No.531:属人化の解消 ~企業はどこまで属人性を排除できるのか~

№531:属人化の解消 ~企業はどこまで属人性を排除できるのか~

この日は、当社で開催している定期的なセミナーです。
 
最後の質問の時間、最前列の女性社長が手を挙げます。
「分業の大切さは解りました。しかし、分業を進めると、却って属人性は強くなるのではないでしょうか。」
 
素晴らしい視点です、そして、私の思考を拡げてくれる質問です。
 
分業により「担当者の専門性は高まること」になります。同時にそれは、企業にとって、その人が辞めた時のリスクを高めることを意味します。

年商数億から年商10億に進むその過程で、『量』が増えてきます。顧客、サービス、情報、スタッフとその数が増えていきます。その過程で、多くの企業はそのメリットを求め『分業』に取り組むことになります。それにより『属人性』の排除を進めます。
 
以下がその分業のためのステップになります。

分業を導入し、属人化を解消する最初のステップ


1.事業を作り直す:事業にクリエイティヴがあるために、分業の基盤となる仕組化が進みません。まずは、クリエイティヴを抑えながらも顧客に選ばれる事業に作り直します。
 
2.仕組化する:案件の見える化、情報の整理、そして、業務の標準化を行い、特定の人ではなく、誰でも出来、ノウハウが自社に残る状態を目指します。
 
3.管理の仕組みを作る:言い換えると「組織をつくる」になります。各部署が中心となり、自分達で目標達成と仕組みの改善のPDCAを回せるようにします。
このステップは、このコラムや私の書籍で何度もお伝えしてきた通りです。
 
そして、以下がその分業のメリットになります。
 
分業のメリット
専門性の向上
各部署や担当者をある分野や業務の専門に特化させます。それにより、問題解決や変化にスピードを持たせることができます。企業が「何か」に特化するように、部署や人も特化させるのです。その結果企業は「強さ」を所有することになります。
 
作業の効率化
組織の中の「ある業務」を一つの部署や担当に集めます。それによりその人は「段取り替え」が無くなり、纏まった時間をそれに割けるようになります。その一方で他部署ではその業務が無くなり、自分の業務により多くの時間を使えるようになります。
 
低度な業務をつくる
分業により難易度の低い業務を切り分けることができます。それらの業務は、短時間労働者や新規採用者、外注に任せることができます。企業としての人材活用(採用・配置)の幅が拡がります。またその業務をシステムで置換えることも検討します。その結果、総コスト抑制につなげることが出来ます。

属人化解消の取組みをここで止めてはいけない


これだけのメリットが分業にはあります。先日のセミナーでは、この説明に対して参加者から質問がありました。「分業すると却って属人性は高くなるのではないでしょうか?」素晴らしい質問です。
 
確かに、分業を進めると「その部署や担当は専門に特化し、情報やノウハウがそこに集中する」ことになります。その結果、より属人性が強くなる面があります。これは組織の宿命というものです。
 
分業がある程度進んでいる企業では、次のような取組みが行われています。近年、これらの取組みの重要性は特に増しています。
 
昔の企業は、設備がノウハウを持ち、設備が製品を製造していました。しかし、現在では、知識や技術が人の脳内にあり、人がサービスを提供する事業が主流となっています。そのため人が流出すれば、たちまちそのノウハウが失われることになります。
 
そのため、「属人化を解消する」取組みをここで止めてはいけません。企業は、更に属人化のリスクを抑える取組みを進めていく必要があります。

脱属人化のために更に取り組むこと


1.システム化する
そのノウハウを設備やシステム、AIに置き換えます。多くの現場では人間不要となり、属人性が排除されることになります。その一方で、社員の多くはその設備やシステムが何をやっているのか解らない状態になります。その結果、それが使える極少数の社員にその超専門性の高い業務が集中することになります。その少数の人員が退職するというリスク回避を企業は本気で取り組む必要があります。
 
2.一つの部署の人数を増やす
部署や担当に複数名の人を配属し、その専門性の高い業務を複数の人ができるようにします。同様の技能を持つメンバーが業務をカバーできることでリスクを大幅に下げることができます。
 
この取組みをするためには、「事業を更に大きくすること」がセットになります。それだけの儲けがあるから、複数名を一つの業務に付けることが出来るのです。
 
3.人が辞めない会社にする
社員(特に優秀な社員)に働きがいを与えることで、彼らを自社に留めることができます。高い定着率があるからこそ、会社にノウハウが蓄積され、競争力を持つことができます。「人は辞めること」を前提とし「システム化」や「複数名の担当制」をしながらも、企業はこのテーマに本気で取り組むことになります。
 
4.人材の層を厚くする
優秀な人材を数多く保有している会社、または、社員の平均レベルが高い会社は、やはり特定の人材の退職に早期に対処することができます。当然混乱はしますが、2次被害は最小限になります。また、時間を置かず次の人材が頭角を現すことになります。
 
5.人材の採用力をつける
予期せぬ退職があったとしても、募集を掛ければ短期間で採用できる会社にします。経営者の「ある程度の人材はすぐに採用できる」という自信は、過度な人材流出への恐れを抑える効果があります。
 
6.適度に外注業者を使う
外注業者を使うことで「ノウハウの分散」を計ることができます。社員が辞めても、外注がサポートしてくれます。また、外注を使う過程でその分野の仕組化は進むことになります。
 
7.その間に属人性の低いビジネスを立ち上げる
その間に新規ビジネスを立ち上げます。次に立ち上げるビジネスは、年商30億、50億、100億を狙えるものです。その規模になれば、自ずと『属人性』は排除されることになります。中堅規模の領域に入るのです。

まとめ:根本的には良い会社にすること


企業が成長する過程で分業を進めると、各部署や担当者が専門性を高め、業務の効率化や専門性の向上が起きます。一方で、特定の人材に依存する属人化のリスクは高まることになります。また、世の中全体に優秀な人材というのは本当に少ないものです。
 
それゆえに対策の手をここで緩めてはいけません。先に挙げた会社全体の改革レベルの取組みに向かうのです。
 
どんな会社もその属人性をゼロにすることはできません、それどころか今の時代のビジネスでは、そのリスクは高まるばかりです。根本的には良い会社にするということです。人が辞めない、人が集まる、人が働きたいという会社にするのです。それが根本的な脱属人化対策になります。
 
 
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矢田祐二
矢田 祐二

経営実務コンサルタント
株式会社ワイズサービス・コンサルティング 代表取締役
 
理工系大学卒業後、大手ゼネコンに入社。施工管理として、工程や品質の管理、組織の運営などを専門とする。当時、組織の生産性、プロジェクト管理について研究を開始。 その後、2002年にコンサルタントとして独立し、20年間以上一貫して中小企業の経営や事業構築の支援に携わる。
 
数億事業を10億、20億事業に成長させた実績を多く持ち、 数億事業で成長が停滞した企業の経営者からは、進言の内容が明確である、行うことが論理的で無駄がないと高い評価を得ている。
 
 

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