No.497:仕組みは本当に必要なのか?手間が増えるだけでないか。
システムの受託開発事業F社が変革に取り掛かり半年が経ちます。
増える受注に対し、社内体制が追い付いていません。
F社長は、仕組みづくりを急いでいました。
「先生、どうすれば社員に仕組みづくりの重要性を理解させることができるのでしょうか?」
スピードある変革、そして、今後の飛躍のためには、なんとしても社員を仕組みづくりに巻き込む必要があります。
私はお答えしました。
「彼らがそれを理解することは無いでしょう。」
その答えにF社長はペンをとめ顔を上げます。
仕組みが我々に与えるものは『再現性』と『効率性』です。
再現性とは、「違う人が同じやり方をやれば、同じ結果が得られる」ことを言います。
この再現性があるからこそ、人に教えることができます。多くの人を雇い、そのサービスを量産することができます。
効率性とは、「無駄が無い」ということです。
逆に、効率が悪い状態とは「多くの無駄をやっている」ということです。
同じ作業でも、ある人は早く、ある人は遅いという差が生まれます。
早い人は無駄が無く、遅い人は無駄な何かをやっているのです。余計なことを考えたり、余計な動きをしたりしています。
会社組織においては、歩みを遅い人に合わせることはありません。一番早い人のやり方を標準とし、それを全員が出来るようにします。
仕組みがない会社とは、この再現性と効率性がない、という状態なのです。
再現性が無いので、社員を雇っても戦力化できません。いつまでも難しい業務は社長や一部の優秀な社員に残っています。また、改善も積み上がっていきません。
効率性が悪いので、生産性は低いままです。忙しい割に儲かっていないのです。給与も増やせず、社員も活躍できないため社員の入替わりが激しくなります。
その結果、ノウハウも顧客情報もお金も、何も残らない会社に成るのです。
この仕組みのメリット、すなわち必要性を社員と共有したいものです。
そして、彼らには、仕組化の発想を持って「業務中や問題が起きた時に仕組みづくりに向かってほしい」のです。
人を説得するときには、「メリット」と「ビジョン」の二つを用います。
仕組みをつくると自分たちに「どのような得があるか」を伝えます。それと「仲間を増やして、もっと多くのお客様を喜ばせよう」、「会社を大きくして、世の中を良くしていこう」と、その先にある目的や未来というビジョンを共有します。
しかし、実際には「はい!解りました」と社員が動き出すことはありません。
動いたとしても一部の社員だけです。その他多くの社員は、「はい」と答えるものの昨日までと同じ働きを続けます。
その社員の素養の問題もあるでしょう。また、社長への信頼残高が尽きた者もいるかもしれません。それ以上に彼らが動かない理由は、「何をどう動いたらいいのかが解らない」ところにあります。解らないから返事はするものの、動けないのです。
また、手間が増えると言って、一部の社員は抵抗感を示すことがあります。
「案件管理表にチェックをする」、「他の部署に伝票で依頼をする」など、確かにやることは増えます。仕組みには、それ以上のメリットがあります。しかし、その彼らには、それを前向きに捉えようという心構えはありません。だからビジョンを語るのです。
F社長は、それを矢田に相談しました。
「どうすれば社員を仕組みづくりに向かわせることができるのでしょうか?」
私は、「それはできない」と答えました。
その替わりに一つの提言をしました。
「さっさと仕組みをつくり、それを実際に回していきましょう。」
社員が本当の意味で仕組みの必要性を理解することはありません。
それは致し方が無いことなのです。いままで仕組みをつくったことは無いのです。
その恩恵を受けた経験も無いのです。いままでのF社は、それで十分回ってきたのです。
実際に導入してみることが一番です。実際にそれを体験させるのが一番なのです。
社長自ら作ったものを与えてやらせることも必要です。
理解のある一部の部署や社員のいるところから回すのも良いでしょう。(それが女性社員や女性スタッフであることは多い。)
協力を依頼し、動いてくれるところから『仕組みを入れて回してみること』です。
その際には『具体性』を忘れないようにしてください。「何をつくるのか」、「どのように使うのか」を具体的に示しながら進めるのです。
その際には間違っても「仕組みをつくってくれ」、「仕組みづくりに向かってくれ」という抽象的な言葉を使ってはいけません。冗談みたいな話ですが、こうして挫折していった社長は少なくないのです。
具体性がないから動けないだけなのです。
F社は、あれから更に1年が経過しました。
変革に取り掛かり1年半です。
F社長は、今の状況の報告をしながら感想を言われます。
「1年前まで仕組み無しで、どうやってきたのか全く解りません。奇跡的に回っていたのです。」
それは、社員も同じです。彼らも、その存在を当たり前のようにして、業務を坦々とこなしています。この間に3名の社員が「合わない」と言って去っていきました。その一方で5名の社員が新たに加わりました。彼らは、先輩に教わり短期間のうちに業務を回せるようになりました。
社員全員が仕組みの恩恵を受けています。
仕組みがあるおかげで誰かの指示を受けることなく業務を終えることができます。先輩社員が新入社員に教えることができます。問題が起きると皆で話し合って業務を改善することができます。定時で帰れることも多くなってきました。
F社は完全に変わったのです。
決算を待って、F社長は、給与制度の見直しと給与水準の引き上げを行いました。
売上は前年対比140%、生産性(社員一人当たりの稼ぎ)は1200万円を超えることが確認できたのです。
F社長は、「ひとつ懸念事項があります」と前置きをして言いました。
「社員が、自分達の力で稼いでいると勘違いしないでしょうか?」
私は答えます。
「それでいいのではないでしょうか。」
F社長は「そうですね」と膝を叩き笑顔で答えました。
仕組みづくりを進めましょう。
事業には、再現性、効率性が必要なのです。
また彼らに活躍してもらうためにも、仕組みが必要なのです。
彼らが本当の意味で仕組みの重要性を理解するのも、今の社長の考えと行動力のすごさを理解するのも、少し先になります。
ビジョンを胸に持ち、頑張っていきましょう。
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