No.418:会社が大きくなると、ミスや遅れ、不正が全く見えなくなる。そこで必要となる仕組みとは何か!?
この日は、「その地域のクライアントが集まっての飲み会」にお招きいただきました。ここでは、参加者同士が「同じレベル」で話をすることができます。
その中の一人に、建設業H社長がいました。H社は、3年前に当社のコンサルティングを終了しています。
現状の報告をする順番がH社長に回ってきました。
「矢田先生のコンサルティングを受けて、年商2億が、2年後には10億を超えてしまいました。」
「おお」と他の経営者から驚きの声が出ます。
そして、次の言葉を出されました。
「負債も2億円になりました。」
私は、口に含んだビールを吹き出しそうになりました。当時の懸念は当たり、H社長の会社は、「大きくなったが、全く儲かっていない会社」になっていたのです。
この世の中は、「手順」と「考え方」によって成り立っています。
手順とは、正にその言葉の通り、「手を動かす順番」となります。そして、考え方とは、その目的や意図という「意味」になります。
この両方があることで、効率よく作業することができます。また、応用したり、改善したりすることができます。会社にとって、膨大な時間とコストをかけて獲得したこの「手順と考え方」こそが、会社のノウハウであり、財産になるのです。
そこでまず必要になるのが、この「手順と考え方を見えるようにする仕組み」となります。それが、方針書であったり、マニュアルだったりします。それによって、初めてそれらノウハウは、見えるようになるのです。
そして、それができると次の仕組みが必要になります。
それは、「手順や考え方を共有する仕組み」となります。組織の構成員である社員と共有することで、それがより正しく実行されます。また、管理者と共有することで、彼らによって管理がされるようになります。
その共有が勝手に進むことはありません。また、そのばらつきも大きくなります。
その「共有する仕組み」があるからこそ、新たに採用した社員や、昇格した管理者を、その役割で速やかに機能させることが出来るようになります。
先に上げた「見えるようにする仕組み」と、後の「共有する仕組み」は、全く別物になります。多くの経営者が私の本を読み、仕組みづくりに向かってくれています。それは、本当にうれしいことです。そして、マニュアルを作り出しています。
しかし、そのマニュアルが出来たとしても、それだけでは、全く足りないのです。
そして、次のものも全く別物になります。それは、「その手順や考え方を発展させる仕組み」です。発展させるとは、課題を発見し、改善していくということです。それを担うのが社員になります。「社員が改善に向かう状態」、ここに再現性を発揮する仕組みをつくることが必要です。
「見えるようにする」、「共有する仕組み」、「発展させる仕組み」、これらは別々なものなのです。別々の仕組みが必要であるということです。そして、ここから自社の仕組みづくりの進捗度合いを測ることができます。
業務は、見えるようになっていますか?
ノウハウを共有する仕組みはできていますか?
社員中心でその仕組みを発展させるサイクルは回っていますか?
この先、事業を伸ばしていくのであれば、なんにせよ、第一段階はクリアする必要があります。それは、すべてを「見えるようにする」ということです。
冒頭の建設業H社は、この「見えるようにする」という第一段階が出来ていませんでした。
事業モデルの変革が終わると、H社を取り巻く環境は一気に変わっていきました。
それまでの工事単価は、数十万円から数百万円がメインです。高くても1千数百万円でした。それが、一年後には、1億円を越える工事単価を扱うようになったのです。
私は、その時、H社長に言いました。
「H社長、急いで仕組みを作りましょう。」
その事業の伸びに、危機感を持っていました。毎回のコンサルティングでそれを伝え、そして、その手順も確認しました。
その私の提言に、H社長は、答えることをしませんでした。
その替わりに行ったのが、「優秀な社員の採用」です。大きな工事という収益の「当て」はあります。それを原資に、高給を提示し、経験者を複数名一気に採用していきました。
そして、それらの工事にあてがったのです。
H社長自身が忙しくなったこともあり、コンサルティングは小休止の状態になっていました。
それから半年ぐらい経った頃に、H社長と食事に行きました。私も気になっていたのです。
H社長からは絶好調のオーラが出ています。
「いやー、彼らは本当に優秀ですよ。彼らを信じて任せています。」
私は、お聞きしました。
「恐くないですか?」
仕組化が出来ていない状態では、社長は「何も知ること」ができません。各案件がどういう状況にあるのか、進んでいるのか、遅れているのか、も解りません。社員が適宜正しい判断をしているのかも知りようがないのです。この状態は、H社長にとっても、非常に怖いはずです。
H社長は、少し考え、答えます。「はい、恐いです。」
そうは言っても、その顔から、「なんとかなるでしょう」という気持ちが溢れています。
「負債も2億円になりました。」
そして、この飲み会の場となりました。それまでも、少しは連絡を取り合っていました。そして、「状況は良くない」とは、聞いていました。
しかし、それほどとは、思いもよりませんでした。
工事を10億円こなして、2億円の負債です。
これは、完全にその工事で間違いを犯した結果です。見積りを大きく間違えた、追加工事の交渉をしっかり行わなかった、工期を読み間違えた・・・。そして、そのようなことを何件もやってきたのです。その結果、工事でのマイナスを補填するために借り入れを起こすことになったのです。
この2年で、工事単価は、数百万円が1億円になりました。
それは、事業が大きく変わるということを意味します。
そこでは、また別のノウハウが必要になるのです。別の手順と考え方の獲得が急務になります。
工事が大きくなった分、その一件あたりの儲け(粗利高)は大きくなります。その逆もあります。工事が大きくなった分、ミスをした時の損失は大きくなります。
ここで、間違えてはいけません。大きい工事だからといってリスクが大きくなるわけではないのです。そのリスクをコントロールすることができないことが、リスクなのです。そのためのノウハウを自社が持っていないことが本当のリスクなのです。
実際に、同じ業界の他社は、その規模の工事でも、十分に利益を出しているのです。
そして、この根底には、それ以上の問題が潜んでいます。「ノウハウを積み上げる仕組みが無い」ということです。一つの工事で損失を出した、そこから学び、再発防止のために、仕組みに落とすことが無かったのです。
その状態で、H社は、環境に急かされるままに、次の工事に突き進んだのでした。そして、またその工事でも・・・。この結果で積み上がった負債なのです。
「ノウハウを積み上げる仕組み」があれば、一つの失敗を確実に活かすことができます。
次の工事は、よりスムーズに効率的に出来るはずです。そして、また次の工事をこなせば、更にそれは良くなります。その結果、確実に利益が出せるようになります。
「ノウハウを積み上げる仕組み」とは、言い換えると、「学習機能」と言えます。組織としての学習機能が、必要なのです。
その場の社長全員が、話すH社長を見守っていました。その社長の多くは、すでに「成功者」です。
H社長は、少し間を置き、言われました。
「もう一回勉強し直そうと思います。先生、よろしくお願いします。」
周囲から拍手が起きました。
仕組みが無いとリスクは全くコントロールできないことになります。
案件が増え、社員が増えるほどそのリスクは大きくなるのです。
提供するサービスのばらつきも大きくなります。また、社員が辞めるリスクも大きくなります。そして、ミスや遅れ、不正も起きやすくなります。それが、全く見えないのです。これは、本当に怖い状態です。
そして、その仕組みの無い状態での拡大の先には、避けられない崩壊が待っています。
仕組みをつくれば、そのリスクはコントロールできるようになります。
そして、期を重ねるほど、そのノウハウは育っていくことになります。
事業が伸び出す前に、本当の仕組みを手に入れることです。
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