No.335:市場に対しての目標を持て!システム業M社が、ガラリと変わってしまった瞬間
「おはようございます。」の声と共に、M社長が入ってこられました。そして、コートを脱ぎ、席につかれます。
「よろしくお願いします。」とお互いに頭を下げ、私は「どうぞ」と言います。
M社長は、口を開きます。
「最近、年間40件の受注目標をどのように達成するかばかりを考えています。」
これぞ正しき目標です。完璧な目標です。
M社の快進撃が始まる予感がします。
大きな目標を持つことが、必要です。
そして、その目標から逆算して考えることです。
大きな目標を持ってみることで、自分の思考を大きくすることができます。
また、現状に囚われない発想を得ることもできます。
そして、その目標からの逆算で、今年やるべきこと、今日やるべきことを導き出すことができます。
それにより、毎日が充実したものになります。坦々と生きているようで、心の中は、煮えたぎった状態にあるのです。世の中の多くの情報や他人の意見に、いちいち惑わされることもなくなります。
その結果、スピードを持って、大きなことを成すことができるのです。大きな目標が、社長の全てを変えてしまうのです。
この時に重要になるのが、「目標のあり方」です。
設定する大きな目標は、「市場に対する目標」であることが絶対です。
・〇〇分野において、〇〇の評判でナンバー1になる。
・〇〇地方の〇〇工事で、競合〇社を抜き、3位になる。
・〇〇業の〇〇法人の全体の〇%と取引をする。
一言で言えば、『シェア』となります。
どのような市場でどれほどの占有率をとるか、どのようなポジションをとるか、その目標を持つことが必要です。その目標こそが、組織にとっての最も大きな目標になります。そして、それを実現するために、各部署、各担当が全力で取り組みます。正しい大きな目標が、組織を適正に機能させることになります。
残念ながら、多くの中小企業の社長が『大きな目標』、すなわち『市場に対する目標』を持っていません。確かに、「その市場の分母など解りようがない」という面はあります。しかし、それ以上に、シェアに関する認識が弱すぎるというところがあります。そのため、「いま何%のシェアがありますか?」や「御社の競合はどこですか?」という問いに即答できないのです。
シェアは、非常に重要です。ナンバー1のシェアを取れば、2位以下の会社と比べ、4倍以上の利益を得られることになります。業界の標準価格を決められます。仕入れの力もあります。売り場を独占することもできます。業界で認知され、見込客が寄ってくることになります。
ナンバー2、3と下がるほど、1件当たりの取引額は小さく、そして、利益も少なくなります。強者の施策により、徐々に体力を奪われることになります。いつかは、倒産することになります。
シェアとは、企業にとって死活問題だと言えます。企業にとってシェアこそが、目標なのです。
「3年で年商10億円にする。」といった目標は、その『大きな目標』にはなりません。年商10億円を達成しても、その業界でシェアが取れていなければ、何も意味は無いのです。
「年商10億円」とは、あくまでも目安なのです。事業モデルと組織のひとまずの完成の目安となります。その根底に変わらずあるのは、『〇〇の分野でナンバー1のシェアを獲りに行く』という市場に関する目標です。実際にコンサルティングの場では、事業モデルと同時にこの目標を決定します。
「売上げが増えているから、我社は成長している」と考えるのは、全くの間違いなのです。売上げが伸びていても、それが業界平均の伸び率よりも低ければ、ダメなのです。それはシェアを落としていることを意味します。
また、売上げは伸びているが、顧客数が変わっていなければ、伸びていることにはなりません。それは、事業の拡大では無く、事業の複雑化を意味します。
また、「グループ企業10社で100億」というものも、組織の目標にはなり得ません。市場との関係が見えません。そのため組織の構成員に、「具体的な行動のイメージ」も「共感性から生まれるやる気」も与えないのです。
『大きな目標』に、「業務の仕組み」や「人材育成」を挙げるのは、完全な間違いです。それらの目標は、市場に対する目標があって初めて、意味を成すものです。逆に、市場の目標が無ければ、これらの目標は、忽ちセクショナリズムなどの組織病を引き起こす要因になります。
多くの中小企業は、のんびりし過ぎなのです。
市場であるお客様は、気移りするものなのです。そして、そこには、競合がいます。企業の常は、陣取り合戦の中にあるのです。
冒頭のM社長も例外ではありませんでした。
2年前に当社に相談に来られた時、年商は3億円でした。システムという事業では、スピードが重要になります。
システムは、一度導入されると、そうは切り替えないものです。また、一つのシステムの名前が、そのサービスの代名詞になります。その結果、勝者総取り(他すべて敗退)になります。そのため、どの会社も全力でそのナンバー1を取りに来ます。
そのはずですが、M社長は、次のようなことを言っています。
・少数精鋭で、自分達のやりたい仕事をやっていきたい。
・ガツガツ規模を追うのではなく、自分達のペースで成長できればよい。
・うちの規模では、どれぐらいが広告費の適正ですか?
