No.175:顧客を感動させろ!お客様の期待を超えろ!必要無し!?そこそこでいいのです、そこそこでないと困るのです。

コラム№175

「矢田先生、これを見てください。当社の理念なのですが、つくりかえました。」
 
工業系商社S社長の言葉です。
 
矢田は気づきました、そこには、以前有った文字がありません。
 
S社長は言われます。
「実は、今回、長年使ってきた「感動」という文字を無くしました。お客様に感動の提供を謳っていました。今は、感動レベルのサービスを提供しなくても、儲かることが良くわかりました。」
 
その言葉の通り、今期も前年対比130%の伸びで推移しています。


サービスには、「品質」があります。
製造業に品質があるように、サービス業にも品質があります。
その品質は、「基準」と「バラツキ」によって決定されます。
 
まずは、サービスの水準の高さを決める必要があります。
なんでもかんでも、「お客様の喜ぶこと」や「お客様の求めること」をすればいいわけではありません。
自社のサービスは誰のどんな欲求に奉仕するものなのか、そのためにどんなサービスを行うのか、それを設計し、その狙う水準通りに提供することが必要になります。
 
ホテルでいえば、ヒルトンホテルもスーパーホテルもどちらも素晴らしいホテルです。
また、自動車でいえば、クラウンもカローラもどちらも素晴らしい車です。
そこでは狙った通りの水準のサービスが提供されています。
 
そして、そのバラツキも抑えられています。
どこの地域のヒルトンでもスーパーホテルでも、期待した通りのサービスを受けることができます。そして、一年後に同じホテルに泊まっても、また同じように満足することができます。
クラウンもカローラも、素晴らしい安定感を持っています。
 
これらの状態を「品質が高い」と言います。
サービスとして安定している、どのスタッフも同じ対応、提供されるものもいつも同じ。
サービスの基準を決めて、その決めた通りに提供する、ここにこそ品質があります。
 
製造業では当たり前のこの考え方を、同じようにサービス業でも考える必要があります。
製造業では、その品質を寸法や写真などで、表すことができます。
それに対し、サービス業では、それを表すのに工夫が必要となります。
サービス業のやっかいなところは、その基準を表し難いところにあります。
 
しかし、だからと言って、その作業を後回しにすれば、たちまち問題やクレームが発生することになります。品質が表し難いだけに、個々のスタッフの持つサービスのイメージやその水準には、大きな開きがあります。それぞれが別々の環境で育ち、異なる経験をしてきたわけですから、絶対に自然と一致することはありません。
 
そして、そのサービスの水準を表し、スタッフに伝え、訓練する必要があります。
実際にやっているのを確認し、修正を加える必要があります。また、基本を教えた後も、経験を積ませ、応用できるように育てる必要があります。
それにより初めて狙った水準のサービスができるようになります。
 
製造業でも、製品の品質は高くても、「電話応対が遅い」、「配送の運転手が不愛想」、「来社した方に挨拶をしない」など、初歩的なサービスの品質を満たしていない会社は多くあります。
 
 
サービスの水準を設計し、その通りに提供する、これが事業なのです。
そして、宣伝広告による集客と営業を進めることになります。
お客様に対し、「当社はこういうことを、させていただく」と発信をします。そして、「だから〇円ください」とはっきり価格を提示します。
 
お客様は、そのサービスから得られるモノと価格の釣り合いを考え、購入を決定します。
このお客様が購入の前に持つ「事前期待」を適正に築く必要があります。
顧客満足というものは、この事前期待との関係で形成されることになります。
 
事前期待を大きく上回れば、お客様の評価は「感動」となります。大きく下回れば、「不満」や「クレーム」となります。
事前期待と同じであれば、「満足」となります。
 
この事前期待を形成するために、カタログや提案書というものが必要になります。
特にサービス型事業では、この「事前期待をお客様に適正に築く」ことが重要になります。
商社、設備設計、施工、メーカー、販促物制作、、多くの会社では、この取組みが絶対に必要になります。しかし、多くの企業では、この取組みを後回しにします。その結果、「付き合って初めて、良さがわかる」という状態や、「顧客がサービスではなく、人に付いている」状態になっています。


ここで、ご質問です。
「最近受けたサービスで、感動したことがありますか?」
 
私は、二つあります。
 
一つ目は、熱海の温泉宿。そこの庭の素敵さ、料理のおいしさ、そして、接客サービス。目に入るすべてが良いもので、すべての時間が贅沢でした。
 
そして、二つ目は、大手牛丼チェーンで受けた接客です。
そこの20歳前後の女性スタッフの感じの良いこと。スマイル、お茶を置く所作にホスピタリティを感じます。どうしてこんな店に・・・(失礼)と思いました。
 
最近受けたサービスで、感動したことはこの二つです。正確には二つしか、覚えていません。
 
先の温泉宿のサービスは、完全に品質が設計されています。
当然ですが、高級店では、そのサービスの水準を高いところに持ってきます。
そして、それに合わせ、まずは、「設備」を作っていきます。門構え、照明、風呂、これらの設備は、導入すればいつでも狙い通りの効果を発揮してくれます。
そこには、バラツキもありません。
 
