No.503:人材育成に力を入れる!とは具体的に何をするのか?

№503:人材育成に力を入れる!とは具体的に何をするのか?

特殊工事建設業S社長は、言いました。
「今期の重点テーマは人材育成です。うちは子供のような社員ばかりで、人としてのレベルが低いのです。それを高めたいと考えています。」
 
私は、真顔で聴きました。
「具体的に何をすればそれができるのですか?」
 
S社長も真顔です。
そして、にかりと笑い言われます。
「先生、私にも解らないのです。」


『人(社員)』は環境によりつくられます。
 
その環境とは大きくは3つあります。
『育った環境』、『以前勤めた会社という環境』、そして『自社という環境』。
 
やはり育った環境の影響は大きいものです。
マナーやモラル、態度、行動の癖、多くの思考や価値観。子供はその環境から学ぶことで、人生のスタートを切ります。家族という一番身近な存在からそれを得ていきます。
 
そして、社会人になります。最初の会社、上司、同僚、そこで多くのことを学びます。
作業だけでなく、仕事の進め方や物事の見方、そして、人生への心構えも学びます。そこで仕事に対する基準が出来ます。
 
中途採用者を採用するとは、大きくは『育った環境』と『以前勤めた会社という環境』の2つから得た習慣を持った人を採用することだと言えます。
新卒者を採用するとは、『育った環境』のみを持った人を招き入れることを意味します。
 
上記のことから次のような考え方が生まれます。
 
・自社より先に行っている会社の経験者を採用する
その人は、自社より大きな工事の経験があります。また、自社にはないノウハウを持っています。自社より大きな会社の管理部にいました。
そんな人の当たり前レベルは、自社の先を行っています。
当然のように、大きな工事をこなしてくれます。短期にそのノウハウを自社にもたらしてくれます。坦々と経理の仕組みを整えてくれます。
自社より先に行っている会社の経験者を採用することで、会社のある部分を飛躍的に高めることができます。
 
・将来の幹部候補者を獲得するために、新卒者を採用する。
中途採用者は、「以前勤めた会社という環境」からの「癖」を持つために、育てにくいという面はあります。
また、我々中小企業にも、新卒市場では優秀な人材を獲得できる可能性が高まります。
新卒者は、「以前勤めた会社という環境」という経験がないだけに、「魔法にかけやすい」のです。その結果、新卒者採用に重点を置く会社は多くあります。
 
 
その後、『自社という環境』を提供します。
自社という環境が良ければ、その社員はそのように育っていきます。
その職場では社員がきびきび動いています。会議は時間通りに始まり、意見を言うべき時には皆が発言します。目標は共有され、行動計画に則って仕組みが改善されていきます。
 
『自社という環境』が悪い時にも、そのようになっていきます。
その職場では、社員はダラダラと歩いています。会議は遅れて始まるのが常で、一部の人だけが話をしています。会社としての目標はあるようで無い状態であり、行動計画もなければ、PDCAも回っていません。
 
『育った環境』、『以前勤めた会社という環境』、そして、『自社という環境』の3つです。
 
『育った環境』の良い人を新卒採用で取っていきます。
『以前勤めた会社という環境』のレベルが、自社よりも先を行っている人を中途採用で獲得します。
 
そのうえで
素晴らしい『自社という環境』で染めていきます。
良い人材に、更に自社で活躍してもらいます。
 
採用により会社を変えていくのです。


当然、環境の影響の大きさは個々によって異なります。
優秀な人は優秀であり、そんな人はどんな環境でも向上心を持って、自分を変えていきます。
 
しかし、それでも、『環境』の影響は大きいものです。
その影響の大きさを無いものと考えることはできません。
そうだからこそ、我々は、自分の家をどの地区に置くのかを考えます。
また、自分の子供をどの学校に行かせるかを真剣に考えます。
 
人を育てるのは、あくまでも『環境』ということです。
我々が考えるべきは『環境』であるということです。
 
きちんとした社員にしたい、のであれば、きちんとした会社にならなければなりません。
管理者に仕組みの発想を持ってほしければ、仕組みで回る会社にしなければなりません。
組織的に動いてほしければ、計画を持って動いている状態にする必要があります。
 
そこに人を「載せる」と、社員はその通りになっていきます。
きちんとした先輩や同僚と同じように、ビジネスマンとして恥ずかしくない社員が出来上がります。仕組みの恩恵を受けることで、仕組みの重要性を理解し、仕組みの改善に自分も加わるようになります。計画を持って動くことで、計画づくりとそれを確実に実行することの重要性を理解することになります。
 
冒頭の特殊建設業を事業とするS社長は、席に着くと言われました。
「6月の決算では、売上は4.3億になりました。受注残は6.2億です。」
 
4年前に当社に来られた時には、年商は2.2億でした。その当時、社長がすべての営業と見積の作成をしていました。また、社内にはだらしがない空気が流れ、自主的に動く社員が皆無の状態でした。
 
それを変えるために、S社長は一つひとつ取り組んできました。
今では、営業担当に営業と見積作成を任せられています。また、社内の多くは仕組みでまわるようになっています。そこに人を入れてきました。
その結果としての、この数字です。前期も年商3億、営業利益5千万としっかりと利益も残せています。本当に強い会社になったのです。
 
S社長は、そのうえで言いました。
「今期の重点テーマは人材育成です。うちは子供のような社員ばかりで、人としてのレベルが低いのです。それを高めたいと考えています。」
 
これは、S社長の癖だと解りました。
私は、S社長に「具体的に何をするのか」を聞きました。
やはり出てきません。
 
S社長は、人材育成のための施策をすべてやってきました。仕組みをつくり、会社が回る状態にしてきたのです。ちゃんとした会社に作り変えてきたのです。
また、人材採用の仕組みもつくることで、獲得できる社員のレベルを格段に上げることが出来ました。S社は、まるっきり違う会社になったのです。
残す施策は事務所移転ぐらいです。
 
私はS社長に確認しました。
「そのダメな社員とは誰のことを指していますか?」
S社長は、上を向いて考えられます。そして、答えました。
「工事部の〇〇と管理部の〇〇でしょうか。」
その二人の名前は、4年前からいる社員で、このコンサルティングの場で何度も出てきていました。
 
私は確認をします。
「人に向かってはいけません。環境を変えるのです。そのために仕組みに向かうのです。」
S社長は、答えました。
「そうですね、どうしても昔の癖で人に向かってしまいます。」
 
・何か問題が起きると「人」を何とかしようと思ってしまいます。
・人材育成が大事と、反射的に考えてしまいます。
・ダメな社員ばかりに目が行ってしまいます。
これは、多くの社長が持つ悪い癖です。
 
この日のS社長もこの癖が出てしまったのです。
S社長は豪快に笑い「すみません、先生にはお手数をおかけします。」と言われました。
 
人を正すのも、人を育てるのも、環境なのです。
まずは環境を作りましょう。
 
いまの御社という『環境』は、入ってくる人にとって良いものになっていますか。
うちの会社は若者が『学んでよい環境』である、と自信を持って言えますか。
 
一つひとつ作っていきましょう。
それが一番早く、一番強いのです。

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