No.174:経営理念は、有っても無くても、どっちでも良い。組織にとって圧倒的に必要なのは・・・。

コラム№174

「道理で、経営理念つくってもピンとこないはずです。」
 
販促関係サービスF社、第一回目のコンサルティングで、F社長が述べた言葉です。
そして、続けられます。
 
「一生懸命作って、社員に発表しても、彼らもぽかんとしていました。それはそうですよね(笑)。」
 
私は、ご進言させていただきました。
「組織運営上、経営理念はどっちでもよいものです。いま、仕組みのない貴社に必要なのは、事業理念なのです。」


理念という言葉の意味を辞書で確認すると、「ある物事についての、こうあるべきだという根本の考え。」とあります。
       
この言葉に、経営という言葉を組み合わせると「経営理念」という言葉になります。
その意味するところは、「我社の経営は、こうあるべきだという根本の考え」となります。
 
社長は、この経営理念を根本に持って、自分が経営する会社が、どのように社会に貢献するかを決めることになります。
基準や指針となるそれは、事業そのものや、地域や環境、そして、働く人や取引先という、会社が活動するうえで、影響を受ける人たちに向かうものとなります。
「三方良し」や「社員の物心両面の・・・」というものはこれに当たります。
 
 
この経営理念のもとに、「事業理念」をつくることになります。
 
事業理念も、その言葉の通り「我社の事業は、こうあるべきだという根本の考え」となります。
この事業理念は、必ずその事業が貢献すべき対象である「顧客」に向かうことになります。「どういう顧客に、どういうサービスで、どのように貢献するのか」という事業の定義をすることになります。そこには、事業の戦略性や特色が込められることになります。
 
この事業理念を見れば、その会社がどのように貢献するのか、がすぐに解るのです。その事業理念を見れば、そこで働く人は、自分たちの存在理由を強く感じることができます。そして、どこに向けてサービスやその仕組みを作り上げていけばよいのか、が解ります。自分たちがどう振舞えばよいかも解ります。
 
 
経営理念には、「社員の幸せ」を含むことができます。しかし、事業理念には、「社員の幸せ」を含んではいけません。
経営理念は「社長」のもの、事業理念は「構成員(社員)」のものだからです。
 
前回のコラムでも書きましたが、組織というものは、「ひとつの目的」に向けて最適化されることになります。「ひとつの目的」に向けて、そのシステムと判断機能という仕組みをつくりあげられていきます。
 
事業理念が、そこで働く人への「指示」となります。
この事業や自分たちは、どうあるべきか、そして、何をして、何をしないのかも教えてくれます。
この事業理念を掲げることこそが、社長としての事業を起こし、組織化を進めるための第一歩となります。この事業理念により、社員を募集し、協力を仰ぐことになります。
 
この事業理念が、「無い」という状態や掲げない状態では、組織としての力を発揮できないことにつながります。社員はぼやけた目的の中にいます。応募してきた人も、なんとなくの人ばかりとなります。
 
また、事業理念が、一つの組織に「複数ある」ということもいけません。もし、複数の事業を行うのであれば、別組織にする必要があります。
経営理念は、経営の理念なので、会社に一つになります。
それに対して、事業理念は、事業の数だけあることになります。
 
今現在、製造業をやっており、別事業としてホテル事業を立ち上げるのであれば、当然別の事業理念が必要になります。その事業の戦略や奉仕する顧客は違うからです。
 
そして、それぞれに、この先、自分たちのつくり上げる仕組みや取るべき態度は全く違うわけですから、別組織になります。
これを、同じ組織で行うことは、組織が本来持つ力を大きく削ることになります。
 
多くの中小企業では、複数の事業を行っている会社があります。
例えば、建設会社では、「注文住宅」、「リフォーム」、「土木」、、、これらは、それぞれ別の「顧客」となるため、別の事業理念が必要となります。そして、別の組織で行う必要があるのです。
 
 
下記に回転寿司チェーンの大手3社の「理念」を挙げます。
社是、企業理念など、呼び名はまちまちですが、最も大きく掲げているものを取り上げます。
 
A社:お客様の喜びが私たちの喜びです。
 
B社:食の戦前回帰
 
C社:うまいすしを、腹一杯。うまいすしで、心も一杯。
 
どれがよく、どれが悪いというものは当然ありません。
ここではあくまでも、組織を動かすための理念の機能という軸で見ています。
 
社員になった気持ちで、ぜひ見てみてください。
どれが一番強く自分たちならではの存在意義を感じることができるでしょうか。
自分たちが、仕組みやサービスをつくるために、どれが指針となりえるでしょうか。
 
C社のものは、これを読めば、以下のものが読み取れます。
「すし」という事業領域、「安い」という価格帯や「沢山」というチェーン展開、心をも満たすために必要な「楽しい、気持ちがいい、明るい、清潔」という基準。
これなら、十二分に、組織にとっての目指すべき目的、仕組みを最適化する方向性という効用を得ることができます。


この経営理念と事業理念の使い分けが必要です。
それぞれの理念の「主体」は誰なのか?
そして、それの向かうべき相手は誰なのか?
それが、全く違うのです。
 
経営理念の主体は、「社長」です。
その目は、「世の中」に向かっています。
世の中には、社会、地域、環境、社員、取引先を含みます。
だから、その表現は、どこの企業も似たようなものになります。
そして、すこし「宗教っぽく」なります。
それは、人間や人間社会としての原理原則がやはり存在するからです。
 
それに対し、事業理念の主体は、「組織」になります。
そこに参加する社員はもちろんのこと、社長も、アルバイトや派遣スタッフも協力業者も含まれます。
彼ら全員の目は、「ある一人」に向かっています。
その「ある一人」とは、「顧客」となります。
自社の特異なサービスを本当に必要としてくれるお客様です。
その「ある一人」のために、すべてを捧げるのです。すべてを作り上げるのです。
その結果、「他の人」を断ることになることは仕方が無いことなのです。
彼らの目は、燃えています。その目には、プロフェッショナルとしてのプライドが宿っています。
お客様の満足なしには、自分たちの幸せがないことは承知のことです。
 
 
経営理念は、社長のやる気を起こします。
事業理念は、社員のやる気を起こします。
 
組織や社員を、動かすのに必要なのは、事業理念なのです。
 
冒頭のF社長は、長い間経営理念づくりに悩んでいました。
経営者団体に参加し「経営理念が必要である」と教わり作ったものの、自分の腹には落ちずにいました。
それでも、社員の前で発表するも、自分にも落ちてないものが社員に響くはずもなく・・・という状態でした。
 
そんなF社長にご進言させて頂きました。
 
「経営理念は、社長が経営の決断をされるときに、その真価を発揮します。それまで、そのまま寝かしてはいかがですか?」
 
そして、経営理念と事業理念の違いとその用途をご説明させて頂きました。
そのうえで、事業理念の作成を先に進めることとなりました。
 
 
何をするべきか、何をしてはいけないのか、
理念とは、取捨選択を迫るものです。
 
事業理念とは、その「組織」に対し、取捨選択を迫ります。
何かで大きく貢献するためには、その他多くのものは捨てなければなりません。
社長としての決定を、事業理念という使命として、組織に与えます。
 
経営理念は、「社長」に対し、取捨選択を迫ります。
経営では、社長という一人の人間として、何かを選ぶこと、そして、その他多くのものを捨てることを選ばなければなりません。
 
経営理念は、社長として「何を捨てるべきか」を決める際の助けとなってくれます。

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