No.539:顧客が社長に付く~属人性が高いビジネスからどう脱するのか~

№539:顧客が社長に付く~属人性が高いビジネスからどう脱するのか~

「先生、うちの最大の課題は、社員にやらせると契約が取れないことです。」
起業家支援サービスを展開するM社長からのご相談です。
 
M社長はこれまでに複数の書籍を出版し、業界でも高い知名度を誇る人物。SNSの運用にも長けており、セミナーは毎回満席の状態です。
 
しかし、課題はその「次の段階」にありました。セミナー後に実施される個別面談を社員に担当させると、なかなか契約に結びつかないのです。
 
社長が面談すれば成約率8割、社員がすると2割。まさに「人に依存したビジネス」の典型です。

「属人性が高いビジネス」とは何か


属人性が高いとは、「客が商品でなく“人”に付いている」状態です。その人の適切なアドバイスや対応力が支持されてしまう。または、その商品やサービスよりも、その提供者の人間力や雰囲気に惹かれて契約する。
業種に限らず、多くの中小企業がこの構造に陥っています。
 
・属人性が高まる要因
1:そのサービスの提供に「高いノウハウや対応力」が必要
2:誰かの魅力やカリスマ性が「売り」になっている
 
結果、特定の誰かに業務の知見や顧客の信頼が集中し、「その人がいないと成り立たない」ビジネスになってしまうのです。

属人性が高いビジネスの最大の問題


その人の替わりを出来る人はいません。売上が増えると共に、その人物が多忙になり、すぐにキャパシティの限界が見えてきます。そして、その人に何かあり、離脱した際には忽ち会社全体が立ち行かなくなります。
 
「その人(だいたい社長)の限界が、会社の限界になる」のです。これは、多くの年商1億、2億円クラスの企業で見られる実態であり、停滞の原因となります。
 
この規模で満足ならともかく、「引継ぎ」という問題は残ることになります。それだけの能力と人間力を持っている人材は稀です。仮に身内が継いでくれたとしても、その後継者が次の「属人性の中心」となり、多忙な日々とそのリスクを引き継ぐことになります。当然、M&Aの購入先として検討されることもありません。

属人性を脱する3つのステップ


では、どうすれば属人性の壁を乗り越えることができるのでしょうか。この問題を解決するためには、次の三段階で取り組むことになります。
 
ステップ1:人材を育成する
社長と同じように「社員が出来るようにする」ことを考えます。その社長の業務に出来る限りその候補者を同席させるようにします。また、日々その実行の様子を気にかけアドバイスをします。他には、研修を実施したり評価制度を導入したりします。
 
しかし、これがうまくいった会社を、私はほとんど見たことがありません。なぜなら、問題は「人」にあるのではないのです。その構造自体に問題があるのです。
人の育成に取り組む前に、次のステップ2に取り組むことになります。
 
ステップ2:仕組みを整備する
本当の取り組むべきことは、仕組みの整備です。案件の進行を可視化し、マニュアルを整備します。誰がやっても一定の成果が出るよう、業務の目的や背景、その判断基準から勘所までを言語化するのです。
 
冒頭のM社でも、まずこの取組みを行う必要がありました。現状のマニュアルを確認させて頂くとそれは「手順書」レベルのものでした。社長が持っている個別面談(営業)の考え方やそのノウハウ、その勘所は全くというほど表現されていなかったのです。
 
仕組みの整備により、成約率は大幅に改善されることになりました。2割の成約率がその3か月後には4割近くにまでなりました。
 
M社長はそれにより「事業の維持ができる」という一先ずの安心を得ることができました。しかし、その心が晴れることにはなりません。
自社の根本的な問題がそこに無いことに気づいていたのです。
 
ステップ3:事業自体の見直し
M社の真の問題は「仕組み」ではありません。真の問題は、事業モデルそのものにあったのです。
 
M社のサービスが、顧客から強烈に求められているわけではありませんでした。彼らには、そこに明確な「得られたい欲」や「解決したい問題」があるわけではないのです。彼らその顧客は、M社長の存在や発信力に引き寄せられてきていただけなのです。彼らにあるのは「M社長の側にいれば自分も変れるかも」という妄想だったのです。
 
M社の事業モデルは、「その相手に何とか動機付けし、顧客化してきた」のが現実なのです。明確な「欲(課題)」に対して、明確な「サービス」で惹きつけていない。
この一点に、M社の全ての問題が集約されているのです。その結果としての「属人性の高いビジネス」であり「低い成約率」なのです。

属人性を生む事業構造


これは業種を問わず、あらゆる会社に通じる構造であり課題と言えます。
士業やコンサルタント業はもちろんのこと、販促物製作業やシステム業でも同じことが言えます。
その会社の事業モデルに、明確な「欲(課題)」と「サービス」が無ければ、人の要素は高くならざるを得ないのです。「貴方だから買う」になるのです。この事業構造では、並みの社員では売れないのです。
 
いままでの年商数億規模までは、この「属人性」こそが武器でした。対応力・企画力・そして・社長の魅力。これは、社員で展開している競合他社には真似のできないことなのです。その結果、競合他社に勝ち、顧客の圧倒的な支持を得てきました。
 
しかし、このままではこれ以上先に行くことはできません。
お客様の中にある「欲、解決したい何か」に対して、「これがその答えです」と提示できるサービスを持つことが必要なのです。
それを「社長の代わり」にしなければなりません。

社長の代わりとなる新規ビジネスを立ち上げる


当然、そのサービス提供に人が関するものであれば、「人」の要素をゼロにすることは出来ません。営業担当者の魅力は必要になります。その営業担当者が少しは気に入られなければ、顧客は契約してくれないのです。
だからこそ「貴方だから買う」を極力減らすことが必要なのです。
 
年商数億まではそれを武器としてきました。この先に進むため、もっと会社を大きくするためには、事業モデルの変革が絶対に必要になるのです。
 
これこそが、属人性が高い事業モデルからの、本当の脱却になります。だからこそ、成果を出せる社員を量産し、事業を拡大することができるのです。
 
属人性の壁を越えるために、多くの社長が、「仕組みさえ整えればうまくいく」と考えてしまいます。しかし、それは半分正しく、半分は間違いなのです。
本当に必要なのは、「事業モデルの再構築」なのです。それは、「新規ビジネス」といったほうが正しい表現かもしれません。
 
そこには、問題を正しく認識することが必要です。
自社の本当の問題が、「人」なのか「仕組み」なのか、それとも「事業」にあるのか、です。
 
 
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矢田祐二
矢田 祐二

経営実務コンサルタント
株式会社ワイズサービス・コンサルティング 代表取締役
 
理工系大学卒業後、大手ゼネコンに入社。施工管理として、工程や品質の管理、組織の運営などを専門とする。当時、組織の生産性、プロジェクト管理について研究を開始。 その後、2002年にコンサルタントとして独立し、20年間以上一貫して中小企業の経営や事業構築の支援に携わる。
 
数億事業を10億、20億事業に成長させた実績を多く持ち、 数億事業で成長が停滞した企業の経営者からは、進言の内容が明確である、行うことが論理的で無駄がないと高い評価を得ている。
 
 

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