No.541:どうやったら組織はできるのですか?――組織構築に潜む間違い

住宅関係サービスを展開しているM社長が、事務所に面談に来られました。
粗利年商2億、社員数23名。
創業から15年、「感じがよい」と地元でも評判です。ご本人も、明るく実直で、人柄も申し分ありません。
面談の冒頭、M社長はこう言いました。
「先生、どうやったら組織ができるのですか?」
私はその一言に、静かに間を取りました。
この問いこそ、多くの中小企業の社長が、ある時期に必ずぶつかるものです。そして、実はその問いの立て方そのものが、間違っているのです。
組織とは「動いている状態」である
この質問、非常に答えるのに困る問題です。
なぜか。それは、組織が「機能」であり、「状態」だからです。
言い換えれば、組織とは「動いている状態」なのです。
多くの社長は、組織を「物」として捉えてしまいます。家具のように「設計図と部品さえあれば完成するもの」だと。
「役職を決める」、「評価制度を導入する」、「組織図を描く」
これらを整えたら、組織が“できあがる”と考えています。しかし、それは間違いです。
家具なら、組み立てれば完成し、以後はその役目を果たしてくれます。でも組織は違うのです。
組織を取り巻く環境も、構成メンバーも規模も変わり続けます。
その中で、「機能し続けている状態」が組織なのです。
組織とは、構造ではなく、「機能」なのです。「あるべき動き」が日々繰り返されていて、初めてそこに“組織があるように見える”のです。
機能していなければ、どれだけ立派な制度を揃えても、それはただの飾りです。逆に、それらが未整備でも、機能していれば、そこには立派な組織があるのです。
組織の機能:「変える」と「守る」
では、組織の「機能」とは何でしょうか。
この問いに答えられる社長は、意外に少ないのです。
組織の機能とは、次の二つです。
1.変える: 目的や目標に向かって、自分たちを変え、未来を創る力。
・こういう市場を取りに行こう
・3年後に年商10億を超えよう
これらを実現するために、自らの「あり方」や「やり方」を変えていきます。
そして、その過程を1年、1カ月、1週間というスパンで管理し、確実に実行していきます。これが組織の「変える」という機能です。
この機能がなければ、会社は現状維持の繰り返しとなり、やがて衰退します。
2.守る:経験と学びから獲得した仕組み(蓄積)を運営し、成果を出し続ける力。
・今後は、こういう方針でやっていこう。
・この手順がよさそうだ。
この決定事項や成功事例を蓄積し、再現性ある形に落とし込む。そして、社員がそれを正しく実行することで、安定して成果を得ることになります。
これが「守る」機能です。
この機能がないと、ノウハウは個人に依存し、誰かの退職とともにその財産が消え失せます。「また同じ失敗を…」という状態が繰り返されるのです。
組織内の役割分担:未来と日銭
この二つの組織の機能のために、組織内も大きくは2つに分かれることになります。
上に行くほど「変える」、下に行くほど「守る」の役割となります。
社長や部長という経営層と管理層の役割は、現状の課題を発見し、未来を描き、その実現のために組織全体を変えていくことです。
つまり「どこを目指すのか」「何を変えるのか」「何を捨てるのか」を決めることです。そして、それを組織に展開し、動かし実現していく責任を担います。
一方で、主任や一般社員といった現場の実行層には、「決められた方針やルールに則って、成果を安定的に出すこと」が求められます。
その際には、「正確に」、「速く」、「ムラなくやる」を実現します。その結果、会社は「日銭」を得ることができるのです。
時間の使い道:中間層は「未来」と「守る」が半々
それは時間の使い方に如実に表れます。
上層に行くほど「変える」ための時間が増えます。そのトップとなる社長は、その時間の殆どが「未来」のためになります。中間層である課長などは、その時間は「未来」と「守る」が半々になり、現場作業層は「守る」がすべてになります。
新入社員には、守ることを身に付けてもらうために「訓練」を提供します。
この役割分担が混同すれば、やはり組織はうまく機能することはありません。
・現場が勝手にルールを変えてしまい、混乱を起こす。
・社長が現場の細部にまで口を出し、未来を考える暇がない。
このような会社は、やはり問題が多くなり、成果も安定しません。
だからこそ、組織には「未来を変える人」と「決まったことを守る人」という分業が必要なのです。どちらが欠けても、組織は機能しません。
両方の機能が「日々動いている状態」こそが、組織が「できている」状態なのです。
組織構築とは、仕組みと運用で出来る
私は、M社長に確認をしました
「組織に、未来をつくる機能はありますか?」
M社長は、少し考え答えました。
「私一人だけです、管理者は全く機能していません。それどころか、私も現場に出ることが多く、経営的なことに時間が使えていません。」
私は次の質問をします。
「では、決めた方針やルールが残っていっていますか?」
M社長は、再び考え、首を横に振りました。
「口に出した瞬間に、全部消えていっています。当然、社内に正しく展開されることもありません。その結果、みんなバラバラのやり方をしています。」
私は、これから構築すべき仕組みについて説明させていただきました。
複数の仕組みを作り、それを運用することで、組織は「機能する」ことになります。
その「状態」をつくることが、組織構築になります。
M社長は最後に言われました。
「やっとスタートに立てた気がします。自分が未来を作り変えます。」
どこまでも男前のM社長です。
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矢田 祐二

理工系大学卒業後、大手ゼネコンに入社。施工管理として、工程や品質の管理、組織の運営などを専門とする。当時、組織の生産性、プロジェクト管理について研究を開始。 その後、2002年にコンサルタントとして独立し、20年間以上一貫して中小企業の経営や事業構築の支援に携わる。
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