No.318:毎年の売上げの伸びは、どれぐらいが適正なのか?

№318:毎年の売上げの伸びは、どれぐらいが適正なのか?

「矢田先生、銀行から売上げの計画は毎年5千万円ぐらいの伸びにしてくれと言われました。」
 
設備メーカーF社の、前期は年商3億円でした。今期は期初の3か月で、すでに3億円分の受注をしています。F社長の算段では、今期5億円はいけるはずです。
 
その銀行担当者がそのように言う理由は、二つありました。
一つは、「成長に追い付かず内部崩壊する」と、もう一つは「大きいことを言って、できないことが信頼を失う」とのこと。
 
私は、それを聞いてお答えしました。
「どちらの理由も今の御社には当てはまりません。しかし、組織の出来からすると今期は4億円で留めることが賢明でしょう。」


年商数億円の事業モデルが年商10億円のそれに変わった時には、売上げの伸びは、いままでとは、全く異なるものになります。
 
その伸び率は、だいたい昨年対比140%-160%ぐらいになります。
 
F社の前期の年商は、3億円でした。F社長は、「すでに3億円受注しており、見えている案件であと1億数千万円はあります。」と言います。この伸びが、『自然』なのです。
 
その理由は、『単価』にあります。案件1件当たりの単価が全く異なるのです。今のF社には、大きくは二つの単価があります。
一つは、2千万円です。年商数百億から数十億円の企業の設備導入です。
もう一つが、1億円です。顧客は数千億円企業であり、一度に数台の新規導入となります。今期は、すでに2千万円級が複数、そして、1億円級が2件決まっています。
 
これが、いままでは、もっと単価が小さかったのです。数百万円がメインで、大きくても2千万円です。それを積み上げての、年商3億円でした。
 
 
では、「その増えた額の分だけ仕事量が増えるか」というと、全くそんなことはありません。
 
お客様のほうが当社のことを探して、問い合わせをしてくれます。その要望は、「どのような設備がほしいのか。いつ入れたいか。」が明確なのです。これが、強いビジネス(市場があり、差別化できている)をやれている証拠です。
 
そして、設備は『規格化』できており、その中から、お客様の要望に合ったものを提案します。また、メンテナンスなどのサービス体系も書面にまとまっています。
 
その結果、集客も営業も手間が少なく、問い合わせから契約までの時間も非常に短いのです。
そして、「規格」というだけあって、基本的な設計は終えています。すべての案件が、少しの設計で済みます。そして、生産業務では、在庫品は少なく、組立手順も繰り返しになっています。
 
売上げの伸びと反比例する形で、内部の効率化が進んでいます。
そして、この状態であれば、人を採用しても、短期間で戦力化できます。新人でもすぐにこなせる業務があるのです。


銀行担当者の言う「成長に追い付かず内部崩壊する」とは、2年前のF社であれば、間違いなく当てはまることです。
 
その当時は、すべてが「相手合わせのビジネス」をやっていました。その顧客の業種も要望も、そして、単価もばらつきが大きかったのです。お客様の要望を聞いて、企画をして提案、そして、設計から生産。すべてが一品ものでした。
 
その状態ですから、在庫も多く必要になります。仕組みづくりも進みません。すべての業務が、社長と一人の技術者に集中していました。そして、人を採用しても、戦力化するまでに時間がかかります。
 
今は、その当時とは、全く違うのです。顧客の規模もその要望も整理され、社内の業務の大部分が、仕組みで回せるようになっています。
そして、何よりも生産性が違います。いままでは、一人の社員が稼ぐ粗利高は年間800万円ほどでした。今は、1100万円以上はあります。
 
2年前の年商3億円の時よりも、年商5億円ペースの今のほうが、余裕があるのです。各部門や担当者が、協力して案件をこなしています。社内にも活気があります。そして、儲かっているのです。社長が経営に使える時間も増えました。
 
銀行担当者が言うような、「成長に追い付かず内部崩壊する」ということは、この規模では『まだ』無いのです。


そして、銀行担当者のもう一つの提言である、「大きいことを言って、できないことで信頼を失う」こともあり得ません。
その理由は、実際にその売上げの伸びを達成できるからではありません。
 
私は、F社長と「経営計画書の基本」について復習をしました。
『経営計画書は、4種類必要になる。』
 
一つは、社長用。これは、社長しか見ないものです。そして、幹部用と社員用なります。これらは、其々に応じて情報量をコントロールしたものになります。そして、株主や銀行という外部用です。これもまた、調整した情報となります。
 
それぞれの経営計画書には、意図があり、そのつくりは異なるのです。
何も、銀行用に素直に書く必要は無いのです。少ないものを、多く書いているわけではないのです。
 
社長や幹部用の経営計画書には、現実的な数字を書く必要があります。それによって、仕組みを準備することができます。
 
しかし、銀行用には、控えめに書いておくほうがよいのです。控えめに書いておいて、「これだけ超えてしまいました。」とすればよいのです。銀行の担当者は、これを示唆してくれていたのかもしれません。
 
 
私は、そのうえで、今期の目標年商について提言をさせて頂きました。
「今期は、年商4億円ほどで、留めてはいかがでしょうか。」
これでも、昨年対比130%以上の伸びです。
 
その言葉に、F社長はメモをとる手を止めます。私はその理由をご説明させていただきました。
「組織ができていないからです。」
 
F社の仕組みは、完全とは言えないが、回るようになってきています。案件の進捗を全員で管理できています。また、各業務の帳票やマニュアルも整備が進みました。
 
しかし、その仕組みを直す機能を獲得できているとは言い難いのです。まだ、各部門が継続的に自分たちの仕組みの改善を行っているわけではありません。管理者が機能している部署もまだ一部です。
 
すなわち、組織が出来上がってはいない状態です。仕組みの改善を、まだ社長と極少数の社員が担っている状態なのです。
 
私は、お願いをしました。「社長、組織をつくるために、経営計画書に向かってください。」経営計画書の正しい作り、正しい運用無しに、組織が形成されることは無いのです。
 
今期の年商4億円までは、経営計画書すなわち組織無しでもなんとかなるはずです。しかし、組織がなければ、来年には、社内は問題だらけになります。増える『量』のスピードに、仕組みの改善が間に合わないのです。そこには、銀行担当者の言う通りの「内部崩壊」が待っているのです。
 
経営計画書をつくり、組織が出来れば、F社の成長は本物になります。
今期の年商が4億円、そして、来期には5億5千万円、その次が8億と、いよいよ年商10億が見えてきます。

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