No.400:仕組みづくりに向かわない管理者をどう変えればよいのか?
「先生、彼に依頼したことが、遅々として進まないのです。」
不動産業H社長から、営業部長のA氏についての相談がありました。
H社は、この2年で売上げもスタッフ数も倍になりました。
そこで、A氏に「仕組みづくりに回ってほしい」と依頼したのです。
半年近くが経った今、A氏に依頼した仕組みづくりは、一向に進んでいません。案件の対応が忙しいなどの理由をつけて、それに向かわないのです。
眉を落としH社長は、私に訊きました。
「先生、彼をどうしたら変えられるのでしょうか?」
組織は、4階層になります。
経営層―管理者層―判断層―作業層。
経営層の役目は、「方針や目標などを決定すること」です。
管理者層の役目は、「その決定を実現すること」です。そのために、「部門目標の達成」と「仕組みの改善」を担います。
そして、判断層と作業層が、日々の案件をこなします。
現場で起きるイレギュラーな問題に対し、適切にジャッジし、作業層に指示を出すのが、判断層の役目となります。
組織は、この4階層が適切に機能することで、今日もお客様を満足させ売上げを得ることができます。また、1年後、2年後に向けて変化成長することが可能となるのです。
しかし、この4階層が、最初から必要であるわけではありません。事業の拡大、すなわち、案件やスタッフの増加に伴って、これを作り上げることをします。
事業を起こした当初の規模であれば、2階層で十分です。
その規模の目安は、売上1億円以下(粗利数千万円)となります。
社長が管理者層と判断層の役目を担うことをします。他の社員は、全員が作業層です。これで十分に回っていきます。
売上2億円(粗利高1億)の規模になると、経営層―判断層―作業層という形の3層構造にします。案件数が増えると共に、作業層の増員と分業を進めていきます。それに合わせ、其々の持ち場で、判断層が必要になります。
このタイミングで、社長は、完全に現場を離れることになります。
この2階層と3階層の時代に、社長はやるべきことを、やる必要があります。
2階層の時代には、「作業層を動かす仕組みづくり」を進めます。社長自身も現場に入っているため日々忙しいのですが、時間を作り、仕組みづくりを進めます。それにより、作業層である社員が、自分達で回せる状態をつくります。
そして、3階層の時代に、「判断層を動かすための仕組みづくり」を進めます。彼らの現場管理や判断の拠り所となる方針やルールづくりを進めます。また、更に分業を機能させるための仕組みもつくります。
これにより、社長の時間は、空いてくることになります。
この2階層、3階層の時代に、適切に動かないと、後々そのつけを払うことになります。
作業層を動かす仕組みを作らなければ、いつまでたっても社長は現場を離れることができません。お客様の対応や案件の多くを社長が抱えることになります。
まだ案件数は少なく、それでも十分こなせるだけに、ズルズルと仕組化に向かわない社長も多くいます。
3階層時代に判断層を動かす仕組み作りに取り組まないと、社長の電話は鳴り続けることになります。「お客様からこのような問い合わせが来ています。どうしましょうか?」、「在庫が無くなりそうです。どうしましょうか?」とひっきりなしです。
この2階層、3階層という適切な時期に、適切に取り組まなかった結果が、「社長が現場を離れられない」という状態なのです。当社に相談に来られる方の、多くがこのケースとなります。
3階層まで出来ており、判断層が機能しているという企業でも、実は、「全くできていない」というケースもあります。
それは、ナンバー2がいる会社です。
その会社では、そのナンバー2が、現場を取り仕切っています。その結果、社長に電話がかかってくることもなく、数日の出張をすることもできます。
しかし、実際には、作業層を動かす仕組みも無ければ、判断層を機能させる仕組みもないのです。この3階層が出来ているかどうかの判別は、簡単です。「そのナンバー2が居なくなるとどうなるか」を考えればよいのです。
