No.605:優秀な社員ほど独立していく会社──問題は「人」ではなく「事業の構造」にある
「また、辞めることになりました。」
不動産業を営むK社長が、疲れた表情で言われました。
K社長から最初に相談を受けたのは、3年前です。
その時も、中心となっていた社員が独立して辞めた直後でした。
その後、優秀な社員を採用することができました。
仕事を覚えるのも早い。営業もできる。お客様からの評判もいい。
K社長も、「今度こそ、この社員を中心に会社を大きくしていける」と期待していました。
ところが、その社員も辞めることになったのです。
その理由は前回と同じでした。
「独立します。」
K社長は言われます。
「もう疲れました。優秀な社員を採用し育てても、結局独立されてしまいます。私はこの3年間、何をやってきたのでしょうか。」
私はお伝えしました。
「社長。社員の問題ではありません。独立したくなる会社になっているのです。」
独立されやすい事業の共通点
世の中には、そもそも「独立しやすい事業」があります。
例えば、システム開発、外壁塗装などの工事業、不動産業、広告製作業。
こうした事業には共通点があります。
それは、一人の営業力や技術力で仕事が成立しやすく、大きな資本を必要としないことです。
自分でお客様を見つけることができ、自分で商品やサービスを提供できます。
そして、開業するために大きな設備投資も必要ありません。
そうであれば、経験を積んだ社員はこう考えます。
「これ、自分でやったほうが儲かるのではないか。」
これは、その社員の忠誠心の問題ではありません。
そう思わせやすい事業なのです。
小さな会社ほど「全部」を見せている
そして、もう一つ問題があります。
小さな会社では、一人の社員が受け持つ業務の範囲が広くなります。
集客の方法を知っています。もちろん、営業のやり方も知っています。
また、見積りもでき、納品や施工もできます。
そして、お客様との関係も持っています。
さらに、事務処理や原価まである程度分かっているのです。
つまり、会社の商売が丸見えなのです。
本人からすれば、「お客様」も「仕事の取り方」も「仕事のやり方」そして「どれぐらい儲かるか」も分かるのです。
ここまで分かれば、独立するために足りないものはほとんどありません。
小さな会社では、「何でもできる社員」を育てようとします。
しかし、その結果として、会社を丸ごとコピーできる社員を育てていることになります。
社員を育てているようで、独立予備軍、それも、将来の競合を育てているようなものなのです。
独立しやすい事業ほど、大きくなりにくい
さらに厄介なのはここです。
独立しやすい事業は、大きくしにくいです。
一人の営業力や技術力に依存しています。
一人が一人のお客様を担当し、その人が仕事をこなします。
このような事業は、数人で回すには向いています。
しかし、10人、30人、100人と増やすことには向いていません。
そのため会社がなかなか大きくなりません。
その社員から見れば、毎年同じ仕事です。役割も大きく変わりません。給与も大きく上がりません。
そこで、こう考えだします。
「この会社にいても、来年も同じ仕事だな。」
そして、「だったら、自分でやったほうがいい。」となるのです。
独立しやすい事業を、分業せず、一人の社員に広く担当させる。
そして、会社そのものも成長していない。
これでは、優秀な社員ほど独立したくなります。
優秀な人を採用するほど、独立される
ところが、こういう会社の社長ほど言います。
「もっと優秀な人を採用したい。」
実際に優秀な人が入ると、社長はその社員を頼るようになります。
営業を任せ、重要なお客様も任せる。そして、難しい仕事も任せ、後輩の指導も任せる。
結果、仕事が、その人に集中していきます。
優秀な人ほど、仕事を覚えるのは速く、成長意欲も高いのです。
そして、ある時、こう考えるようになります。「この先、自分は何を得られるのだろう。」
その答えが会社の中になければ、「自分でやったほうが」となります。
皮肉なことに、優秀な社員を採用すればするほど、独立される会社になっているのです。
または、不正されやすい会社になっています。
一人の社員が、お客様を持ち、売上をつくり、価格を知り、原価を知り、仕事の流れまで握っている。独立も不正も、「その人が会社の機能を一人で持ちすぎている」という点では、同じ構造から生まれます。
独立を防ぐために、人を縛ってはいけない
では、どうすればよいのでしょうか。
「独立しない人を採用する。」
「もっと会社への帰属意識を持たせる。」
「顧客を持ち出さないように管理する。」
もちろん、ルールは必要です。
しかし、それでは根本的な解決にはなりません。
取り組むべきことは三つあります。
一つ目は、事業モデルを変えること。
個人の営業力や技術力だけで成立する事業から、会社として価値を提供する事業へ変えていきます。
二つ目は、分業すること。
集客、営業、受注、製作・施工、納品、顧客管理。
これらを一人で抱えさせないことです。仕事を分け、それぞれを仕組みにします。
三つ目は、会社そのものを成長させること。
ここが非常に重要です。
会社が成長すれば、新しい仕事が生まれます。新しい部署ができ、新しい役職もできます。より大きな仕事を担当できます。新規事業にも参加できます。
優秀な社員ほど、同じ仕事を続けることを嫌います。
反対に、会社が成長し続けていれば、「この会社にいたほうが、自分も成長できる。」、「自分一人でやるより、ここにいたほうが大きな仕事ができる。」
そう思わせるのです。
「独立したほうが得」を「ここにいたほうが得」に変える
「独立しようかな」と思い始めた人を止めることはできません。
「独立しようかな」という発想そのものが生まれない会社をつくるのです。
社員が独立する、そこには構造的な問題があります。
根本的にはそこを変えなければなりません。
そして、その答えは「年商10億企業への取組み」の中にあります。
事業モデルを変える。分業し、仕組みにする。
会社を成長させ、新しい仕事と役割をつくり続ける。
年商10億企業への取組みが、そのまま独立対策になるのです。
間違っても、独立されるたびに「最近の社員は」と嘆いてはいけません。
向かうべきは、人ではありません。
独立しやすい構造になっていないか。
独立したくなる会社になっていないか。
人を引き留めるのではありません。「ここにいたほうが得だ」と思える会社をつくるのです。会社を、そこにいる価値のある場所にするのです。
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矢田 祐二
理工系大学卒業後、大手ゼネコンに入社。施工管理として、工程や品質の管理、組織の運営などを専門とする。当時、組織の生産性、プロジェクト管理について研究を開始。 その後、2002年にコンサルタントとして独立し、20年間以上一貫して中小企業の経営や事業構築の支援に携わる。
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