No.560:新人が辞めるのは本人ではなく“上司”が原因である──人ではなく環境を育てる

コンサルティングを終え、S社長と場所を変えるために街に出ました。
この日は10月1日。内定式帰りの若者であふれています。
各社がこの日に一斉に内定式を行うことで、学生は入社先を最終決定することになります。企業にとっても、この日から“新しい仲間を迎える準備”が本格的に始まるのです。
S社長は目を細めて言いました。
「彼らにとって、その会社が良い環境であることを心から願います。」
この一年、仕組みづくりに邁進してきたS社長の言葉だけに重みがあります。
新人にとっての環境とは“上司”
多くの会社で、せっかく採用した新人が早期に辞めてしまっています。
「最近の若者は根性がない」「考えが甘い」と嘆く声も聞かれます。
しかし、それは間違いです。
そう考えてしまえば、それこそ“思考停止”になります。
社員数が数十名以上の会社であれば、働く環境の8割は“上司”で決まります。
そして、10名以下の会社では“社長が5割、上司と仲間が5割”となります。
いずれにせよ「上司」なんです。
就職活動中、学生達は数多くの会社を回り、事業内容や理念に触れます。そして、そこで「やりがい」を語る先輩達は輝いて見えます。
それでも、入社後に毎日接するのは「上司」であり、働く環境そのものは“上司との関係”で決まります。
同僚と飲み屋で「うちの会社はさ…」と愚痴をこぼしていても、実は、「その会社」とは「うちの上司が…」なのです。
退職の本当の理由は、「会社が合わなかった」でも、「仕事が思い描いていたものとは違った」ではないのです。環境すなわち上司と合わなかっただけなのです。
新人が辞める本当の原因
その結果「初期」に新人の退職が出ることになります。
まだ仕事とは何か、右も左も分かっていない時期に辞めることになるのです。
その原因はずばり「環境」、つまり「先輩・上司の教え方」にあります。
大体それは下記のようなものになります。
・厳しすぎる
・イライラしながら説明する
・放置する
・説明が少ない、そもそもコミュニケーションが少ない
新人は、それを「歓迎されていない」「自分の居場所がない」と受け取り、長い就職活動と自分の葛藤の末に選んだ会社を去ることになります。
その裏で、その先輩も心を痛めています。新人が退職でショックを受けるのは社長もそうですが、その先輩も同様なのです。
なぜ上司や先輩の教え方が悪いのか
新人が辞めてしまうとき、現場では「上司や先輩の教え方が悪い」と言われます。では、なぜ彼らはそんな態度をとってしまうのでしょうか。
その理由は明確です。
それが“素”だからです。
人は、もともと人に教える訓練を受けていません。生まれてこの方、「人に教える」ということを体系的に学んだことがないのです。
ましてや、人を“育てる”ことなど、ほとんどの人にとって初めての経験であり、成功したことなど一度も無いのです。
だから素でやってしまうのです。そこに自分への不安もあります。そして、自分がかつて受けた指導(多くの場合は“悪い経験”)をそのまま再現してしまうのです。
その結果として、感情的に叱ったり、逆に放任してしまったりするのです。どちらにしても、本人にとっては「どうしていいかわからない」状態なのです。
教える内容も教え方もバラバラ
そして社長もまた、「現場に任せる」ことをしてしまいます。
そこでは、新人の孤立化と同時に、先輩社員の孤立化も起きているのです。
そこに仕組みの無さが拍車をかけます。
・業務に標準がない、マニュアルも方針書もない。教える内容が「ない」ために、どうしても「自分はこうやっている(会社ではなく自分流)」という説明になります。
・訓練プログラムがない。教える項目もその教える順番も決まっていません。ましてや、その先輩と新人の業務の切り分けすらされていないのです。
その結果、教える内容もバラバラ、教え方もバラバラという状態になります。
そして、その仕組みの無さ故に、周囲の社員もそこに関われなくなります。「下手に口を出して混乱させるくらいなら」と、誰も助けられなくなるのです。
結果的に、先輩社員の孤立化を助長することになります。
原則:上司を支える仕組みをつくれ
育成の本質は、「新人を育てること」ではありません。
「環境を整えること」にあるのです。
その作業の基準が解るようにする。
業務を自己完結できるようにする。
そのための仕組みです。それは、上司に対しても同じなのです。
次はその「上司」を支える仕組みを整備します。
・教え方のマニュアルをつくる。これは絶対に必要です。
・OJTチェックリストで進捗を見える化する。
・週1回の面談でフォローする。その上司との面談です。新人の面談も大切ですが、こっちのほうがより大切なのです。
「良い上司が偶然現れる」のではなく、「どの上司でも部下を育てられる仕組み」をつくるのです。そこに再現性を求めるのです。
その結果、「新人が辞めない、新人が早期に戦力化される」そして、「教える側も育つ」会社になるのです。
提言:育てるべきは“人”ではなく“環境”
新人が辞めるのは、本人の根性ではなく、環境の問題です。
社長が向かうのは“人が活躍できる仕組み”です。
新人が育つ会社では、上司を支える仕組みがあります。
新人が辞める会社は、上司もその後輩も孤立しています。
内定式が無事終わりました。彼らが入社するまで、まだ時間はあります。
進めていきましょう。
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矢田 祐二

理工系大学卒業後、大手ゼネコンに入社。施工管理として、工程や品質の管理、組織の運営などを専門とする。当時、組織の生産性、プロジェクト管理について研究を開始。 その後、2002年にコンサルタントとして独立し、20年間以上一貫して中小企業の経営や事業構築の支援に携わる。
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