No.330:社長は、社員を育てるために、何をつくるべきか。

№330:社長は、社員を育てるために、何をつくるべきか。

建設工事業K社のコンサルティングの初日です。
私は、気になりお聞きしました。「面談からのその後、何か変化はありましたか?」
 
俯いたままのK社長が言われます。
「A君が、辞めたいと言ってきました。」
 
事情を確認すると、「社長がこうして外に出られるのも、代わりにA君が案件を受け持っているから」ということが解りました。そして、「A君は、実は会社を辞めたくはないのでは。」とも思えました。
 
私は、進言をしました。
「可能性は高くないですが、彼を引き留められるかもしれません。」


人には、ストレスが必要です。
ストレスと聞くとネガティブなイメージが沸きますが、悪いことばかりではありません。
 
ある程度のストレスがあるからこそ、気を張った毎日を送ることができます。また、キビキビ動くこともできます。適当なストレスは、人に必要なのです。
 
ストレスが無い状態は、楽ですが、人をダメにします。朝起きて寝るまで、毎日やることはありません。自分以外の人に、気を使う必要もありません。使わない筋肉同様に、頭も心も弱まることになります。
 
ストレスが強すぎる状態も良くありません。一時も、それが頭から離れません。ずっと、過度な緊張状態にあります。使われ過ぎの筋肉同様に、何かしらの損傷を受けることになります。
 
自分を適正なストレス状態に置く、このコントロールが必要になります。
運動をする。何かの目標を持つ。苦言を与えてくれる師匠を持つ。
そして、休暇を取る。旅行にいく。趣味を持つ。何もしない日をつくる。
 
緩急をつけることで、自分のパフォーマンスを高めることができます。
また、自分にストレスを与えることで、自分を成長させることもできます。
 
同様に、我々は、ストレスのコントロールによって、人を育てることをします。
子供には、運動と勉強をさせます。どちらもストレスを与える行為です。その子供の能力に応じて、少し強いストレスを提供します。その時には、前向きに取り組めるようにサポートをします。それが、クリアできると、また少し難易度や強度の高いものを与えます。
 
彼らが、ストレスと上手に付き合えるようにすること。そして、自分に対しストレスを上手にコントロールできるようにすること、これが、学校教育の一つの目的でもあるのです。


我々は、これを会社でも行います。
新入社員には、新入社員なりのストレスを与えます。通常の業務を覚えること、社会に慣れることもストレスです。過度なストレスにならないように、注意します。
 
業務を一通り覚えた若手にも、それなりのストレスを提供します。業務の改善、外注の手配、会議の司会など。これらは、未経験なだけに、ストレスになります。
ここでも注視すると共に、具体的なアドバイスをします。
 
課長には、今期の課の目標達成と業務の仕組みづくりを依頼します。それらは、考える必要があり、他の部門の協力を仰ぐ必要があります。このストレスが、彼をまた成長させることになります。
 
このように、全員に対して具体的な業務を依頼します。これらは、全員に対してストレスを提供することを意味します。
 
これにより、一般社員から管理者まで全員が育つ機会を得ることになります。そして、社内の仕組みも良くなります。
 
市場の変化に追いつくため、そして、もっと顧客に貢献できるように、会社は変化成長します。その過程で、人が育つのです。これこそが、会社が持つ人を育てる機能となります。会社とは、未経験なことにチャレンジする機会を得られる最高の場となるのです。
 
社員に対し体系的(計画的)にストレスを与える仕組みを、人材育成制度と言います。そのストレスの元となる具体的な目標とその継続的な取組みを支えるものが、経営計画書となります。
 
「本当の意味での人材育成は、経営計画書とその適切な運営が無ければ成り立たない」
これは、いままでもこのコラムでお伝えしてきた通りです。
 
 
冒頭のK社長、A君から話があるから時間が欲しい、と言い出されました。
その時には、退職の話とは、全く想像もしませんでした。
 
A君は、会社の中心といっても過言ではない社員です。その高い能力と出来た人格で、お客様からも他の社員からも、信頼をされています。
K社に入り、6年が経っています。30代中盤でありながら、役職は課長です。給与も「驚くほど」の額を特別に払っていました。
 
K社長は、A君に訊きました。「辞めたい理由はなんだ?」
A君は、少し間を置き、答えました。「成長できないからです。」
この言葉を、K社長は、すぐには理解できませんでした。
 
A君は、優秀なだけに、自分を成長させたいという欲が人一倍強いのです。絶えず勉強したい、絶えず新しいことにチャレンジしたい、と思っていたのです。
 
それなのに、彼の毎日は、「退屈なもの」になっていました。
入社当時は、工種や工事管理、積算など、沢山の覚えることがありました。いまでは、それらは、身についています。そして、気づくと案件漬けの毎日です。
 
顧客や社内の皆が頼ってくれるのは嬉しいです。処遇にも不満はありません。しかし、挑戦するような機会が無いのです。
 
その一方で、他の管理者や社員は、明らかに「楽」な状態にあります。彼らは、A君が案件を抱えていることを見て見ぬふりをしています。何か新しい取組みをしているわけでもありません。K社は、下から上まで、ストレスの無い状態にあったのです。彼らにどうこう言うつもりはありません。彼らと同じようになってしまう自分を恐れたのです。
 
A君にとっては、いまの自分の境遇がストレスになっていたのです。
 
私は、そこまでの事情をお聴きして、K社長に進言をさせていただきました。
「全力で引き留めてみてください。」
 
この言葉に、K社長は、驚いた顔をされます。
「しかし、一度辞めると言い出した社員を、止められるとは思いません。」
 
私はもう一言加えます、
「A君のような人材はそうはいません。御社に今いることが奇跡です。やれることは、やりましょう。」
 
K社長は、素直にA君に「いままで、自分は経営者としての役目をやってこなかった」と詫びました。
そして、取り組み始めたことを、話しました。「当社には、仕組みづくりが必要なことに気づいた。これから一年で会社を大きく変えるつもりである。」そして、「手を貸してほしい」と頭を下げたのです。
 
A君は、「そうであれば、ぜひ自分にもやらせてほしい」と承諾をしたのです。
 
K社の改革が始まります。
 
 
社員を動かすために必要なのは、社長の出す「方針」とそれを続ける「運営」です。明確なやることと続ける仕組みです。この二つがあって、初めて組織が形成されていきます。彼らは力を発揮することができます。
 
そして、その周囲に、訓練体系や人事制度などを整備していきます。社内のコミュニケーションのあり方も整えます。全部が繋がっているのです。
 
それにより、社員全員を良いストレス状態に置くことができます。そこには、規律と闊達さを持った社風が生まれます。
 
優秀な人材が力を発揮してくれます。並みの社員も、そのように染まっていきます。楽(らく)を優先して生きる人は、居られなくなります。
 
そんな会社をつくるのです。

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