そして、料理のメニューや接客の方法という部分を設計していきます。
その水準の料理や接客を、スタッフがその通りにできるように訓練をしていきます。
採用の基準も厳しくしています。そして、その後もその品質を保つために、管理し続けます。そのため、大きく、スピードをもって展開することは難しくなります。
 
 
それに対し、後者の大手牛丼チェーンも同様に設計をし、その通りに提供をしています。
やはり品質を保ち、バラツキを抑えるために、設備を導入します。メニューを絞り、工場で大方の加工は済ませ、各店舗では「料理」ではなく「調理」で食事が提供できるようにしています。それにより、味のバラツキも抑えることができます。
 
接客も最低限の水準で設計します。「いらっしゃいませ。」と「ありがとうございました。」。レジも自動券売機を導入することで、効率化を進め、ミスもなくなります。人が関与するところに、バラツキが発生します。できる限り、人の判断や気遣いでサービスが生産される部分を排除したいのです。
 
これにより、より多くの人(能力、雇用体系)を活用できるようになります。訓練期間も短くできます。ビジネスを大きく早く展開することができます。
 
ビジネスという視点で見た時には、私が受けた「感じの良い女性スタッフの接客」という要素は、「あればいい」ぐらいのものです。売上げには大きく貢献することはありません。
その店の、その時間帯のリピーターを少し増やすことはできるかもしれませんが。
 
私たちは、大手牛丼チェーンの店で、スタッフにホスピタリティを期待していません。だから安いのです。
たとえ粗悪な接客を受けたとしても、「感じの悪いアルバイト」や「価格並みのサービス」というぐらいにしか受け止めません。
そして、そんなことはすぐに忘れ、またその店を利用します。
 
 
先の高級温泉宿では、ホスピタリティな接客は絶対に必要になります。もし、不愛想や低度の振る舞いがあれば、それは、そのまま不満足になります。そして、そのことをお客様は、いつまでも覚えています。そして、その温泉宿を二度と使うことはありません。
 
 
お客様に「何」を提供するのか、
そして、その対価として、どれほどの「お金」を頂戴するのか、
それを設計するのです。
その設計したものを事前期待として、宣伝広告や営業により、お客様の中に正しく形成することが必要です。
 
当然、その事前期待が、提供するものより高すぎてはいけません。それでは、そのままお客様の不満足になります。
また、低すぎてもいけません。それでは、提示した価格に納得が得られなくなります。安すぎる値決めとなります。
 
事前期待も、その後の顧客満足度も、高すぎても低すぎてもいけないのです。
設計した通りに提供し、その範囲の中で顧客を満足させるのです。
顧客満足を大量生産するのです。
 
お客様もそれを望んでいます。約束したことを、その通りに提供してほしい。
実際に私たちが普段利用するホテルや飲食店、仕入先や外注業者に求めるものは確実な約束の履行です。
約束したものを、その通り提供してくれることの繰り返しこそが、顧客満足であり、信頼なのです。
 
そこそこの満足を提供する。
これが、年商10億ビジネスの考え方です。
そうでなければ、展開できなくなります。
 
世の10億企業や大手は、そこそこの満足を売っています。
極たまにある「感動」を売っている企業は、高価格で一か所です。そこでも、ガチガチの仕組みを築いています。
 
自社が提供するモノに、狙った以上の感動も満足もあってはいけません。


このような言葉を、経営理念や社是に織り込んでいる会社があります。
 
「顧客を感動させろ!」
「お客様の期待を超えろ!」
 
これは、「事業」という視点とは、かけ離れた考え方となります。
それどころか、年商10億を目指すのであれば、真逆に向かうことになります。
 
これは、正しく表現する必要があります。
「顧客を狙い通りに感動させろ!」
「お客様の期待を、設計通り超えろ!」となります。
 
何も、「社員に、お客様のためなら何でもやってよい。」と言っているわけではないのです。それこそ、サービスの品質を壊すことになります。その結果、お客様の事前期待は高まり、担当が変わると不満足になります。
 
 
もし「感動」という言葉を「社員を奮い立たせる」という目的で使用するとしても、上手に使う必要があります。
 
この言葉を聞くと、社員は「良い接客をしよう」、「お客様への対応を良くしよう」と、サービスを「人と人の接点」で考えてしまいます。
我々が目指すのは、あくまでも「仕組みによるサービス」です。
 
そして、管理職者までこの発想になります。
管理職者の仕事は、仕組みの整備です。正確に表現すれば、「人の生むバラツキの排除」のための仕組みの整備となります。
この仕組化に取り組むべき管理職者の思考が、社員同様に「接客レベルの向上」や「社員のモチベーションアップ」に向かう状態ではまずいのです。
 
その結果、管理職者から上がってくる提案は、「教育」や「理念の唱和」というものになります。
 
 
年商10億ビジネスでは、社員の気遣いや情熱を当てにしてはいけません。
それがなければ儲からないビジネスモデルなら、ダメなのです。
 
年商10億組織には、社員の感動も熱意も必要ありません。
そこには、「決めたことをしっかりやらせる仕組み」、そして、「社員をより難しい仕事に向かわせる仕組み」があります。

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