No.530:店舗型ビジネスの成長戦略 ~その構築の手順~

この日は、私が主催する会でK社を視察しました。
そこは、駅前にあるビルの中にあります。室内にはシャープな家具があり、おしゃれな調度品がいくつか置いてあります。
福祉関連の事業を行っているとは思えない雰囲気に、参加者約20名は一様に驚いています。
十数名のきびきび働く社員を背にしてK社長は言われました。
「ここが本部機能です。」
その横に立つ幹部が頷きます。
店舗型ビジネスの構築手順
店舗型ビジネスの構築も、他のビジネスと同様の順番になります。
それは「事業 → 仕組み → 組織」です。この順番を守ることで、スムーズに成長展開することができます。そして、スピードを持って年商を伸ばすことができます。『一つのパッケージを横展開するという店舗系ビジネスの特性』から、他のビジネスに比べ、社長は早期に「金持ち」になることができます。
事業:必勝パッケージの作成
まず元となる1店舗目をつくる必要があります。その店舗は誰かに必要とされています、そして、競合よりも選ばれています。
「ある条件下での立地」で成り立っている必要があります。店舗系の経費の大部分は「家賃」と「人件費」、そして業態により「材料費」や「仕入費」が掛かってきます。それらと客単価とその回転率の関係です。その結果により利益が出せること、その成り立つバランスを見つけることが必要となります。
一つ目の「型」ができれば、量産に移ることができます。
【事業に問題があると起きる現象】
・サービスの提供にクリエイティヴが必要で、「優秀なスタッフ」が必要。
・競合との差別化ができていないので、広告費が膨大になる。
・スタッフ一人当たりの稼ぎが低く、利益が出ない。出店の回収に時間が掛かる。
仕組み:店舗とスタッフの量産
事業ができると次は仕組化です。誰でも同じレベルでサービスを提供できる必要があります。そのためにすべてを標準化していきます。
「予約はどのように受けるのか」、「スタッフの接客はどうあるべきか」それらをマニュアル化し、そして、全員がその通りにできるように訓練プログラムを整備します。
また、店長を量産するために仕組化をします。「店長の役目は何か」そして「具体的に何の仕事をするのか」を定めます。
店舗の量産と共に、店長とスタッフの量産をしていくのです。それにより、安定したサービスの提供と早い展開(採用と短期での戦力化)ができるようになります。
【仕組みに問題があると起きる現象】
・個々のサービスに差があり、スタッフごとの売上に大きな差がでる。
・採用したスタッフの戦力化に時間がかかり、その期間の人件費が重い。
・能力の低い店長や未熟な店長の店では、売上ダウンと離職者増に直結。
組織:本部機能の獲得
そして、最後に構築するのが本部機能です。本部は「店舗を量産する」、「スタッフの採用と戦力化」、そして「仕組みづくりと運営」を担います。本部機能があるからこそ、スピードある変化と展開が可能になります。
4店舗という規模までは社長一人で管理することが出来ます。しかし、5店舗、6店舗と増やしていくと、徐々に社長の目が行き届かなくなります。ある店舗で問題が起き、そこに社長が関わっていると、他の店舗で問題が起きます。そしてそっちに行くとこっちの問題がと、モグラたたき状態になります。
ここで社長には大きな意思決定が必要になります。「本気で大きくするのか」それとも「今の規模のままでいくのか」。前者であれば本部機能が必須になります。中途半端は許されません、店舗数が5、6では本部の固定費が重いのです。まともな本部を持つためには最低でも10店舗は必要になります。「大きくすること」を決めたのであれば、本部すなわち組織をつくることになります。
【組織が出来ていないと起きる現象】
・社長は益々忙しくなる。売上を伸ばすと混乱というサイクルを繰り返している。
・各店舗が其々に進化をし、バラバラな業務のやり方をしている。
・一人当たりの生産性が落ち始める。採用と育成のコストがかさむ。
「事業 → 仕組み → 組織」と、店舗系ビジネスの構築もこの順番になります。この順番を守ることで大きな展開が可能になります。
福祉系店舗ビジネスK社の成長と取組み
冒頭のK社も正にこの流れでした。報告資料の数字を、了承を得てそのまま転記しています。
8期0.7億、9期1.2億、10期1.5億、11期1.5億・・・4拠点
(構築に取り掛かり展開に移ります・・・これ以降年に3、4店舗の出店ペースに)
12期2.6億、13期4.1億、14期6億、15期9億
(そして年商10億超えです)
16期11億・・・これが今期です。
そして、来期は確定で17期13億予定(更に新規出店があれば上振れ)
店舗系ビジネスは、出した分、売上が伸びます。出した分、利益が出ます。
