No.490:人が採れない会社が、求人媒体に金をかける前に考えるべきこととは?
「先生、人を採ろうと思います。」
建設業N社は、地方都市、それもかなりの田舎都市にあります。
事業モデルの変革、そして、内部の仕組化が進む中で、いよいよ大きく動くタイミングが来ました。
その第一歩としての「営業社員の獲得」です。
しかし、N社長は、ここ数年採用に非常に苦労してきました。
「先生、また求人広告に金を吸い取られるのでしょうか。」
矢田は、答えました。
「いいえ、今の御社なら大丈夫でしょう。きっと良い人が採用できるはずですよ。」
この時のN社長は、確信が持てない様子でした。
生産性とは、「社員一人当たりの一年間の粗利高」を意味します。
言い換えると「給与1万円当たりの一年間の粗利高」となります。
一万円でいくら稼いでいるか、その値をみれば、効率よく稼げているかどうかの判断がつきます。
我々企業の活動は、大きく次の二つで表現することができます。
「給与1万円当たりの獲得粗利を大きくする」
「給与1万円当たりの経費を下げる」
外の活動により一回の儲けを大きくし、内への活動によりその経費を下げる、のです。
後者の「給与1万円当たりの経費を下げる」ために最も大きな効果的な取組みが『分業』です。分業により、企業として人材活用の幅が拡がります。また、人材をより効果的に使うことができます。
業務の中には、難しい仕事もあれば、簡単な仕事もあります。
その難しい仕事には、正社員や能力の高い社員を回します。簡単な仕事には、短時間労働の社員や能力の低い社員をつけます。企業のなかで、多様な雇用体制、多様な能力の社員が活躍できるようになるのです。
また、企業として、「優秀な社員を自社に留める仕組み」と「新規採用者を短期で戦力化する仕組み」を得ることになるのです。優秀な社員は、より難しい業務を受け持つことで成長する喜びを得ます。新規採用者は業務が限定されているため、習得が早くなります。その結果として、定着率も高くなります。
これが『分業』の効果です。
分業により『適材適所』ができるようになるのです。
そして、会社の人に関するコストを総合的に下げることが実現できるのです。
この分業が出来ないと上記の逆の状態に陥ることになります。
一人の受け持ちの業務範囲が広くなります。
そのため、すべてのポジションで高い能力の社員が必要になります。そんな人材の採用は困難であること、そして、採用した社員の戦力化に時間が掛かることは容易に想像することができます。
冒頭の建設業N社も正にその状態にありました。
分業の仕組みができていないために、一人の施工管理の社員が一つの案件(または数個)を受け持つという「個人商店」方式でした。
一つの現場を自分一人で納めるためには、それなりの能力が必要になります。
それだけの人材を獲得するには、それだけのコストがかかります。市場にはそんな人材は多くはいないのです。そして、そんな人材はどこの企業も欲しいのです。
求人媒体に掛ける費用も、提示する給与も高く成らざるを得ません。
そして、採用できたとしても、やはり実際に独り立ちするには時間がかかるのです。
ここまでの確認をしたところでN社長は口を開きました。
「先生、仕組化に取り掛かり、自社の施工レベルの低さに驚きました。」
いままで中途採用で会社は成り立ってきました。そのため、其々が其々のやり方を持っており、それでやってきたのです。社内には「標準」が有りません。会社の中には、バラバラの工程表や検査の書式、バラバラの見積もり基準が存在することになっていたのです。
そのバラバラ状態をほったらかしで20年以上やってきたのです。
そこに会社としての品質は存在していません。当然、品質的な問題も多く起きていました。またそれも新人の戦力化に時間がかかる要因です。その状態が仕組化の過程で、浮き彫りになってきたのです。
そして、N社長は顔を上げ言いました。
「先生、更に解ったことがあります。」
私は、黙って次の言葉を待ちます。
「施工管理の社員が、簡単な仕事に多くの時間を取られています。」
1カ月前に、私はN社長に「施工管理の社員が、何の仕事にどれぐらいの時間をかけているのか、そのデータをとってみてください」とお願いをしていました。
