No.166:職人社長のリスクは、経営に関する「客観性」を失うこと。成功する経営者が「客観性」を得るために取り入れている最大の手とは!?
A社では、コンサルティングを社長と幹部のお二人で受けられています。
同じレベルで経営についての話ができる社員が自社にいることは、社長にとって大変幸せなことです。
矢田は、次回までの課題を説明させていただきました。
それを聞いて、社長は隣の幹部のほうを向いて言われます。
「この第一案を、つくってもらっていいか?」
その幹部の方もいつもの調子で承諾する気配がありました。
私は、割って入ります。
「これは、社長がおつくりください。」
社長はこの言葉に「これも私ですか?」と返されます。
矢田は答えます。
「はい、これは社長がつくるべきものです。」
『客観性』
社長がこれを失えば、会社が倒産するというモノがあります。
逆に、社長がこれを失わない限り、会社は益々発展することが可能です。
それも、スピードを持ってです。
そのため、世の多くの社長は、これを得るため、そして、保持するために、莫大なお金を投じます。
それが、『客観性』です。
会社が倒産するとき、事業がおかしくなる時、そこでは必ず「客観性」が失われています。客観性を欠いた判断、現実から乖離する方策に、顧客や社員は気付いているのです。でも、その当人である社長は気付かずにいます。
照明が暗い飲食店、色の褪せた壁のポスター、
昔は最新でも、コモディティ化したサービス、
ネット通販に駆逐される店舗型販売。
これらは、すべて客観性を失った結果から起きる事象です。
このような状況に陥らないため、『客観性』を得るために社長は、いくつもの方策をとることになります。
勉強会への参加、読書、展示会や視察。また、同じ経営者仲間や専門家の意見を求めます。
そして、そんな方策の中でも、最も重要で、最も効果が高いものがあります。
それが、『社員を雇う』です。
『社員を雇う』ことが客観性を得るために最も効果的な取組みになります。そして、最も大きな投資となります。
社長は、社員に仕事を依頼するときに、2つのやり方を使い分けることになります。
「自分で素案をつくり、社員に意見を求める(引継ぐ)」
か
「社員に素案の作成を依頼し、それに意見を提供する」
高いクリエイティヴや社長としての哲学が必要なもの、決定が必要なものは社長自身で作成することになります。
その代表的なものは、事業設計書や方針書になります。これらのものは、自身で深く考え、案を作成したうえで、社員に意見を求めます。プラス校正や装飾を依頼します。
それに対し、社内に有るものや定型に近いものの作成は社員に依頼します。時に、自分には無い全く違うものを求める時に優秀な社員に依頼することもします。そのうえで、その社員が作成したものに対し、意見を提供します。
どんな人でも、自分で作った文章の校正は、自分自身では難しいものです。内容が頭に入っており、すでに客観性は失われています。文字の間違いや文章の矛盾などの指摘がほしいのです。
自分ではどう頑張っても客観性が保てないことが解っているからこそ、社長は社員に、社員は社長に、「客観的」な意見を求め、提供し合うのです。
それにより、ブラッシュアップも、精度もスピードも得ることができます。
この状態が、創業当時の社長一人体制ではできませんでした。
また、自分自身が作業にどっぷり浸かっている職人社長でも、客観性は保てなくなります。
職人社長や現場を離れられない社長の「危うさ」は、客観性を保ちようがないところにあります。自分が案件を抱えれば抱えるほど、その客観性は失われていくことになります。その結果、事業の発展は遅れ、成功しそこなうのです。
だからこそ社員を雇用するのです。
そして、その社員を仕組みで動かし、その出来を観るのです。
そして、修正を加えます。それを繰り返し、スピードと発展を得るのです。
舞台で演じる役者が社員です。ピッチで走り回るのが社員です。
社長はあくまでも、監督なのです。
自分が舞台やピッチに立っている限り、客観性は無理なのです。
そして、この社員に依頼する際に重要になるのは、その弁別です。
「社長自身がやるべきもの」と「社員に任せていいもの」の区別が正しくできることが必要です。
「スピーチは自分で作り、社員にチェックをお願いする」、「送り状は社員に作成を依頼し、社長が最終確認する」という具合にです。
これにより、そのスピーチは情熱的で魂のこもったものになり、送り状はビジネスマナーにのっとった正しいものにすることができます。
