No.113:仕組みとは、人の「怠ける」「忘れる」という本性を前提にした仕掛け
『矢田先生、よく仕組みにするといいますが、具体的に何をどうすればいいか解りません。』
地方ゼネコン社長と部長、セミナーにご参加いただいての相談です。
矢田 「おかしいですね、解らないはずはないのですが?」
社長 『え!!(驚)』
矢田 「御社のゼネコンとしての仕事のやり方のいたるところに、その仕組みがあるはずです。でなければ、今の御社の高収益は有り得ません。」
仕組化のポイントは、人の本来の特性を考えることにあります。この人の本来の特性を『前提』にし、仕組みを張り巡らせます。
人の特性は、大きく以下の3つあります。
①怠ける・・・人は必ず「楽をしたい」と思うものです。その思いがあるからこそ、業務の効率化を考えることもできます。
しかし、その欲求に負けた時に問題が起きます。決められた手順を守らないために、不良品や事故が起きます。
②忘れる・・・いくら意識を高く持っていたとしても、人は必ず何かを忘れるものです。
持っていくものを忘れる、伝えることを忘れる、チェックすることを忘れる、どんな優秀な人でもそれは避けられません。
③流される・・・本当は間違ったことをやっていたとしても、その場の雰囲気や嫌われたくないという思いから、指摘を引っ込めてしまうものです。
だらけた雰囲気、整理整頓が出来ていない、暗い雰囲気、毎日のハードワーク、、、そういう環境では、「まあいいか」が起きやすい。
これが人間の本来の特性、すなわち、本性です。
この本性のまま人が、モノをつくったり、サービスを提供したりすれば、必ず顧客は怒り、たちまちその悪評は拡がり、自社は存続ができなくなります。
この本性を出させないために、出したとしても大きな問題にならないように仕組みを構築します。そして、その仕組みが狙い通りに機能し、人が高い生産性を獲得できる様に管理します。
我々の仕組みづくりや日々行っている管理は、人の本性との戦いと言えます。
下記の定義で考える必要があります。
仕組み=人の本性を出させない仕掛け
マネジメント(管理)=怠け者対策
我々は、人の本性を出させないために仕掛けを張り巡らせ、その仕掛けが適切に機能しているかを確認することを日々しているのです。
矢田は、大学を卒業し、ゼネコンで施工管理に従事していました。その時に、いまのコンサルティングの基となる「仕掛け」を身につけました。
ゼネコンが行う現場管理の前提も、この「人の本性」に対する策と管理を徹底することにあります。
ゼネコンの現場では、工事高が数十億、工期数年の仕事を、10名ほどのゼネコン職員とその地域の協力業者や作業員で完成をさせます。作業員は多い日で200名。
その協力業者や作業員はすべて、その工事のために集められた地元の業者ばかりであり、決してレベルが高いわけではありません。(それどころか、人間らしい本性を強く持った方も多い傾向にあります)そしてその協力業者も作業員は毎日入れ替わります。
そのため、この「仕掛け」をしっかり整備する必要があります。それができていないと、品質が保てないどころか、死人を出すことになりかねません。
下記に仕掛けの考え方を上げます。
・物理的に入れなくする
足場や開口部、崖下、、、危ないところは柵で囲い、無意識に立ち入らせないようにします。
・ラインと看板で明示する
「上を注意!架線有」、「ここでは安全帯を使用せよ!」、「安全通路」、「金属ゴミ」 とすべて見て解るようにします。
これが基本です、「危ないから近寄らないように」と口だけでは、その時は意識しても、作業している時には忘れています、また、なんとか楽をしようとします。
そして、協力業者に対する仕事の依頼も同様に「やらざるを得ない」ようにします。
・動作を強要する
擁壁裏の排水管の敷設を依頼しました、、、埋めてしまえば本当にやったかどうかわかりません。そこで、その敷設完了のすべてを写真に収めてもらいます。
・記録を出してもらう
工事前には必ず作業員全員で打ち合わせをやってください、、、と依頼しても、普段やっていない業者はやりません。そこで、打ち合わせシートにその内容と参加メンバーのサインを記入してもらい、その提出を義務付けます。
このような形で、協力業者や作業員に依頼する時には、必ず「メンドクサイ」という言葉が返ってきます。でも、これで初めて品質と安全が保てます。
彼らの人の本性を出させない仕掛けがしっかり機能しているおかげで、その後100年間その高速道路は多くの人を安全に運ぶことができるのです、また、作業員はその日も無事に家族のもとに帰れるのです。
この人の本性を抑え、人により生産性を上げる、これが、ゼネコンの持つノウハウです。
高速道路、ダム、トンネル、ビル、リニア、、、あの大型構造物を、何十社という外注に依頼し、毎日何百人という作業員を使い、品質、コスト、納期、そして、安全を保ちながら、作り上げるのです。その日本のゼネコンの評価は、世界最高です。
このゼネコンのノウハウにより、その多くは無事完工を迎えるのですが、ごく一部の現場では、この仕掛けが狙い通り機能せず、「現場が崩壊」することがあります。
作業員はヘルメットのあご紐をしていません、朝礼のラジオ体操もダラダラ、現場の資材は乱雑に置かれる、作業終了時の片付けもされていません。そして、その結果として、人身事故が定期的に起きています。
この、その仕掛けの崩壊が起きる原因はただ一つです。
それは、「トップが許した」こと。
どんな現場でも、毎日必ず乱れが生じます。その生じた乱れを、小さいうちに潰していくことを繰り返します、根気比べです。
この根気比べに負け、トップが「これぐらいなら・・」、と許した時にすべてが崩壊します。
これはすべての組織に共通して言えることです、
仕掛けがうまくいくかどうか、定着するかどうか、その後も機能し続けるかどうか、それは、結局は「トップ(社長)の不撤退」の信念にあります。
何かの仕掛けをつくる、マニュアルを制定する、ルールを決める、それがされないときに、「ダメ!しっかりやって!」と言えるかどうかです。できるまで繰り返し言えるかどうかです。
トップが言わなくなった時に、仕掛けは崩壊します。
最後は、トップなのです。
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