数日は問題なくとも、1週間もすれば、問題が頻発することになります。また、次の判断層が育てられていません。仕組みになっていないために、その替わりが効かないのです。下手すると作業層もまともに機能しなくなります。その結果、社長が現場に戻ることになります。
そして、いよいよ売上10億円(粗利4億円)を目指すために、4階層をつくることになります。判断層と作業層の大量生産に移るのです。営業所、店舗、営業担当者の量産、エンジニアの量産です。
そのために必要になるのが、管理者層です。
各部署を取りまとめる人が必要になります。管理者は、その期の部門目標を達成するために、方針と計画を示し、部下に具体的な指示を出します。うまく行かない時は、再度方針と計画を直し、なんとか完遂に導きます。
その過程で、作業層と判断層を動かすための仕組みを作り直していきます。
この管理者層を動かす仕組みが必要になります。この管理者が担うものから、「この仕組みが、先の判断層や作業層を動かす仕組みとは、全く異なるもの」であることが解ります。
この仕組みを獲得できないと、管理者層の量産ができなくなります。その結果、多くの管理者業務を、社長が担うことになります。社長は田中、営業部長も田中、製作部長も田中、という具合にです。
少し動きが良く、気が利く人間を管理者に上げたとしても、機能することはありません。そこには明確な管理者の業務が無いのです。その人はいままで通りの作業を続けるか、または、潰れていくか(辞退・辞職)のどちらかになります。
冒頭のH社は、この2年で売上げもスタッフ数も倍になりました。
そして、いよいよ10億円を目指す段階になりました。4階層の組織づくりに取り掛かる時です。
この2年間で、作業層を動かす仕組み、判断層を機能させる仕組みを作ってきました。その成果として、判断層で3名の社員が機能し始めています。
そして、管理者層を動かす仕組みも十分とはいえないものの、完成をしています。その仕組みに、営業部長のA氏を載せる段階です。
明るく、対応も早いA氏は、お客様からの絶大な支持を得ていました。
また、部下の面倒見も良く、彼の下で若い社員が育っていきます。
そんな彼に、仕組みづくりのテーマを与えます。
「提案業務のマニュアルを作ってください。」
「見積り作成の標準化をお願いします。」
良い返事が返ってきます。しかし、進まないのです。
H社長が確認すると、「すみません、案件対応で忙しくて・・・」と返ってきます。その状況を矢田に相談しました。この段階では、通常通り「追い込み」を行います。期日を切る、進捗確認の頻度を増やすのです。
その出てくるレベルの低さにH社長は、愕然としました。そこには、数行の箇条書きの文章があるだけです。A氏の元気もなくなって来ています。
その状況をお聴きして、私は、H社長に提言しました。
「A氏には、このまま判断層として活躍していただき、仕組みづくりは適性のある社員と進めてはどうでしょうか。」
このようなケースは、少なくありません。現場で判断層として優秀な社員が、必ずしも管理者として優秀である訳ではないのです。判断層と管理者層の仕組みが全く異なるのと同様に、そこで必要となる素養も全く異なるのです。
また、A氏の年齢を確認すると、45歳とのこと。
仕組みが良くも悪くも、社員の能力や貢献度をさらけ出すことになるのです。
H社長は、答えました。
「はい、そうします。彼には現場で稼いでもらって、仕組みづくりはこちらで進めていきます。」
この取組みの中、1名の女性社員が頭角を現していました。その女性社員ともに、H社長は「管理者を動かす仕組み」を回し始めたのです。
(まとめ)
・規模の拡大と共に、2階層、3階層、4階層と組織をつくっていくこと。その時には、作業層、判断層、管理者層を動かすための仕組みを作る。
・それらは、全く別の物であり、作る仕組みも全く別物である。
・その仕組みが出来上がると、本当の社員の能力や働きが見えるようになる。
・その結果、適材適所が実現し、更に会社としての成長を加速させることができる。
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