No.403:社員から給与の増額交渉があった。それに対してT社長がとった行動とは?
住宅関連サービスを展開するT社長から、コンサルティングの場で、次のことを相談されました。
「先生、社員より、給与を上げて欲しい、という申し出がありました。」
その社員とは、幹部であり、実質のナンバー2とのことです。
営業成績は断トツに良く、多くの案件を抱えています。
私は、お尋ねました。
「いかがされるつもりですか?」
T社長は、答えました。
「悔しいですが、条件を飲むしかありません。いま彼に抜けられてもらっては・・・」
本当に悔しそうなT社長です。条件を飲まざるを得ない状況もそうですが、幹部に裏切られたという思いもあります。
私は、T社長にそのA氏の「今の給与額」を尋ねました。
その額を聞くと、決して少ない金額ではありません。それどころか、T社の規模からすると、あげ過ぎなのではと思えるほどの額です。
T社長もそれには気づいていました。
「はい、今となっては、彼がただの良く出来た営業担当であることが解ります。」
この半年、T社長は、内部の仕組化に取り組んできました。仕組化の進捗は遅いものの、その考え方は十分身に付いて来ています。その中で「社員」の見方も変わってきていたのです。
依然のT社長から観ると、A氏は、「自分の替わりに多くをやってくれる右腕」でした。その分の給与額を支払っていました。
しかし、今のT社長から観ると、ただの「良く出来た社員」なのです。部下の管理や仕組みの改善をしている訳でもありません。今の給与額では、「払いすぎ」という思いを持ちます。
この状態での「給与増額の交渉」です。到底、飲めるはずがありません。
しかし、これが「仕組化が出来ていない会社の弱さ」です。
今、A氏に辞められると、忽ち案件が回らなくなります。また、受注件数が急激に落ちることは目に見えています。今も、A氏がトップ営業マンである状態は変わっていないのです。
そして、ちょうど社員の退職が続き、人手不足になっていました。(このタイミングを見こしての交渉とは、思いたくないのですが。)
その結果、落ち着いた月給は、「80万円」です。(驚)
その金額を口にした時のT社長の表情が、すべてを物語っています。
私は、一言だけお伝えました。「早く、仕組化を進めましょう。」
T社長は、「はい」と答えました。
交渉前と交渉後では、経営者からの「その相手である社員への心情」は、当然変わることになります。(「こちらの給与が安すぎた」という反省はあったとしても。)
以前のような、心からの信用はありません。「また退職をチラつかせて、給与の交渉に来るのではないか」、そして、「何かあれば、すぐに逃げそう、当てには出来ない」という気持ちは残るのです。
次のそれが有る時までに、頑張って仕組みをつくるしかありません。
表現は悪いかもしれませんが、A氏の首を切れる状態にするまでの時間を稼ぐための「条件の承諾」であり、「費用」なのです。
あれから、1年が経とうとする初夏。
その日のコンサルティングで、T社長はA氏について話題にしました。
「先生、いよいよ準備が出来ました。いいでしょうか?」
私もA氏についての件を、考えていました。
T社の仕組化は進みました。
それにより、並みの営業担当者でも受注ができるようになっています。また、案件の見える化もできており、チームとして管理ができています。
完全に、一人の社員に頼らなくても良い状態ができているのです。
それに合わせ、T社長は、益々A氏の給与額の異様性を強く感じるようになっていました。変わらず管理者の仕事も全くやっていません。また、それは、周囲の社員にも明るみになっていました。
それどころか、最近では、ルールを破ったり、和を乱す言動が見受けられるようになってきていたのです。
こうなると、A氏に迫ることは、次の三つしかありません。
その①、給与に見合った仕事(役目)をしてもらう。幹部か部長を実際に担ってもらうしかありません。
その②、仕事(役目)に見合った給与に下げさせてもらう。良くできた営業担当としての給与水準にです。
そして
③会社を辞めてもらう。①か②に納得できなければ、この選択しかありません。
T社長から観て、A氏が、①の「給与に見合った仕事」ができるとは、思えません。現実的には、②の「仕事に見合った給与に下げる」になりそうです。
T社長は、矢田に訊きました。
「そう簡単に、給与を下げることなどできるのでしょうか?」
私は、「問題になることは無いでしょう。」と伝え、「まずは、A氏との面談の実施」を提案したのです。
その数日後、T社長から電話がありました。
「先生、彼の方から辞めたいとの申し出がありました。」
様子をお聴きすると、T社長が面談の場につくと、すぐに、A氏から退職の申し出があったとのこと。
「先生の予想通りになりました。」
A氏にも、この会社には自分の居場所がないことが、解っていたのです。最近の素行の悪さは、その表れだったのかもしれません。
そのため、T社長からしっかりした形での面談の申し出があった時に、何の話かは察しが付いたのです。そこは、プライドの高いA氏のことです、自分からの退職を申し出たのです。
数か月後の夜の会食の場で、T社長からその後のA氏についての話が出ました。
「先生、彼は、同じ市内で会社を起こしたようです。また、競合が増えてしまいました。」
そう言ってT社長は、グラスの口をつけます。
私は、答えます。
「T社長、それは仕方が無いことです。これからは、そんなことも無くなりますよ。」
過去のT社には、仕組みがありませんでした。すべてが個人の力で回っていた会社です。
そのため、「独立が出来てしまう」会社だったのです。それどころか、独立予備軍を育てていたような会社なのです。
いまのT社は、すべてが仕組みで回っています。分業で成り立っている会社なのです。
そのため、「独立できない会社」になっています。
T社長、その説明を私から「再度」させたかったようです。
満足げな顔で、私の話を聞いておられました。
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