どの発言からも、M社長の「市場に対する無関心さ」が解ります。
コンサルティングを受け、次のようにM社長は変わりました。
・自ら顧客先を訪問し、自社のサービスの「感触」を探っています。
・業界のニュースや展示会を視察し、常に競合企業や新技術の動向をチェックしています。
・月例会議で、進捗の確認と翌月の行動予定を明確にします。確実に経営計画書を回していきます。
そして、
・来期の受注目標を、40件としました。
現在は月に1、2件のペースです。ほぼ倍のペースに、エンジニアからは泣きが入ります。しかし、それに対しても、「仕組みを作ること」、「外注を活用すること」、そして、「社員を増やすこと」で間に合わせてくれと依頼したのです。
そのエンジニア達も今では、その目標を実現するために、全力を出してくれています。自分達で会議を開き、喧々諤々の議論を交わしています。文句を言いながらも、何とかしてしまうのが人材の特徴なのです。
その翌期の目標は、80件です。そして、その次は160件という、倍々の目標を立てています。M社長には、このペースで受注できなければ、市場は取れないと解っているのです。このペースが何としても必要なのです。
・広告費は、月に100万円を使っています。
広告を掛けることにより、事業を早く伸ばせるのです。年2回の展示会に申し込みをしました。動画も作成しました。そして、WEBによる集客を完成させるために動いています。
しかし、集客件数が、伸びません。それが、冒頭です。「最近、年間40件の受注をどのように達成するかばかりを考えています。」
これぞ、組織が持つべき『大きな目標』と言えます。目標に具体性があり、行動のイメージが引き出されます。年間40件受注するためには、見込客が何件必要なのか。そして、それを納めるためには・・・大きな目標が、組織の構成員の脳を動かすトリガーになるのです。
そして、「今のままでは無理」ということも解らせてくれるのです。
それがM社長の毎日の思考を完全に奪っていたのです。これは、嫌な状態ではありません。理想的な社長の思考状態にあると言えます。この思考状態にあるからこそ、解決策を得ることができるのです。
そして、この日の2時間の面談後には、その実現のための施策が決定することになります。
・すでにその分野で顧客を持っている企業とアライアンスを組み、その販売網を使わせてもらう。
・早急に、その相手企業の開拓とその業務の仕組みを構築する。
・昔からの知り合いを武将として招き(年収800万円)、それの中心を担ってもらう。
これらの方策に、M社長は、目標である40件、80件達成への活路を見出すことが出来たのです。M社の快進撃の口火が切られた瞬間です。
他に、「各役員からの出資による増資」を決定しました。私は、「上場の検討もしてはどうか」と提案もさせて頂きました。
M社長が、当社を出る時に言われました。
「まだまだ、教わることが沢山あります。これからもよろしくお願いします。」
コンサル冥利に尽きる言葉を頂きました。私も、M社長のような志の高い社長と、そして、未来の『大企業』に関われることを大変うれしく思います。
大きくなってください。
市場の独占を本気でお考え下さい。
そう決めた瞬間に、社長の思考はがらりと変わることになります。
社員が本気を出すことになります。
会社そのものが、戦う組織に変わるのです。
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