No.369:大きな目標はあるが、具体策がない社長に欠けるものとは?
建設業H社長は、怒っていました。
「彼らは、会議で積極的に発言しないのです。そのくせ、意見を求めると文句ばかり出してきます。」
会議とは、社長と4名の幹部で行っている月例会議のことです。
そして、H社長は、言いました。
「次回から、私はその会議に出ることをやめました。彼ら幹部が中心となって、回してくれればよいと伝えました。」
これが、H社長が考えた「彼ら幹部を育てるための策」です。
私は、これから起きることを説明しました。
「その会議では、彼らを育てることも自覚を持たせることも無理でしょう。そして、3回もやれば自然消滅することでしょう。」
行動分解が必要です。
行動分解とは「一つの目標を達成するために、行動レベルの目標にまで分解すること」を意味します。通常一つの目標に対し、数度の行動分解が行われ、今日の行動レベルの目標に落とされることになります。
例えば、「今月、1社新規開拓をする。」という目標があったとします。
これを実現するためには、「最低でも面談を5件する」必要があります。その数の面談をするためには、「アポ電話を20件する」必要があります。
その結果、今週の目標が「アポ電話を20件する」となります。
会社組織と言うものは、この「行動分解」により成り立っていると言えます。
「5年後に年商10億にする」という会社としての大きな目標に対し、「客単価を1千万にする」や「その時にはエンジニアが20名必要」という分解された目標ができます。
そして、それを実現するために「展示会で新規顧客を開拓する」、「採用専用のホームページを作成する」と分解を繰り返します。
この分解された目標を、営業部や管理部という部署に依頼します。明日から動いてくれという依頼をするのです。
その結果、「展示会の企画書の打ち合わせ」や「採用専用のホームページのコンテンツ作成」という今日の行動目標に繋がるのです。
行動分解ができているからこそ『今期の目標設定』ができるのです。
そして、行動分解ができるからこそ『今期の計画作成』ができるのです。
それにより、各部に依頼することができます。
そして、進捗を確認し、明日以降の行動目標の設定ができるのです。
会社の大きな目標は、行動分解により、今日の管理者や社員の動きになるのです。結果、日々前進することになり、確実に、社長の構想は、実現化することになります。会社組織においては、行動分解こそがすべてなのです。
そして、ここにこそ、人材育成の仕組みが存在することになります。
営業の課長に、「展示会の企画」を依頼します。若手社員には、「当日の運営マニュアルの作成」を依頼します。
管理部の中堅社員に、「採用専用ホームページの依頼先の選定」を依頼します。また、「来週、コンテンツの打ち合わせ」を提案します。
目標設定し行動計画(小さな行動目標の設定)を作成し、実際に動く。
その過程で、管理者や社員は考える、文章を作成する、議論する、人を巻き込む、などを行うことになります。その行為こそが、その人を育てることになります。
この行動分解を、その業務が未経験の社員では、できません。
展示会で成果を出すために、何から手を付ければよいのか、想像もできません。だから、「企画書の作成」を依頼し、「打ち合わせをしよう」と提案するのです。
若手社員は、どうしたら「人の採用」ができるかも解りません。
それを理解させるために、「採用業務のフロー図」で説明します。そして、次の行動を明確にします。そして、「その結果の報告」も依頼します。
一度経験することで、次回からは自分一人で出来るようになります。また、仕事の進め方の基本を身に付けることができます。
その行動分解を手伝うことこそが、上司の役目になります。
本人に目標を与える。そして、一緒に行動分解をする。そして、行動をさせる。
それにより、その本人は、目標達成のために、自分で行動分解ができるようになるのです。そして、自分が上司になった時に、行動分解で部下を指導するようになるのです。
人を育てるためには、会社全体として行動分解ができている必要があります。
この行動分解が、組織として出来ていない会社は、多くあります。
そんな会社では、すべての目標がスローガンと化しています。