これが解っていない社長は、スピーチまで社員に作成を丸投げします。また、送り状を自らチェックすることをしません。
その結果、出てきたスピーチ案を見て「つまらない」と怒ったり、送り状の間違いを後日取引先から指摘を受けたりします。
また、サービスの定義や方針書という事業の設計の部分を社員に丸投げする社長も多くいます。
それでは、良いものが出てくるはずもありません。社長の信念もこもっていなければ、それが社長の分身となることもありません。社長自身もそんな借り物で経営ができるはずもありません。当然、競合他社に打ち勝つことも大儲けもできなくなります。
この使い分けです。
この正しい使い分けにより、その企画書は、その客観性により、さらに良くなるのです。
そして、このとき重要となるのは、その時の社長の態度です。
意見を受け入れる態度、忌憚ない意見に対しての礼が社長には必要になります。
「面白い意見だね。」、「なるほどね。」、「よく言ってくれた、ありがとう。」、
これがあるからこそ、社員は絶対君主である社長に対して意見を言ってくれるのです。
また、社員の作成した企画書に対しても、「作成してくれてありがとう。」を伝え、そして、「こういう視点はどうかな?」、「この点も明記をお願いします。」と付け加えることになります。
これにより、社員はこの先も社長の依頼に応えるようになっていきます。
この社長の受け取り方により、社員は社長に対し意見が言えるようになるのです。
この社長の社員への態度により、その「客観性」という関係が保てるのです。
この態度を間違えた時に、この「客観性」は崩れることになります。
社員の意見に対し、怒ったり、興味が無い態度をしたりすれば、たちまち社員は口を閉ざすことになります。
また、「それは違うな!」、「その程度の意見しかないのか。」と言えば、わが身を守るために、社長の依頼を、理由をつけて避けようとします。
その結果が、「裸の王様」状態なのです。
根本には「客観性を得るために社員を雇っている」という認識が必要です。
社員を雇うことで、経営でもっとも重要な「客観性」を得ているのです。
その理解がない社長は、社員の意見に対し「ありがとう。」が言えません。
社長は、「自分がやるべき仕事」か「社員に振るべき仕事か」を正しく弁別する必要があります。
そして、その『態度』を正しく使える必要があるのです。
そして、だからこそ、その依頼先を正しく選ぶことも重要になります。
送り状程度であれば、そこそこの社員でもよいでしょう。
しかし、方針に意見がほしければ、その相手は、人材である必要があります。
その「客観性」を必要とするレベルに応じ、依頼先を選ぶ必要があります。
何かの方針書をそのレベルに達していない社員(まだ能力が不足、経験不足、意欲不足)の相手に求めれば、社長がほしい客観性を得ることはできません。
求める意見が高いのであれば、それだけのマインド、上昇意欲、いままでの経過を理解した相手を選ぶ必要があります。
そのような相手が社内にいれば、社長は非常に幸です。
逆にいなければ、社長は、客観性を得ることはできないことになります。相談する相手が社内にいないのは、つらいものです。
我々は、営業経験の無い人に、販売のやり方の意見を求めたりしません。
ゴルフが下手な人に、スイングのアドバイスを求めたりしません。
その相手を必ず選ぶのです。
その意見を求める相手は、自分と同等か「それ以上」の人になります。
同様であれば「客観性」を得ることはできます。
今以上の発展を狙うのであれば自分より先を行っている人にアドバイスを求めることになります。
自分以下と観ている相手からの意見を、受け入れることもできません。
冒頭のA社には、経営について、社長と近いレベルで意見を提供してくれる幹部がいました。(その方は、創業初期から支えてくれている女性です。)
それは幸せなことです。
そして、私というコンサルタントから、安くない「客観性」と「専門性」をご購入いただいたことに感謝します。
コンサルタントは、客観的な視点とその道のプロとして社長に対し進言することが役目です。
だからこそ「社長が作るべき書類」と「社員に依頼すべき書類」のアドバイスもさせていただきます。
そこを間違えると、魂のこもっていない方針書、運営されないマニュアルができることを分かっているからです。
我々経営者は、「客観性」を得るために、社員を雇っていることを忘れてはいけません。
そして、日々その存在に感謝を表し、最大限その力を発揮してもらえる環境を整えるのです。
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