No.408:一族経営、共同経営が、うまくいかない理由。そして、その対策とは。
私の向かいには、会社の状況を、穏やかに説明するK社長が居ます。
その横には、無表情の専務が座っています。
事前にK社長から、相談を受けていました。
「後継者である息子との仲が良くありません。それがうちの一番の課題です。」
息子が入社する10年前までは、仲の良い親子でした。その後、関係は徐々に悪くなっていきました。その態度も改まるだろうと思い専務に就けたのが一年前です。
私は、K社長に提案していました。
「まずは、やることやりましょう。それでダメなら、仕方がないとあきらめてください。」
この時には、K親子の結末がどうなるのかは、全く予測できませんでした。
『一族は、異なるようにできている。』
これは、一族で経営する人には、絶対に肝に銘じておいて欲しいことです。
父親と息子、夫と妻、兄と弟、いとこ同士。
その個性も思考パターンも、必ず「異なる」ようにできているのです。
それは、リスクを回避するためにあります。
父親が「こうやろう」と言うのに対し、息子が「これはこうではないか」と違う意見を出すから、多くのリスクを回避できるのです。
また、兄が会社を起こした、弟は公務員になった。どちらかダメになった時も、一方が手を差し伸べることができます。その結果、一族の血を残すこともできます。
そして、男女は、異なる人を求めるようにできています。
異なるモノを持つからこそ、リスクヘッジをすることが出来るのです。
これが「同じ」であれば、一族としてのリスクの回避も存続も危うくなります。父と子、夫と妻、兄弟は、自然の摂理によって、違うようにできているのです。
しかし、急いで補足しておかなければなりません。
経営においては、その状態のままにしてはいけません。
「一緒の会社に居る」という近い状態で、何もしなければ、その多くは、『仲が悪く』なります。協働状態は、保たれなくなるのです。
異なるモノを持つ一族と、協働するために必要なものは、以下の三つとなります。
1.向かう方向を一緒にすること
父親である社長は、「自社は、もっと専門性を高めるべき」と考えています。息子は、「多角化するべき」と考えています。父は「専門性」を、子は「多角化」を、最高の「リスクヘッジ」と考えています。
考えている事業の向かうべきところが違うのです。これでは、議論が、かみ合うはずがありません。
2.同じ土俵で話すツールが必要
人が人と、同じ土俵で話すために必要なツールは、一つしかありません。それは、「文章」です。事業の方向性や各施策の方針を文章にするのです。
文章になっているから、共通認識を作れます。そして、文章化されているからこそ、意見を言えるのです。
3.定期的なコミュニケーション。すり合わせが必要。
そして、双方向のコミュニケーションによって、お互いの認識の違いの修正や、相手への期待を伝えていきます。そして、実際に動いてみるとお互いの「ズレ」が生じます。また、すり合わせを行います。
文章化してすり合わせをする、動く、そして、文章化してすり合わせる、の繰り返しなのです。
この3つが有って初めて、誰かとの協働ができるのです。
これは、一族経営だけでなく、友人との共同経営でも同じです。そして、すべての組織に当てはまることなのです。
他人同士の非常に優秀な人が集まった会社の経営陣でも、「向かう方向が違う」、「文章が無い」、「定期的なコミュニケーションがない」状態では、必ず上手くいかなくなるのです。内部分裂を起こすことになります。
これらのことを身に付けないと、誰とやってもうまく行くことは無いのです。自社の経営陣をまとめることも、他社と協同して事業を起こす時も、です。
一族経営では、その現象が顕著にでることになります。
それは、我々の心には「依存心」があるからです。「これをやってほしい」、「なぜ、気づいて動いてくれないのか」、「どうして、解ってくれないのか」、その気持ちは、自然に湧いてきてしまうのです。それは「甘え」とも、表現できるものです。
この心は、人間誰しもが持っているものです。そして、この依存心は、自分に近しい者ほど、生まれやすいという特性があります。また、コントロールも難しくなります。
他人よりも一族に対しての方が、依存心が生まれやすいのです。それ以上に、いとこよりも兄弟、兄弟よりも妻、にそれは起きやすいのです。
「他人と協同して経営するよりも、一族経営の方がいろいろ難しい」という現象は、この人間の特性に大きく起因しています。
そこに、「一族だから、解り合える」という間違った思い込みが拍車をかけます。
これは、先にご説明した通り、逆なのです。一族は、異なるように出来ている訳ですから、そんなことは基本起きにくいのです。
「一族だから解り得ない」、そして、「一族だから依存心が生まれやすい」のです。
だからやることを、やらなければならないのです。
それを、冒頭のK社長は、実行しました。
まずは、事業の考え方を、当社のコンサルティングを一緒に受けることで勉強しました。K社長と専務の基盤となる知識が、そもそも違うのです。
すべての説明を聞き、社長は、「全然、知りませんでした。」と言い、専務も、「そんな世界があるとは、想いも知れませんでした。」と感想を述べました。
そして、それから、お二人で、事業構想について話合うことを開始したのです。
面白いもので、男同士と言うものは、具体的なテーマがある時には、コミュニケーションを取ることができます。テーマが無い状態(盆正月の身内の集まり)では、話すことが無いのです。
K社長と専務の普段の会話は、格段に増えることになりました。その過程でK社長から相談がありました。
「経営計画書を、専務にまとめさせてもいいでしょうか。」
経営計画書の作成は、本来、社長の役目です。誰にも与えられるものでもありません。しかし、継承を急いでいることもあり、私も「それがいいでしょう。」と答えました。
専務がまとめ、それを持って、社長とディスカッションをする。答えが出ない時には、二人で、矢田に相談するということを繰り返しました。
その結果、御両人も納得できる経営計画書が出来ました。その作成のための半年間で、二人の関係は、完全に修復されていたのです。昔の仲良し親子に戻ったのです。
K社長も、アイディアが浮かぶと、専務をランチに誘い相談します。昔のように、いきなり会議で発表することも自制できています。
専務も、社内のことで気になることがあると、社長に報告と提案をするようになりました。専務が、社長室をノックするのは、週に4、5回はあります。
私は、期末にK社の経営計画書発表会に招かれました。
大方針をK社長が発表し、専務が各施策の説明を受け持ちました。会場には、程よい緊張感と和やかさがあります。40名の社員からの、お二人への信頼が高いことが感じられます。
2年前のK社は、社内が完全に分離されていました。社員は、社長と専務の板挟み状態にあり、疲弊していました。非常に雰囲気が悪い状態だったのです。
経営計画書発表会の時に、社長の奥様が寄ってこられました。私は、それまでお目にかかることはありませんでした。「先生、ありがとうございます。」その一言だけ言われ、深く頭を下げられました。
異なる能力や思考を持ったものが、力を合わせ、一つ大きなことを成す、それが組織です。多くの人を使い、世に大きな貢献をする、それが会社です。
その中心にいるのが、社長です。
どうしても合わない人という人は、必ずいるものです。
しかし、何もしなければ、自分の周りの多くの人が「合わない人」になってしまいます。
特に、社内にいる身内や幹部が、そうなってしまいます。
やることを、まずはやりましょう。
やれることを、まずはやります。
その力を、つけましょう。
「相手をどうしようか」と考えるのは、それからで良いのです。
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