N社長は1週間ほどその収集を行いました。その結果に驚きました。
本来施工管理者がやらなくてもよい業務で、労働時間の7割以上の時間を使っていたのです。能力も高く、給与も高い彼らが、何でもない業務をやっていたのです。それも月50時間以上の残業をしています。
この実態にN社長は驚きました。「当社が儲かるはずが無いのです。」
私は、あと二つの予測される事象を、N社長に伝えました。
予測される事象1:次の管理者の能力開発が出来ていない
彼らは案件漬けの毎日を送っています。一つの案件が終わると、次の案件に取り掛かります。その状態で時間が経っていきます。その結果、30代40代という時代をいち施工管理者として過ごすのです。その間、彼らは仕組みの改善や部下のマネジメントというものに携わっていません。そこでは立派な『職人』が出来上がっています。
会社として、全く次の管理者の育成が出来ていないのです。
予測される事象2:優秀な人材が去っていく
社員は来た案件を「こなす」だけの毎日、毎年になっています。その状態に優秀な人材は「飽きる」ことになります。また、一向に改善されない業務や会社の体制に嫌気がしてきます。
そして、ある日求人サイトを見てみると、より魅力的に見える会社が並んでいます。そして、給与も高いのです。彼らは会社を見切って去っていくことになります。
N社長はこの説明を黙って聞いていました。
そして、表情を変えて言いました。
「先生、頑張ります。」
あれから一年が経ちます。
仕組みができ、分業が機能してきています。パート社員を増やし、施工管理の社員の仕事を整理しました。
次のN社の変化です。
一年前:年商4億、年粗利高1.5億、正社員16名(内施工管理10名)、パート1名
今:年商4億、年粗利高1.7億、正社員12名(内施工管理8名)、パート6名
(定年1名、個人的な理由で1名、仕組化に合わず2名退職)
一人当たりの粗利高920万円は、1200万ほどになりました。(パートを0.3換算)
そして、経費は大幅に下がり、利益が十分出せるようになりました。
これで、いよいよ拡大に移ることができます。
今までの生産性が低い状態のままであれば、規模を追えばより厳しくなります。この生産性であれば、拡大のコストを十分賄いながら利益も残せます。
案件を増やすために営業社員の採用に向かう時です。
N社長は言いました。
「また、求人媒体に金を吸い取られることになるのでしょうか。」
矢田は答えました。
「今の御社ならよい人が採用できるはずです。」
それから1カ月後、N社長からメールがありました。
「営業社員が採用できました。それもドンピシャな人材です。」
N社長は、求人広告に「どんな人が欲しいか」、「どのような業務をやってほしいか」を書きました。そこには具体性があります。また、そこには仕組みに関する言葉があります。
その言葉に魅かれて、それに合った人が来たのです。
分業が進むと、それぞれのポジションでどのような人が欲しいかが明確になります。
いままでのような、「優秀な人」という曖昧なものではありません。
このポジションにはこのような素養を持った人、このポジションにはこのようなスキルを持った人と明確なのです。そこには「全員に優秀さを求める」という無駄はありません。
結果、採用コストは下がります。採れるようになるのです。
そして、合っている人だけに戦力になるのも早いのです。
N社長の続きのメールには次のようにありました。
「選びきれなかったので、2名を採用することにしました。」
採用に関する問題は、永遠に続きます。
これを、媒体選びや求人テクニックで何とかしようとしてはいけません。
また、生産性の低いなかでの給与額のアップは、この先を更に苦しいものにします。
分業を進めることです。
それにより、生産性が上がります。十分な給与を払えるようになります。
それにより、人材に関する多くの問題が根本的に解決するのです。
そして、総人件費は下がることになります。
ばりばり利益が出せる会社になるのです。
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