応用力を身に付けることができます。
『経験させる段階』と『応用させる段階』の両方が必要になります。
経験させる段階が無ければ、戦力化に時間がかかることになります。また、一人ひとりのサービスのばらつきが大きくなります。
応用させる段階が無ければ、熟練化に時間がかかることになります。事あるたびに、上司に指示を求めることになります。
この二つを提供するために、体系的な訓練制度を持つ必要があります。
この制度を持たないと、会社としては、『採用した人を、効率よく戦力化する仕組み』を持たないことになります。仕組みでなければ、そこに会社としてのノウハウが積みあがっていきません。人の定着率も格段に低くなります。
採用した人が、自分で業務をこなせるようにするために、訓練制度を用意します。その訓練制度の要所は、『考え方の共有』にこそあります。
『考え方の共有』をすることで、社員は自分たちで判断して動くことが可能になります。また、その後も自分たちでその業務を改善することもできるのです。
その結果、社長は、現場を離れることができます。ここまで出来て初めて、社長は経営に専念できるようになるのです。
冒頭のN社長は、全く現場を離れられていませんでした。何かあるたびに、指示を求められます。経験も考え方も提供してこなかったのです。
「社長、お客様からこんなことを要望されました。どうしましょうか。」
「社長、在庫が切れそうです。どうしましょうか。」
「社長、パートさんが辞めたいと言っています。どうしましょうか。」
この状態を脱することを決意し、動き出しました。
第一回目のコンサルティングで、事業構想を検討しました。それにより、年商10億円に向けた事業モデルの「イメージ」を得ることができました。また、事業展開のステップも描けました。N社長の顔には、充実感と興奮が浮かんでいます。
矢田は、最後に宿題を出させていただきました。
「検討した結果を、文章にまとめてください。」
そして、翌日に送られてきました。さすがのスピードです。
添付されたファイルを開きます。それは、エクセルのファイルです。
私は、内容を確認します。そこには、表があります。私は、メールを返しました。「ワードでまとめてみてください」と。
事業モデルの構想、方針、優先順位というものは、すべて『考え方』となります。これらは、『考え方』ゆえに、その表現方法は、すべて『文章』になります。
例
・BtoB事業では、〇〇業界を重点として伸ばす。
・競合のいない〇〇市のシェアを30%まで高める。その後、都市部へエリアを広げる。
・新規顧客の開拓は、大手卸と共同で行う。リストを作成し、一緒に訪問させてもらう。
そして、『実務』の段階に移ります。シェア率の計算、計数管理や訪問計画となります。それらは、「行動の計画」であり、「管理」の基盤になります。これらは、『情報』となります。
例
・各顧客や業界の、計数(売上、粗利率、購買回数など)を表にして、傾向を読みます。
・エリアごとのシェア率の推移を確認します。その施策が正しいかを検証します。
・顧客リストを作成します。そして、この先の一年間の訪問計画を立てます。
前者は、『考え方(意味)』であるため、『文章』になります。
それに対し、後者は、『情報(データ)』であるため、『表』になります。
表という言葉を調べると、次の通りです。「複雑な事柄を、見やすいように整理分類して、一目でわかるように書き表したもの。」
人を使うのがうまい社長は、当然、ワードを使います。しっかり文章にして考え方を伝えます。
人を使うのが下手な社長は、エクセルを使います。文章に苦手意識があるから逃げているのかもしれません。
其々の意図に合わせ、道具を使い分けることが必要です。
考え方を共有したければ、ワードになります。
情報を整理したければ、エクセルになります。
『文章』は、読み手の想像力を引き出します。文章は、自分で能動的に読み込む必要があります。そして、自分の中でイメージを描く必要があります。そのできたイメージが、その後のその人の判断の基盤になります。初めて読み手と『考え方を共有できた状態』にできるのです。
『表』では、読み手の想像力を引き出すことができません。イメージを描くことにつながらないのです。頭に入ってきません。当然です、それは情報だからです。そして、エクセルだと、どうしても文章が短くなります。箇条書きに近くなります。その結果、考え方の共有はできないことになります。
ちなみに、パワーポイントもダメです。図や絵などは、能動的にイメージを描く必要がない分、何も残らないことになります。「わかりやすそう」ですが、それは「楽(らく)」なだけで、残らないのです。また、自ずと文章は短くなります。
文章が、人の想像力を引き出します。想像できたものだけが、残ります。その想像したという経験が、その後もその人を動かすのです。
文章により、自分と異なる人と、考えを共有することができます。考え方を表現できるのは、言葉と文章だけです。多くの人と、そして、これからの人とも共有ができるのは文章です。会社としての共通の考え方を、つくることができます。
その結果として、社員は自分達で考え動けるようになります。その結果、組織が組織として機能することになるのです。そして、多くのものが、どんどん現実化していきます。
文章にできていないものは、絶対に組織としての共通にはなりません。管理者や社員も動けません。そして、何も成し遂げることはできなくなります。
社長は自分の考えていることを、文章にします。それを持って管理者や社員に依頼します。そして、動いてもらいます。それにより、大きなことを成すことができるのです。
文章に向かってください。ワードをしっかり使ってください。
文章は、社長の道具です。道具だけに、使いこなすためには、修練が必要になります。
(メモ)
社長の役目=考え方を示す=文章=ワード
現場の役目=業務を回す=タスク=エクセル
社長自ら、エクセルを使っているから現場を脱せれない。
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