No.206:父と子、トップと№2の不仲、その解決策はこれしかありません。それが得られれば、事業承継も複数の会社の経営も可能になります。

コラム№206

この日も目の前で言い争いが始まりました。
「矢田先生、これ以上コンサルティングを進めても無駄です。今日は止めさせてください。」
社長からの言葉です。
 
その隣に座る息子である専務が声を荒立てます。
「そうやってすぐ逃げる。こんなことで止めていたら、何も進みません。矢田先生、続きをお願いします。」
 
矢田は、お二人の顔を確認し、お答えしました。
「はい、進めさせていただきます。」


なぜ事業承継が上手くされないのか?
その理由は明確です。
事業承継するだけの仕組みが無いからです。
「事業の仕組み」、「内部の仕組み」、「組織の仕組み」、そして、「経営の仕組み」。
これらのものが揃って初めて、事業を継承することができます。
 
第一に確認すべきものが、「事業の仕組み」です。
事業にクリエイティヴが残っており、社長や一部の優秀な社員しかできない業務があると、当然その事業を誰かに引き継ぐことは無理となります。また、特色が無いために、社長の人間関係で仕事を取っている状態もいけません。
引き継ぎ、その人が抜けた瞬間から会社は操業ストップに陥ります。
まずは、事業の変革が必要になります。財産は、「既存の取引先」だけです。身内に引き継いだとしても、苦労するのは目に見えています。また、このような会社は、M&Aの対象にも成り得ません。
 
そして、「内部の仕組み」です。
内部の仕組みができた会社では、社長が替わっても、そう簡単に崩れることはありません。今まで通り集客や販売が仕組みで行われています。そして、その案件も仕組みでこなされています。そのため、すぐには「何も」変わりません。
2、3年、新社長が何もしなくても問題は発生しないのです。
この状態で引き継いだ後継者は、その間に、会社の現状がどんなものか理解することができます。経営者として、社長という役割が感覚的に解ってきます。大変ありがたいことです。
 
しかし、それでも時間が経てば、次の問題が見えてきます。
組織が出来ていません。そのため、やっていることの発展がありません。
管理者が、一般社員に混ざって作業をしています。課題が打ち上げられるばかりで、提案がありません。社員は、坦々と日々同じ作業を繰り返すばかりで、自主性はありません。そのため、仕組みの改善がされないのです。
 
組織とは、「時間」を担うものです。仕組みとは、その「瞬間」のものです。その仕組みが、いずれ時代遅れになります。環境とそぐわなくなります。その結果、機能不全を起こします。それに対抗するものが組織なのです。
 
組織ができていない会社を引き継いだ社長は、その後に苦労することになります。
時間軸への対抗も仕組みなのです。その時期になったら改善する、問題が発見され解決する、そして、マニュアル化させる。その後は、関係部門に展開される。人を採用し、先輩が後輩を指導し戦力化する。その過程で次の管理者が育つ。
すべてが仕組みです。
これにより、仕組みの新陳代謝がされます。人も新陳代謝が進みます。
それにより、適正な「鮮度」が保たれるのです。
 
そして、「経営の仕組み」も必要になります。
会社とは、「考え方」の集合体です。
どのような人に対し、どのように貢献するのか、どういう方向性で動いてほしいのか、どういう基準で判断してほしいのか、どのように仕組みを変えていってほしいのか、これらのすべてが考え方です。
建物、事務机、ホームページ、登記簿など、目で見えるものは会社の極一部でしかありません。会社の目的、考え方、約束事、歴史などは目では見えないのです。それらは非常に重要なものです。
それらの考え方こそが会社であり、会社のすべてです。それこそが、経営の軸となります。それらを残すこと、それらを記すこと、それらを伝えること、それらを徹底すること。それを支えるものが経営の仕組みです。
この経営の仕組みが有って初めて、本当の意味での承継が可能になります。


後継者候補に対し、渡したいものが何かを、見せて説明することができます。
その人は、それを初めて知ることができます。そして、自分が何を引き継ぎたいのか、何に対し責任を負うのか、自分と自分の人生に問うことができます。
 
引き継いだ後に、その者は、先代の想いを本当の意味で理解することになります。その想いや考え方を、これから自分が経験することと比べ、納得を深めることになります。その時その時の判断の指針にすることができます。そして、時代、規模、自分と対峙させ、残すものを残し、必要なように作り変えることができます。
 
 
本当の意味で事業承継するためには、経営の仕組みが必要になります。
その仕組みの軸となるものが、事業指針書です。
(世の経営計画書のイメージとは大きく異なるため、当社では、このように呼称しております。)
 
そこには、どんな事業をつくるのか、その事業でどんな世界をつくるのかが書かれています。集客、販売、製造、調達など、それぞれについての方針が書かれています。各部門の機能も示されています。
その事業指針書は、毎期書き換えられ、成長していきます。多くの経験により、組織が成長すると同期して事業指針書も成長していきます。
 
そして、ある日、その事業指針書は、次の社長に手渡されます。
そして、何十年後にも、次の社長に手渡されます。
事業指針書こそが、時代を繋ぐのです。望めば、複数の会社を経営することも可能になります。


目標がない時に、会社は停滞します。
大きな目標、発展する目標が無いと、それは、「現状維持」を意味します。そして、「現状維持」は、衰退の始まりを意味します。
 
目標が2つあるときに、その勢いは分散します。
どんな評判で一番になりたいのか。それを一本にする必要があります。
プロのサッカー選手になりたい、そして、テニスでもプロになりたい。二兎を追う者は一兎をも得ず。
 
