No.457:優秀な社員を会社に留めるために何をするべきか?
販促支援業N社長は、弱った顔で言いました。
「彼が辞めることになりました。」
彼とは、非常に優秀な企画担当の社員のことです。
退職の理由は、同業のより大きな会社に転職することが決まったとのこと。
この取組みを初めて2年が経ちます。随分仕組みが出来てきました。
N社長は訊きました。
「先生、優秀な社員を留めることはできないのでしょうか?」
私は答えました。
「はい、優秀な社員を留めるための仕組みもつくる必要があります。」
年商数億円企業が、人材育成のためにまずはつくるべき仕組みは2つあります。
一つは、短期戦力化の仕組みです。
採用した社員を如何に短期間で稼げるようにするかの仕組みです。
もう一つは、管理者育成の仕組みです。
一人前に育った社員を、管理者として育て、管理者として機能させるための仕組みです。
この2つが、まずは必要です。
多くの年商数億円企業は、この2つがありません。そのため、採用した社員の戦力化に時間がかかり、その間の人件費が重くのしかかっています。また、一人前に育った社員はそこで成長をとめ、社長と横一線という文鎮型の管理者不在の組織が出来上がります。
この2つについては、このコラムで何度もご説明して来た通りです。また、私の著書の赤本で、詳しく書いております。
上記の2つが出来上がったとしても、完了ではありません。
次は、この2つの仕組みに取り掛かることになります。
一つは、「合わない人を辞めさせる仕組み」です。
これは、先の「採用した社員を短期で戦力化する仕組み」に非常に近いところに存在します。
採用された社員には、訓練を提供することになります。訓練とは、「決まったことがその通りできるようになる」ということです。決まった態度、決まった手順でまずはやれるようになってもらいます。これにより、短期での戦力化が可能になります。
そうすると、どうしてもそれが出来ない人が出てきます。遅刻したり言葉遣いが悪かったりと態度に問題がある場合と、ミスが多かったりそれが苦手であったり、能力的に出来ない場合があります。自社での戦力化は無理と判断した場合には、速やかに退職の意思決定をします。
合わない人は、採用選考をしっかり行っても、ある程度は出てしまいます。
短期戦力化の仕組みに、「合わない人に早期で辞めてもらう仕組み」を含めて作っていきます。それにより人材のバラツキは抑えられ、ある程度の効率を保ち業務を回すことができます。
この仕組みが無い会社では、「合わない人」がそのまま会社に残っていきます。
挨拶しない人や返事をしない人、乱暴な言葉遣いの人が、会社に残っていくのです。そういう人が途中から良くなることはありません。歳をとるほどその癖は強くなり、若者の悪い見本になったり、職場の雰囲気を悪くしたりします。
また、コミュニケーションの取れない人が営業担当にいれば、高い金を投じて集めた見込客を逃し続けることになります。人が良くてもミスが多い人が経理担当にいれば、ダブルチェックなどの余計な取組みが必要になります。
我々は、利益を求める企業です。努力は続けるものの、その限度もあります。
「合わない人を辞めさせる仕組み」が必要になるのです。
そして、もう一つが、「優秀な人を留める仕組み」です。
優秀な人は、好奇心も向上心も旺盛です。
そのため、絶えず新しい環境に、自分を置きたいと考えています。お金よりも、自分の成長と充実した毎日を求めるのです。
そして、それが満たされなくなった時、優秀な社員は、新天地を求め去っていくことになります。
そんな優秀な社員を自社に留める仕組みをつくる必要があります。
ジョブローテーション、資格取得制度、OJT担当者や管理者に任命などがあります。
しかし、それ以上に重要になるのが、根本的に「彼らにとって会社が魅力的であること」です。この会社は業界でも特殊なサービスを提供している、この会社であれば色々なことに挑戦できる、この会社は給与がよい、自由に意見を言える社風である、会社は公正で公平であるなど。
これらの基盤をつくり、「優秀な人を留める」という明確な意図を持って上記の施策を設けていきます。そして、「個々の優秀な社員が、暇になっていないか」という視点でのチェックを定期的にしていきます。多くの会社は、これを評価面談や人事考課のタイミングで行っています。
しかし、実際には年商数億円企業には、上記のような細かい施策は難しいと言えます。
年商数億企業の現実的で有効な「優秀な人を留める」ためにできることとは、「会社が成長し続けている」状態をつくることです。会社が成長し続けている以上、そこでは変化が起き続けます。
そのなかで、その優秀な社員は、どんどん新しい仕事に取り組むことになります。また、部下は増えていき、より大きな責任を負うことになります。そして、会社はどんどん大きくなります。この状態で、優秀な社員は、当然暇になることもなく、成長することになります。
彼らにとって、スピードある会社の成長こそが、最大の魅力なのです。
冒頭のN社は、その途中にありました。
この2年、売上げは昨年対比130%で推移しています。
社員も増え30名を超え、事務所をより立地がよく、きれいなビルに移転させました。
N社長は、言いました。
「これでもダメなのですね。」
会社がこれほどの変化成長をしていても、その優秀な社員は新天地を求めたのです。
私は、答えました。
「そうです。それでもある程度は辞めていく者はでるのです。」
それこそが、彼らが優秀である所以なのです。人生のなかで何かの衝動にかられる、それを完全に防ぐことも鎮火することも出来ないのです。
これからも、我々が取り組むべきことに変わりがありません。
一部の優秀な社員に頼らない仕組み、優秀な社員が辞めてもノウハウが残る仕組み、それを作っていくのです。
そのうえで、また優秀な人との出会いを求めて動くのです。
優秀な社員の穴を、並みの社員で埋めることはできません。
優秀な社員、それも更に優秀な社員を取るために貪欲に動くのです。
そのためには、自社がより成長することです。そして、より発展することです。
その結果、他社で働いている優秀な人に「あの会社は魅力的だ」、「あの会社ならもっと成長できそうだ」と思わせるのです。優秀な人達が「今居る会社を辞め、うちに来たい」と言うようにするのです。
この地域で、この業界で、一番輝いている会社にするのです。
その時には、社内では優秀な社員同士が切磋琢磨する状態が出来上がるのです。
(まとめ)
・まずは、「短期で戦力化する仕組み」と「管理者を育成する仕組み」をつくる。(年商数億円企業の人材育成に関する二大課題は「短期戦力化できない」と「管理者がいない・育たない」である。まだ読んでいない方は、ぜひ赤本を。)
・その後に、「合わない人を辞めさせる仕組み」と「優秀な人を留める仕組み」をつくる。
・会社がスピードある成長をしている限り、優秀な社員はその環境に満足してくれる。
・それでも辞める人は出る。それを嘆いている暇はない、もっと良い会社にするのだ。優秀な人に選ばれる、優秀な人が入れてくれと列をなす会社にするのだ。
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