くどいようですが、「スタッフの生産性が高く、一つの店舗で利益が出せている」、「仕組みで全スタッフのサービス品質のバラつきが抑えられている」、そして、「本部が機能しており、仕組みの運営と改善をしている」からこそ、この展開ができるのです。
K社長は、非常に優秀です。
私が基本的な考え方と大まかな仕組みのつくり方を説明すると、K社長は「解りました」とだけ答えます。それほどの質問も無いので、私は不安になります「え、本当に解ったんですか?」。K社長は無駄話もなく颯爽と去り、すぐにそれに取り掛かります。
この「モノの本質を掴み、それをすぐに実行に移し、形にしていく力」が凄いのです。(この力を一言で表現したいのですが)
※私のクライアントだけ理解できることですが、K社長は「コンサルティングの内容(構築)を約4か月」で終えました。
本部に必要な人材
そんなK社の視察です。K社長の報告に対し、参加者20名から次々と質問が出ます。時間一杯まで続き、最後に事務所を見せていただきました。
そこは、しっかりしたオフィスです。十数名のスタッフが其々の机で大きなモニターに向かい、テキパキと働いております。緊張感のある空気が流れています。
私はK社長の横に立つマネジャーに御聞きしました。
「ここに福祉上がりの人は何人いますか?」、少し考え「二人です。」と答えがありました。
本部の機能からすると、その業界やその職種の人でなければいけないことはありません。それどころか、適性の有無や調達のしやすさから、そうでない方のほうがよいのです。K社長は、本部のそのポジションにどんな人材が必要かで、人を調達してきたのです。そのマネジャーは「飲食の本部で働いた経歴がある。」と返しました。
2度の事務所移転
私は思い付きでお願いをしました。それを受けてK社長は、そこに居る全員のスタッフに自己紹介(受け持ち)と一言を振りました。
20数名のイカツイ他社の社長の視線が向けられる中、全員がしっかり自分の言葉で話されるのです。それにも一同は驚きます(小規模企業では、なかなかそんな社員はいません)。
管理部のトップの女性は「創業当時にパートで入社して、今があります。」と言われました。スタッフの採用育成部署の管理者は「採用について任せてもらっており、楽しいです。」と言われました。
そして最後に、店舗運営の責任者は「会社がどんどん成長していく、その中で自分の仕事もどんどん変わっていく。それが大変ですがうれしいです。」と。
それら社員の言葉を聞いているK社長の目が少し潤んでいます。
K社は、改革に取り掛かった5年前から2回の事務所移転をしています。当初は駅から離れたぼろい雑居ビルの一室でした。そして2年前に駅近いオフィスビルに移転しました。そして、半年前にこの駅前の大型ビルのワンフロアに移ったのです。
社員のやりがい:会社がどんどん成長していく
自分の毎日通うオフィスがどんどんきれいになっていきます。働く仲間もどんどん増えていき、そして、その人としてのレベルも上がっていきます。こんな会社の成長の関われることなどそうはありません。K社の社員は正にそれを体験しているのです。そこで彼らも成長していきます、自分の手によって会社を成長させている実感があります。
K社長は、店舗運営の責任者の言葉を補足します。
「彼女が新規店舗の立上げを担当しました。」
参加者からは「おお!」という声があがります。
それはK社長の報告の中であった新店舗であり、K社にとっては最大規模であり、これから展開するパッケージとなるものです。その立上げは大きな問題もなく、社員の手によって全て行われたと聞いていました。そして、K社長はそのオープン時には、次のビジネスの調査のためにタイに出張をしていました。
まとめ
・事業ー仕組みー組織、このビジネスの基本は原則です。店舗ビジネスにおいても例外ではない。この獲得なしでの店舗展開は有り得ない。
・そして、店舗展開を始めるとまた大きな問題が起きる。その時に組織により、社員の手によりその問題が解決されていく。
・事業が大きくなる裏で、社員も成長し、働きがい、生きがいを得ることになる。事業ー仕組みー組織ー社員の成長と幸せ、この順番である。
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矢田 祐二

理工系大学卒業後、大手ゼネコンに入社。施工管理として、工程や品質の管理、組織の運営などを専門とする。当時、組織の生産性、プロジェクト管理について研究を開始。 その後、2002年にコンサルタントとして独立し、20年間以上一貫して中小企業の経営や事業構築の支援に携わる。
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