そして、頭が二つあるときに、その組織は混乱します。
ひどいと、分裂します。
№1と№2の意見が分かれる。社員は、それぞれから異なる指示を受けます。
どちらの指示に従えばよいのか解らなくなります。
または、№1派と№2派のように、組織が2分されることになります。
組織にとって、その頭が二つあるときに、最も悪い状態になります。
 
そして、その時には、組織は内部政治の温床と化します。派閥が生まれます。
または、誰もが口を閉ざすようになります。無難な意見しか出ません。
そして、その裏でお客様は犠牲になります。お客様よりも、社内に興味が移るのです。その間に、ライバルに追い抜かれ、段々と顧客が離れていきます。
 
冒頭の会社では、社長と息子である専務という二頭体制が出来上がっていました。
一つの事案に対し、それぞれが指示を出すために、組織は混乱をします。
そして、ひどい時には会議の場で、「喧嘩」が始まりました。多くの社員は口を閉ざしていました。
 
そんな中でのコンサルティングのご依頼でした。毎回コンサルティングでは、意見の相違があり、喧嘩が起こります。
その喧嘩も、半年が過ぎる頃には、無くなりました。
そして、それに合わせ、社内も落ち着きだしました。停滞していた業績も上がりだしました。社員からも改善案がでます。
 
そして、その半年後に、社長は、事業を専務に譲ることにしました。
取引先には、二人で社長交代の挨拶に行きます。その場で、社長は言われます。「厳しくご指導ください。」と頭を下げます。嬉しそうです。
 
 
№1と№2の間にあるのは、意見の相違ではありません。
相性の問題でもありません。
そこにあるのは、向かう先の相違です。目指すところが違うのです。
 
方やサッカーをやりたいと言っており、もう一方はテニスがやりたいと言っています。
方や、マラソンで自己新記録を目指しています。もう一方は、健康のために走っています。
 
目指すところが異なれば、相違する意見に落ち着くところはありません。お互いに理解は進まず、お互いが異質になります。
目指すところが一緒なら、相違する意見はどこかに落ち着きます。相違する意見は、練るための良い議論となります。
 
社長と専務である息子の目指すところは、違っていました。
その目指す規模もスピードも違います。また、自社の事業定義でさえも違いました。
 
それを一つひとつ文字にして、意見を交わしました。
そして、一つひとつについての方針書も作りました。広告に関する方針、在庫に関する方針、外注化に関する方針。
 
これは、非常に根気のいる作業となりました。毎週、曜日と時間を決め、社長と専務は、それを積み上げました。
 
社長は言われます。「彼が良く考えていることが良く解りました。私も年を取ったようで、設備投資などでも守りに入っていました。10年後、20年後に責任を持てる人間が経営をするべきです。」と社長交代の宣言をされました。
 
そして、専務
「社長の考え方をしっかり知ることができました。今までの人生で、親父とこんなにしっかり話すことは一度もありませんでした。本当に良い機会を頂きました。私は、親父を尊敬しております。」
 
社長と専務の目指すところが、一緒になりました。
そして、その書面を持って、管理者や社員に説明をしました。
管理者や社員は、初めて「この会社が何を目指しているのか」を理解することが出来ました。その目指すものに、納得することができました。また、安心と希望を持つことができました。
 
経営者と組織の向かう先も、一緒になりました。
この向かう先が一緒になると、組織はすごい力を発揮します。
向かう先を得ることができないと、組織が力を発揮することは絶対にありません。日々淡々と昨日と同じ作業を繰り返すだけになります。そこでは、当然「時間」への対抗という機能は発生しないのです。
 
 
№1と№2の向かう先を揃えること。
そして、№1と組織の向かう先を揃えること。
それが、組織の力を最大化します。そして、そこにこそ闊達さと規律が生まれます。
 
それを、実現するのが、経営の仕組みの一部である「事業指針書」です。
 
それは、会社における「しおり」です。
 
修学旅行には、しおりがあります。しおりには、その旅行の目的が書かれています。そして、それを達成するための、約束事やスケジュール、役割分担などが書かれています。
 
それにより、教師と生徒、そして、親は、同じ認識で準備と行動をすることができます。旅行中も、その組織に、闊達さと規律を与えます。そして、狙い通りの効果を発揮し、生徒は学びます。安全に旅程を終えることができます。
そして、そのしおりは、来年の先生に引き継がれます。そのしおりには、その年の事案から得た知恵が残されています。
 
教師も生徒も入れ替わりますが、その知恵は、しおりという仕組みで引き継がれていくのです。
 
会社において、そのしおりの役目をするのが、事業指針書です。会社は、事業指針書を持つことにより、知恵をその後に残すことができます。
組織に闊達さと規律を与えることとができます。事業指針書に当たるものを持たない限り、真っ当な組織運営も、その本来の力の発揮も有り得ません。ましてや、知恵の承継など出来ようがないのです。
 
厳しいことを言えば、修学旅行以下の会社が多すぎるのです。
もし、しおりを配らない教師がいれば、それは怠慢です。旅程では、何かしらの問題が必ず起きます。その時、社会的な責任を取らされることになります。
同様に、事業指針書を作らない社長も、責められて当然です。人の人生を預かる身です。
 
修学旅行にしおりというツールが有る様に、我々には、事業指針書というツールが必要です。それは、指揮棒の役目を果たし、タスキの役目を担います。
そして、それは組織だけではなく社長自身にも、闊達さと規律を与えることになります。

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