「5年後に、年商10億円にする」と、あっても、そのための方針も目標もありません。どのような顧客やサービスをメインとするのか、単価はいくらか、新規開拓やリピート対策はどうするのか。具体性が無いのです。
他には、「お客様に必要とされる会社になる」や「社員が活き活き働ける会社にする」というものもあります。ここにも、具体策は一切書かれていません。
大きな目標からの一つ目の行動分解が出来ていないのです。そのため、それが各部署の行動目標にまで落ちていかないのです。その結果、管理者も社員も、昨日と同じ作業をこなすことになります。
その状態に、社長までが陥っているケースは少なくありません。社長自身も行動分解できていないのです。年商10億に進むために今月は何をするのか、その行動レベルの目標を持っていないのです。
その結果、社長自身も、昨日と同じ今日を送ることになっています。今月も、それに向かって何一つ進まないことになります。
冒頭のH社長も、その典型でした。
経営計画書を拝見すると、行動目標が一切ありません。「施工管理の技術を高める」、「ゼネコンから信頼される体制をつくる」、「新工法を導入する」、など。
これらには、それを実現するための具体的な方針や目標がありません。そのため、すべてが「スローガン」になっているのです。
スローガンですから、当然、各部署が動くことはありません。誰も何をすればよいのかが、解らないのです。これでは、管理者が機能するはずが無いのです。
そして、組織ができるはずも無いのです。
この状態で、開催される月例会議です。その会議の生産性は低くて当たり前となります。
会議とは、本来「進捗を管理するため」のものです。
一年間の計画があり、その月の実績を確認し、翌月の行動を明確にします。必要であれば、方針を修正し、新たな行動目標を設定します。そして、翌月の会議の日時を確認し、終了となります。各自は、その後、実行実現に取り組むことになります。
会議の開催を繰り返すことで、一年後に目標を達成することができます。
一年後の目標もなければ、行動計画もないH社には、会議など全く無用なものなのです。やったとしても、まともな会議が開催できるはずがないのです。
案の定、H社の会議は、「不毛」なものとなっていました。
会議の冒頭の社長が挨拶をします。「皆さんの活発な議論をお願いします。」
そして、「案件」の状況確認が始まります。そして、税理士からの試算表が配られます。これに対して、社長がコメントします。そして、思い付きのような方針が発表されます。ここでも、そのための具体的な行動が確認されません。
会議の多くの時間をH社長が話をしていました。4名いる幹部は、殆ど発言をしません。H社長は、彼らに意見を求めました。その結果出てきたのは、「社員の教育ができていない」や「外注業者が足りません」という、「問題提起」ばかりだったのです。
彼らの態度に、H社長は腹を立てました。その発言は、「幹部としての自覚が無い」と映ったのでした。
「来月から、私は、この会議に参加しない。君たちで運営しろ。そして、決まったことを報告してくれ。」
そんな会議は、当然成立することはありません。
会議とはそもそも目標があって初めて成り立つものです。彼らには、その目標を設定することなど出来るはずもありません。そんな権限も、当然持っていないのです。
そして、それ以上に、そんな能力はありません。目標から行動目標への落とし込みなど、やったことは無いのです。行動計画書も作ったことはありません。そんなものが必要だとも、微塵も思っていないのです。
それは、当然です。H社長自身にも無いのです。
行動分解ができていないのです。行動分解ができない上司の下で、行動分解のできる部下が育つはずはありません。
上はスローガンを唱え、下は毎日のルーチンをこなす。
こうなって当然なのです。この状況で、幹部として育つはずがないのです。
私がここまでを説明すると、H社長は、大きく肩を落とします。
「先生、また私は間違いを犯してしまいました。」
そして、ゆっくり顔を上げ、言われます。
「先生、私は何をやればよいのですか?」
H社は、最初のステップの事業モデルの変革の途中にあります。
私は、お答えします。
「いまやるべきことは明確です。それを、やるだけです。」
H社長は、姿勢を正し、張りのある声で「はい!」と答えたのでした。
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